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悪人面の魔王でも友達になってくれますか?  作者: 梅三六角
第三章 ハニートラップは毒の味
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奴隷希望の女騎士

 魔王の城玉座の間。いつも通り、俺はここで玉座に腰掛けていた。そして、玉座の間の扉を開けて入ってきた一人の女騎士と向き合っていた。


 女騎士と言えば凛とした気高い女性のイメージがあるが、目の前にいるのは自分よりも明らかに年下に見える少女だ。金色の髪で、首筋までかかるショートボブ。まだ幼いブラウンの大きな瞳。それらの可憐な容姿とは不釣り合いな西洋の鎧と、剣を手にしている。


 俺は少女の口から言葉が出てくるのを待っていた。そして、少女は俺の前に出て、唐突に口走った。


「私を!あなたの奴隷にして下さい!」


 確かにそう言った。


「ええええええええええええ!?」


 予想外の言葉に俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。


■■■


 時は数刻前。 王国ノエルでは大変な騒ぎになっていた。何しろ、この国の王子、ケヴィンが魔王に殺害されてしまったという報せが回ったのだ。ギルドでは魔王の宣戦布告なのではないかという話になり、討伐クエストが緊急クエストに格上げされ、冒険者達が次々と集った。

 

 今日も数々のダンジョンを潜りぬけて魔王の城までやってきた冒険者達が10名程来ていた。


「とうとうここまで来たな。」


 先頭に立つ、一団のリーダーらしき白銀の鎧をまとった男が言う。金髪でいかにも優男といった風貌だ。


「でも、本当にこのまま乗り込んで大丈夫かな。魔王の城なんだし、もっとたくさんの人で入った方が良いんじゃないかな。」


 不安そうに言うのは、チームの紅一点となる女騎士だ。


「もう、クレアは本当に心配性ね。そんなあなたに特別にこのお守りをあげるわ。」


 そう言ってクレアと呼ばれた女騎士に髪飾りをやるのは、黒髪長髪で魔導師風の男だ。

 

「ありがとう、デリー。」

「なに、大事なメンバーのためならこれぐらい良いってものよ。」


 デリーは胸を張る。


「十人もいれば大丈夫だって。それに、ここまで来る間のダンジョンは全然大したことなかった。魔王の城だって、同じことだろう。」


 別の大斧をもった男が言う。


「でも、アビリティをもったケヴィン王子がやられたって話だよ。」


 眼鏡をかけた気弱そうな少年が浮かない顔で言う。


「そうだとしても、大人数でいっぺんにかかれば魔王だって倒せるはずさ。」


 大斧を持った男は少年と対照的に自信たっぷりに言う。チームの意見はみんなバラバラだ。


「何にしてもだ。ここまで来たらもう引き返すわけにはいかない。乗り込むんだ。だが、決して油断はするな。」

「はいっ!」


 リーダーの鶴の一声で意見はまとまった。一同が近付くと、魔王の城の扉は風もないのに一人でに開いていく。全員唾を飲み込むと、一歩城の中に踏みいれた。


■■■


 魔王の城、つまりは俺の城の中。


「そうですか。魔王様もアビリティを使えるにようになりましたか。」


 俺は前回の戦いで半ば無意識に使ったアビリティをマチルダに報告していた。


「いったい、あれはどういうアビリティなんだ?」

「言ってみれば、魔力を物理的な力に変換するアビリティですな。神通力として少し離れた場所に打撃を与えたり、慣れてくれば斬撃に変えたりもできるでしょう。」

「それは、強いアビリティなのか?」

「いろいろと応用が効きますゆえ、強い部類でしょう。」


 今まで魔王でありながらアビリティがない有様だったが、これでようやく魔王としての威厳も出てくるというものだ。ちょっと良い気分だ。


「それより、だ。アリスやケヴィンを死なせてしまったこの状況、ノエルの者も黙ってはいないだろう。警備は大丈夫なのか?」

「ノエルからこの城までのダンジョンには、まだ準備不足な場所もあります。ですが、この城に限って言えば、新しい罠や魔物を用意致しましたので、概ね万全です。」

「ほう?してどのようなものだ?」

「入口付近には釣り天井の罠があります。さらに、宝箱の前に落とし穴。別の場所には宝箱に見せかけた怪物ミミック。暗い部屋の天井に巣くっている吸血蝙蝠の群れ。間違った鍵を入れると矢の束が飛んでくる扉。踏むと爆発する床。石像に化けることができるガーゴイル。極めつけは、魔王様のお部屋の付近を護っているミノタウロスですじゃ。」


 随分と手の込んだ仕掛けをしたものだ。これらは今回新規に追加した罠だ。それらに加え、ダンジョン内に仕掛けられた既存の罠や魔物達も存在する。それらを掻い潜って来られるなら、余程実力があるか、運が良いかのどちらかだろう。


「丁度城内に侵入者があった模様です。まずはここまで来られるか、実力拝見といきましょう。」

「そうだな。」


 俺は腕を組み、玉座に腰掛けてこんな罠だらけの城にやってくる勇者達を心して待つことにした。


■■■


「遅いな。」


 侵入者が来たと報告を受けて早一時間が経過した。もしや全滅したか?


「最近の冒険者は数さえ多ければ勝てると思っているアホばかりですからな。途中のダンジョンまではそれでも良かろうが、この魔王城では勝手が違います。それが分からなければ、全滅もあり得るでしょう。」


 マチルダが説明してくれる。実際その方がわざわざ実力もない相手と戦わずに済むから手間が省けるというものだ。


 もう来ないなら、さっさと引き上げて飯にでもするか。俺がそう言おうとした瞬間、玉座の間の扉が開かれた。中に入ってきたのは一人の女騎士であった。真っすぐに瞳で俺の姿を捉えながら、近くまで歩いてくる。


「あなたが、魔王ですか?」


 幼いながらもしっかりとした口調で話しかけてくる。


「いかにも、私が魔王だ。」


 俺は頷き、そう答える。ここまでやってくるということは、見た目に寄らず相当の実力者と見た。


 次の瞬間には剣を抜いて勝負を挑んでくることだろう。油断してはならない。少女の次の行動を待ちわびる。すると、少女は突然俺の前に来て言った。


「私を!あなたの奴隷にして下さい!」


 確かにそう言った。


「ええええええええええええ!?」


 予想外の言葉に俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。この娘は一体何を言っている?今、奴隷と言ったのか?


「じゃあ、何か?お前は私の奴隷になるために数々の罠や敵を乗り越えてやってきたというのか!?」

「逃げ脚だけは自信がありますので。というわけで、奴隷にして下さい!」


 深々と頭を下げる少女。


「このように言っていますが、どうされますか、魔王様?せっかくですし…」

「いや待て。」


 マチルダの提案を制止する。正直に言えば、このような少女を奴隷にするという展開に全く浮かれないと言えば嘘になる。だが、慎重にならなければならない。

 

(アリスの前例もあるしな……)


 俺は注意深く少女を見据える。


「その前に、いくつか質問に答えてもらっても良いかな?」

「はい、私にできることでしたら!」

「お前はここまで一人で来たのか?」

「いえ、お城には十人で来ました。それが、お城に入ってすぐのところで一人は釣り天井に潰されて、宝箱を取ろうとした人は落とし穴に落っこちて、別の宝箱を取ろうとしてた人はミミックに食べられて。ガーゴイルに襲われてやられちゃった人もいるし、私も吸血蝙蝠に襲われてもう少しで死ぬところでした。」


 何から何まで引っかかってくれてちょっと嬉しい。マチルダを褒めなければな。


「それで、お前一人でここまで逃げてきたというわけか。他のメンバーは知っていたのか?お前が奴隷志望だということを。」

「言ってなかったから、多分知らないと思います。」

「そりゃ、そうか。」


 これだけではどうも少女の真意が分からない。もっと質問してみるか。そう思って顔を上げて少女の方を見ると


「ミノタウロス!?」


 逃げた少女を追ってきたのか、いつの間にか少女の後ろに大斧を持ったミノタウロスが来ていた。


「えっ?」


 少女は何の気もなく振り返り、そして青ざめる。


「あ…あ…」


 少女は固まって動けない。俺は神通力を飛ばすと、ミノタウロスが振り上げた斧を吹っ飛ばした。ミノタウロスは呆気にとられる。


「この少女は攻撃しなくて良い。持ち場に戻れ。」


 俺が命令すると、ミノタウロスはしぶしぶといった感じで部屋を出ていく。


「やれやれ。」


 俺が少女の方に向き直ると、少女は倒れていた。試しに近づいて頬を抓ってみるが、反応はない。ハニートラップでも仕掛けに来たというのなら、あまりにもお粗末だ。もし、今俺がミノタウロスを止めなければ、殺されていたのだから。俺を油断させる作戦にしては、穴だらけ、かつ無防備すぎる。


 俺は考える。


「では、こういうことか?この少女は正真正銘、本当に私の奴隷になるためにここまで来たというのか?」


 何でも言うことを聞いてくれる奴隷、即ち友達になってくれと言えば聞いてくれるかもしれない。それでも、いざこのような状況に直面するとどうすべきか悩んでしまう。俺はマチルダの方を見る。


「武器か何かを隠し持っていないか調べてくれ。仮に武器を持っていたとしても、今なら気絶しているから大丈夫だろう。あと、鎧は取って、後はアリスのために用意したドレスでも着せておいてくれ。」

「はあ。承知致しました。」


 マチルダと共に別部屋に移動しながら、恐らく武器なんて出てこないだろうなと半ば確信していた。

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