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悪人面の魔王でも友達になってくれますか?  作者: 梅三六角
第二章 魔王、姫君を攫う
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アビリティ覚醒

 燃えている部屋の床が砕けて下の階に落ち、瓦礫に埋まって火は消えた。玉座のある部屋の一つ下はダンジョンになっている。しかし、ケヴィンが玉座の部屋に来るまでの間に魔物を倒してきたため、今はこの階に魔物はいない。


「しまった!剣はどこにいった!?」


 ケヴィンは瓦礫だらけになった床の上を必死で探している。


「探し物はそこだ。」


 俺はケヴィンの横で柄の部分まで燃えている剣を指さす。


「そ、それはっ!!」


 ケヴィンは驚愕に目を見開く。


「どうやら、お前のアビリティが有効なのは武器に触れている間だけのようだな。一度手を離すと、炎の制御はできないと見た。しかも、さっき撒いた油が、剣を手離している間に付着してしまったようだな。」

「くそっ!消えろ、炎!」


 ケヴィンが念じるが、剣が炎で持てない以上消しようがない。


「万事休すだな。」


 俺が近付こうとした時、


「俺を舐めるな、魔王!」


 ケヴィンが燃えている剣を持ち上げた。そのまま俺に向けて振りかざす。


「おい、止めろ!手が焼け爛れてしまうぞ!」

「構うか!アリスを助けるためなら、これぐらい!」


 ケヴィンはすぐに炎を制御して剣の持ち手の炎を消す。しかし、それでもかなりの重傷らしく


「うぐっ!」


 痛みに一瞬隙ができた。その隙を逃さず、俺は相手の剣を爪で挟む。


「馬鹿め!丸焼けにしてやる!」


 ケヴィンの炎が俺の爪から燃え移る。


「丸焼けがどうした!?お前にできて私にできないことがあってたまるか!」


 俺は自分の手に火が付くのも構わず、もう片方の手で相手の腹から思いっきり拳を突き上げる。


「ぐぉっ!」


 ケヴィンはまともに受けて口から血を噴き出す。続けざまに回し蹴りを放つと、ケヴィンは勢いよく吹き飛び、部屋の隅の壁に激突する。そのまま壁から落ち、咳き込んでいる。


「くそぅ…!!」


 ケヴィンはなおも立ち上がる。その間に俺は自分の手に付いた火を吹き消した。


 俺は確信した。こいつのアリスに対する想いは本物だ。でなければ、ここまでの無茶はできやしない。俺は一息吐き、そして


「良いだろう。アリスは返してやる。」

「なにっ!?」


 俺の唐突な申し出にケヴィンも驚く。


「お前の根性には参ったよ。よっぽどアリスのことが好きだったんだろう?私の負けだ。」

「ふ、ふん。魔王が何を物分かりが良いことを。」


 ケヴィンは強がってはいるが、こちらをこれ以上攻撃するつもりはないようだ。


「だがしかし、油断はしないことだ。私はこれからも悪事を続けるだろう。」

「ああ、望むところだ。お前が悪さをするなら、何度でも倒しに来るさ。」


 ケヴィンは腕を組み、その表情には僅かではあるが、楽しんでいるようにも見えた。


(会った時には気に食わん奴だと思っていたが、案外話の分かる奴だ。こういう奴は嫌いじゃないな。)


 俺がそう考えていると、ひびが入る音と共に、何かが砕けていく音が聞こえる。


「な、なんだ!?」


 ケヴィンが上を見上げた時にはもう遅かった。崩れかけていた床、つまり、この階から見れば天井がケヴィン目掛けて落ちてきていた。


「うわああああああ!!」


 ケヴィンが叫ぶと同時に、彼は落ちてきた天井の下へと消えた。

 

「ケヴィン!!」

 

 俺は瓦礫の下に寄るが、そこからは血が滲み出てきた。そのまま立ち尽くす。


「馬鹿なっ!?」


 俺はふと、先程から静かになったアリスの方を見ると


「よくも……」


 アリスが呻くように呟く。

 

「むっ!?」


 ただならぬ気配にアリスの方に目をやる。

 

「よくも私の夢をぉぉっ!!」


 アリスが絶叫すると共に、床一面が氷漬けになる。俺は驚愕したが、アリス自身も信じられないといったふうに自分の両手を眺める。


「これは、アビリティ!?」


 俺が口にすると、事態をようやく理解したらしいアリスが肩を震わせ、やがて

 

「あははははは!!」


 突然笑い出した。

 

「正気か、アリス!?それに、こんなアビリティを隠しもっていたのか!?」

「いいえ、私は今の今まで何のアビリティももっていなかった。だけど、あんたにケヴィンを殺されて覚醒した。実にラッキーよ。」

「待て!さっきのは事故だ!」

「喚いていなさい。」

「くそっ!」


 俺はアリスに飛びかかろうとするが、体が思うように動けないことに気が付く。足下がいやに冷たい。足元を確認すると、俺の足首ぐらいまで凍漬けになっていた。


「し、しまった!」


 俺が身動きが取れないのを確認して、アリスはにやりと笑う。

 

「爪を伸ばしたところで攻撃範囲はせいぜい一メートル前後。これで私は反撃されることもなく、一方的にあんたを倒せるってことよ。」


 アリスの周囲から槍のように先端が尖った氷ができあがったかと思うと、こちらにまっすぐ飛んでくる。俺は刺さる前に拳でそれを薙ぎ払う。


「腐っても魔王ね。でも、いつまでもつかしら?」


 アリスは二つ、三つと氷の数を増やしていくと、次々にこちらに放ってくる。俺は辛うじて殴り払うが、さすがに数が多いときつい。腕や肩に既に氷が掠って血が滲んできている。このままではこの氷が俺の体を貫通するのは時間の問題だ。だからといって、足が凍っているのでは相手の元まで行くことができず、アリスの言うとおり反撃が一切できない。


「お前がケヴィンのことを大事に想っていることは十分に伝わった!だが、私にはケヴィンを殺すつもりなど毛頭なかったのだ!信じてくれ!」


 懇願する俺をアリスは鼻で笑い、


「何勘違いしてるの?あんな奴のこと、どうでもいいわ。」


 俺は耳を疑った。


「お前は、ケヴィンのことが好きで付き合っていたのではなかったのか!?」

「あんな女たらし、好きになる女の顔が見たいわ。王室に入って一生贅沢をする夢を叶えるために仕方なく付き合っただけよ。

 あんたにケヴィンを殺された時は、その夢が潰えたかと思ったわ。それが、ケヴィンを殺された今になってアビリティが覚醒するなんて、神様はやっぱり私の味方のようね。

 ここであんたを殺せば、それを土産に王室での地位を手に入れられる。そのチャンスをくれたんだもの。」


 アリスは槍をどんどん放つ。俺もなぎ払うが、さすがに腕が冷たくなってくる。俺の頭の中には、アリスを助けるために必死で戦っていたケヴィンの顔が思い起こされた。


「確かにあいつは、女たらしでいい加減な奴だったかもしれない。だが、お前に対する想いが本物であることはお前自身も見たはずだ。それを全て踏み躙るというのか!?」

「馬鹿言わないで。あんな奴の好意に何の価値があるって言うのよ?むしろ死んでくれて丁度よかったわ。私の夢だけ叶えばそれで十分だもの。」


 予想の斜め上を行く答えを返してきた。アリスは氷の槍を4本同時に作り出す。

 

「軟弱なのよ。あんたもケヴィンも。あの世でせいぜいパパとママにでも慰めてもらうのね。」


 槍が俺に向かって放たれる。


「俺だけに留まらず、ケヴィンのことまで貶めるとは、絶対に許さん!!」


 俺の手に、さっきと同じ、得体の知れない力が渦巻き始める。


 俺が手を前に突き出すと共に、衝撃波が放たれると、飛んできた槍が吹き飛んでアリスの周囲の壁に突き刺さる。どういう原理かは分からない。神通力のようなものだろうか。何にせよ、突破口はできた。


 アリスが呆然としている間に、俺は両拳で足元の氷を殴りつけて砕く。我に返ったアリスが再度こちらに放ってきた槍を、全て神通力で弾く。そのまま、アリスのすぐ近くまで接近する。


「くっ!」


 アリスは氷の槍を手に持ち、こちらに斬りかかる。振り下ろされる直前で、俺は爪で氷を切断した。間髪入れず、アリスの首を掴んで締め上げる。


「女に手を上げたくはなかったが……、このまま気絶させて身代金をとってやる!」


 アリスは苦しみながらもこちらを睨みつけ、口の中で何かを呟いている。

 

「あんた…に……」


 異様な雰囲気に俺は警戒し、様子を見る。

 

「あんたに利用されるぐらい…なら………道連れにしてやる……!」


 そこで俺は初めて気が付いた。俺達の頭上いっぱいに、氷の塊が作られていた。いつの間に作ったというのか。


「余計な事を……!」


 俺はアリスを振り放すと、上空の氷の塊に向かって数発神通力を放つ。俺の掌から出た力は、氷の塊に向かい、ヒビを入れる。そのまま連続で命中させると、氷の塊はとうとうヒビ割れ、空中で砕け散った。しかし、巨大な氷の塊は砕けても一つ一つが庭石ぐらいの大きさがあった。


「ぐわあああああああっ!!」


 俺達は氷の瓦礫の下へと沈んで行った。

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