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悪人面の魔王でも友達になってくれますか?  作者: 梅三六角
第一章 何が正義で何が悪か
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天涯孤独の悪人面

 俺の両親は、物心が付いた時には既にいなかった。俺は他に身寄りもなく、施設育ちである。孤独である年月は長かったが、だからと言って慣れるものではなく、常に俺はそれに怯えていた。

 

 だから、いろいろ努力はした。学校では、朝クラスメイトに大きな声で挨拶をした。ゴミ捨て等の人が嫌がる仕事は進んで引き受けた。忘れ物をして困っているクラスメイトを助けようと声をかけたりした。

 

 にも関わらず、俺には友達というものはとうとうできなかった。何故か?あくまでも俺の推測に過ぎないが、答えは一つ。

 

 俺の顔が怖いからだ。

 

 それもそのはず。眉、目、共に吊り上がっており、さらに左目は右目よりも細くアンバランスで常に睨んでいるように見える。髪の毛は生まれつき金髪、更に癖毛なせいでツンツンに立っている。現にクラスメイトは俺に声をかけられれば例外なく早々に立ち去る。目が合おうものならすぐに逸らされる。

 

 それでも、普通に生活する分にはまだ良かった。だが、ある日とうとうミスった。暴力事件を起こしてしまったのである。

 

 同級生達が、俺が全く知らない下級生の女の子の私物を盗ってからかい、苛めていたのである。最初は説得して止めさせようとした俺だったが、向うから先に手を出してきたため、反撃した結果相手全員に怪我を負わせてしまった。

 

 下級生の女の子は、顔は覚えていないし、その後どうなったか知らない。俺の方はというと、暴力事件が俺が一方的に同級生に乱暴したという話に置き換えられ、危険な奴ということですっかり苛めの標的とされることになった。危険な奴、即ち魔王として扱われた。俺の容姿が容姿なだけに捏造話を誰も疑わなかったし、俺を魔王として苛める行為にクラスのほぼ全員が盛り上がった。

 

 彼らは教科書に落書きしたり、物を隠したり、頭の上から水をかけたり、服を汚したり、殴ったり、蹴ったり、大勢なのをいいことにいろいろなことをやった。友達なんかいない俺に、助けてくれる者などいやしない。

 

 そして、最終的には剣術の稽古の時に集団で殴られたのが原因で、気が付くとあの世だった。あの世を彷徨いながら俺は思った。次に生れる時は、もっと善人の顔で生まれたい、それが不可能なら、人間達を屈服させ、友達にできる強い力が欲しいと。


 ■■■


 俺の名はルイ・アントワール。享年17歳。


 来世へ行く前に少しだけ、俺がいたはずの世界を振り返っておきたい。

 

 この世界は平和だ、と俺は思っていた。俺のように学校に通っていた子供もいる。畑仕事をしている者もいる。街へ行けば市場だって出ている。武器や防具を作り、商売にしている者もいる。街の中を馬車が行き来している。そこかしこに日常がありふれていた。


 日常、とはちょっとかけ離れた話になるが、この世界には冒険者と呼ばれる職業がある。武器や防具を身に纏い、時に魔法、のようなものを使える者も中には存在する。冒険者になるには、専門の学校卒業後にギルドに登録すれば良い。それだけで冒険者としての資格を得ることができる。その後はクエストを受注し、クエストを成功させれば報酬がもらえる。俺自身、冒険者になろうと学校に通っていたのだが、別に冒険者となり、やりたいことがあったわけではない。ただ、それ以外で食っていく方法を思い付かなかったからだ。


 尤も、魔王が勇者に倒されて久しい今、クエストの内容は離れた町へのお使いや商人の素材集め、人間にとって害となる魔物の退治など、はっきりいって便利屋同様だ。昔は魔王を倒しさえすれば、一生働かずに生活できる程の報酬がもらえたようだが、今でも危険が伴う仕事ではあるため、食うには困らないだけの報酬はある。


 今日も元気に冒険者が村から旅立っていく。

 

「ねえ、カトル。本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だって。魔王はまだ覚醒していないって話だから、起きる前に倒せば済むよ。」

 

 カトルと呼ばれた少年は、心配する少女を安心させるように言う。

 

「魔王を倒したら、一生働かずに暮らせるぐらい報酬が出るんだぜ?

お前と結婚して贅沢な暮しをすることだって、夢じゃないぞ?」

「け、結婚!?嬉しいよ、ゲルダ!」

 

 もう一人の少年も、別の少女と親しげに話す。

 

「でも、だからって油断は駄目だからね?コンテも、ちゃんと無事に帰ってくるのよ?」

「分かってるって、心配性だな。」


 コンテが爽やかに笑って見せる。そう、三人の少年は全員、これからクエストに行く前に、自らの彼女としばしの別れを惜しんでいるのだ。


 まあ、今更どうこう言っても仕方がない。第一、既にこの世の者ではない俺にはもう関係ない。次の人生に少しは期待したいところだ。

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