スーツの効果は10割り増し
私の兄はかっこいい。
朝、眠い目をこすりながら部屋を出た私は、あまりにもかっこよすぎる兄の姿を見て一気に覚醒した。
玄関先で今まさに扉を開けようとしながら振り返り、「おはよう。行ってきます」と小さく手を上げた兄。
その腕にかかっているのは滑らかな艶が反射する黒い鞄。
青のスッキリとしたネクタイと、シワのない白く眩しいシャツ。
体のラインにフィットしたジャケットに、たるみのないすらりとしたパンツ。
まだ学生であることを示すかのように、スーツには似合わないラフなシューズを履いているのが逆に魅力となっている。
スーツを着た兄は普段比200%の破壊力を持って、私の脳を直撃した。
「…今日はいつ頃帰って来るの?」
「18時ごろかな。今日はサークルもバイトもないから早めに帰ってこれるけど……どうしたの?」
「ふぅん……聞いてみただけ」
なんて、いつもは聞かない帰宅時間なんかをたずねてしまったのは、スーツ姿の兄を玄関で出迎えたいというブラコン脳が爆発してしまった結果であることをお伝えしておこう。
だが、世間はそう甘くない。
4限後に課題を出しに行った先で、何故か教授の長すぎるお話につかまった。
最近の学生はね、などとよく分からない話を打ち切ろうと適当に相槌を繰り返すが終わらない。
授業が終わったのが16時半。
話を聞き続けてかれこれ30分。
通学時間は1時間。
終わった。スーツの兄を拝みながら捧げる「おかえりなさい」は叶わない。もう一度あえて言おう。終わった。
私の心は土砂降りだ。