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理由その6 - 眠気


「ん……んぅ」


隣で眠る少女の寝言に目が覚める


「くっ、眠れん」


別に寝言が五月蝿くて眠れないわけではない。時折洩れる寝言は年齢に合った可愛らしい声をあげるし、寝相は悪いが被害も少ない

まだ脇腹に蹴りを三本、腹に肘鉄を一本、顔面に裏拳を一発食らったのみだ……

サンテなど俺の倍は食らい、王女を端へ寄せるのを手伝ってくれと泣きつかれた。婚約者としては王女の意外な一面を見れて喜ぶべきことなのだろう

すぐ隣に男がいるというのに、彼女はすぅすぅと小さな寝息を立てる


「無防備なお姫様だ」


そもそもこの少女は何故こんなところまでついてきたのだろう

父親への反発?王女という責務からの逃避?世の見聞のためか……それともその全てだろうか

愛してくれない父親の傍にいるのは辛い気持ちはわかる。貴族生まれはどの人間も平民にはわからない様々な責任を背負うものだ

王女という身分の上での視察ならばそれは見聞ではない、本や知識で得た世の中の復習だ。『見聞』という新鮮な勉強にはなりえないだろう


「王族とは、人よりも大きなものを沢山背負っているのだな……」


今更なことを改めて口に出すことで、無邪気な寝顔を見せる王女が急に愛おしくなった


「……やれやれ」


子を見守る親の気持ちとはこのような想いなのか

俺が守ってやらなくてはな

そう思いながら乱れた毛布をかけなおしてやろうとする


「んゎぁ〜〜〜んっ!」

「ふごぉッ!」


股間は、ユルしてくださ……がくっ

…………

……


「んゎ!」

「ぶっ!」


第二陣が俺の股間を襲った





キィン!…………キン!

剣戟の音で目が覚めた


「あ、おはよーヴァンちゃん」

「ん……おはよ」


朝食の支度をしていたエル、といっても時刻は昼過ぎかその前後といったところか

見張りを受け持った僕の疲労度と休息時間を考えて、余分に逗留してしまったようだ


「……」


手際良く支度しているエルをチラリと覗き見る。エルの笑顔に暗い影は見えない

昨夜のこと、少しは立ち直ったみたいでホッとした

キン、キィン…………カキン、キン!


「あの二人は朝から精がでるな」


先ほどからの剣戟音の正体はバラルとフォードの訓練だった。といっても訓練と呼ぶには欠伸の出るような速度で剣を打ち合う

剣は抜き身で、受け損なえば当然怪我をする。しかし十代の少年少女でも受けられる速さで剣を振り、これを受ける。危機意識の覚醒と肉体そのものの眠気覚ましが目的だ

さしずめ剣士の準備運動といったところか、剣戟が響くことから剣士間では『朝鳴らし』と呼ばれている

……まぁ、あんな化け物が現れたんだ。身体を慣らしておくに越したことは無い

僕も眠気覚ましに動いておこうかな


「はい、ヴァンちゃんご飯だよ」

「あぁ、ありが――――ってその呼び方やめろって」


今フォードが鼻で笑った気がしたんだけど

昨日はまぁエルが元気になるなら、と思って止めなかったけど、やっぱり昔の呼び方は恥ずかしい


「え〜ダメ?……わかったよ」


ホッ、わかってくれたか

正直エルはしつこく食い下がってくると思ってたが案外あっさり引き下がってくれ――――


「じゃヴァー君ね。うん、やっぱりこっちの方が言いやすいよ」

「――――てねぇよ!なんだよそのヴァー君て、昔も今もそんな呼ばれ方しなかったぞ!?」

「昨日寝る前に必死で考えた」

「そんなことに必死になっちゃダメぇ!」


しれっといいやがって、昨日はあれからすぐに寝たと思ったのに何してんだよ


「これでもヴァーちゃんかヴァー君か迷ったんだよ?」


クン付けにしてくれたのはエルの良心か?


「エル……ヴァーちゃんだけはやめてくれ、頼むから」


肩を掴んで少々真剣な表情で呼ぶと視線を逸らして『はい』と素直に頷いてくれた

仕方ない、僕ももう『エル』って呼んじゃってるし『ヴァンちゃん』よりはいいか


「ふぅ、頼むよ?…………ご馳走様!じゃ僕もちょっと運動してくる」

「うん、いってらっしゃ〜い………………ふふ、エル……エルかぁ」


…………?

エルが嬉しそうに何か呟いた気がするけど、僕の方を見てないからきっとただの独り言だろう


「フォード、バラルさん。僕も入れてよ」

「ヴァンか……ちょうどいい、もう少し動いたら本格的に動こうと思っていたところだ」


剣を僕の方へ向けてフォードが薄く笑う

どうしてかわからないけど僕に対してやけに喧嘩腰なんだよな、フォードって

何でだろう?と考えてるうちにフォードは剣を構え、向かってきた


「行くぞ!」


その声を合図に剣は振り下ろされる

ガキィン!

直前鞘から解き放つ白刃で上段斬りから身を守る。予想していたフォードは続いて持ち手の力を抜いてぶつかった反動を利用し、柄を軸に跳ね返った剣を片手で掴み取り、そのまま僕の腹を突く

フォードのトリッキーな剣術には毎回意表を突かれるが、それでも寝起きということで手加減されてるのだろう剣速が遅い

身をよじって突きをかわし、その遠心力を殺さずに今度は僕がフォードの足を斬り払う

それも予想していたように早い時機に飛び上がるフォード、その足が僕の剣を踏みつけた


「あっ!」


剣を手落とされ、態勢を崩されたところにフォードの剣が振り下ろされる気配を背中に感じた

風の音を感じた悪寒が意識を覚醒させ、身体を無理矢理動かす


「チッ!」


崩れた態勢を整えずに剣を握りしめ、そのまま前転してフォードの態勢を崩すと共に背後をとり、振り向きざま剣を後ろへ振る

キィン!ガ、チィン――――!

二人の剣が離れた瞬間、草原に僅かに響きを生む

剣を握りなおし、再び両者が剣を交えようとした時――――


「それまで!」


バラルさんの号令がかかり、僕もフォードも緊張を解く


「……お主らの訓練は見ててハラハラするわい、あまり年寄りを驚かすな」


遠目で見ていたエルも首が取れる勢いでブンブン頷いていた

僕とフォードは顔を見合わせ――――


「「……ただの朝鳴らしだろ?」」


僕らのセリフに目を丸くする二人を終始不思議そうにみていた





キィン!…………キン!

剣戟の音で目が覚めた

…………

……

なので寝直した


「はぁ……ディア様、もういい加減に起きてくださいよ」


呆れて溜め息を吐き出すマグを無視して、私はこれでもかと惰眠を貪る


「……んぅ…………」


なんて気持ちのいい睡魔、この世で最高の力は睡魔だと思う

闇が睡魔と一日の疲れを呼び寄せ、暖かい寝床へ誘い(いざない)。土の柔らかさが心身に優しく、マナの吸収力を助ける。風の精を味方につけ、サワサワと草の音がまた眠気を誘い心地良い。あぁ……光の熱も睡魔を支援するとゆーの?太陽ぽかぽかぁ

雨が降っていればまた格別に良い気分で起きられるのだけど……野外では問題外ね

起きたい(ウソ)、でも起きられない(起きる気ない)。しょうがないのです、こんな精霊の完璧な結束力が――――

キン!ガキン!キィン


「んむぅ〜」


剣の音出す二人死ねチクショーめが、精霊ねむけに刃向かうとは何事だ


「あの、ディア様?そろそろ出発したいのですが」


もう、どうして気持ち良い眠りに限って周りの人間が鬱陶しく感じるのかしら。一瞬自分をここに置いてってもらいたいと本気で願う

このままここで眠り続けたい

昨夜の恐怖も忘れ、甘美なひと時を心がとろけるほどに味わう。今この時、草原で飢え死にしようが獣に襲われようが構わないとさえ思ってしまう

まぁさすがにそういうわけにもいかないため、重たい上半身を起こしたのだけど


「や、やっと起きてくれましたか、朝しょ――――昼食・・はここに置いておきますから、食べ終わったら早速出ますので準備してください」

「ん……」


眠い目を擦りながら返事した気がする。まだ意識は完全に覚醒していない、なので上半身を起こしたままでも眠ることができるのだー

カクリと首を曲げ、再び眠りの世界へ堕ちようとした時――――


「ディア様!!!」

「ふぇっ!?」


ノイシウの大声が響き、その場にいる全員がビクリと身体を揺らして驚く


「ご、ごごごめんなさい!すぐに準備します!」


心臓の音がドキドキ響く、完全に目が醒める。こんな起こされ方をしたのは生まれて初めてだった

甘すぎた、ここは自分の我が儘が押し通る場所くにじゃなかったことを思い出す


「しっかりしなきゃ!」


気合を入れるように目を見開き、背筋を伸ばす

…………

……でもやっぱりまだ眠いのです

訓練を続けるノイシウの目を盗み、もう一度怒鳴られるまで寝息を立てるのでした














ハイ、またやりました造語です(朝鳴らし)

なんか造語つくるのって楽しいですね、響きいいと特に……

これからも開き直っていっぱいつくっちゃうかも、ご理解のほどをヨロシクです


で、これ公開した朝にこの作品の最終話を夢で見ました(マジで)

コレを書けとの天啓でしょうか、内容は確かに感動したけどさ……(=_=;

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