理由その1 - 不殺
剣と舞の国、トゥアタ国。城下町
海に面したこの国は港町だけあって町は活気に溢れている。それもそのはず、港町ではどこも他国の品が行き交うのが当然だし、自然人が賑わうことになる。商人は珍品を町人に売りつけ、町人はそれを安く値切ったり、不要品を売ったりして交渉を続ける。中には興味なく通り過ぎる者もいる、僕もその一人だ
普通の町人と違うのは腰に年齢にそぐわぬ剣を帯びているというだけ。トゥアタ国の聖騎士、フォーレを義父に持つ僕は幼い頃から義父さんの勧めで兵士訓練所へ通わされていた
義父が生きた世は戦乱だった
『血が大河を造り、死体が丘を築き、炎が人の心を揺るがし、悲鳴が世界の絶望を示唆する』
惨たらしい有様だったらしい、ある日珍しく酔った義父さんが吟遊詩人のようにそう語ったのだ『詩人も閉口するような世界だった』……と
「訓練なら、いいんだけどなぁ」
この世界で自分の力を昇華するという点では、僕にとって訓練所ほどありがたい話はなかった。でも僕の力が……否、訓練生の力がいつの日か、戦のために使われると思うと――――
「どうしたヴァン、行かないのか」
義兄で同じ訓練生でもあるフォードが声を掛けてきた、どうやら気付かないうちに道の真ん中でボーッとしてたらしい。僕とフォード=アルフレルドは孤児だった、義父さんの計らいで僕たち二人を養子に引き取ってくれたのだ
「あぁ、なんでもないよフォード。行こうか」
義父の生きた世は確かに戦乱だった。でも今は違う、その所為か今じゃ訓練の日になるたび、今の平和を噛み締めるクセができてる。だから訓練所へ向かう足取りはいつも重い
戦の無い平和な時代、だったら人を殺める技を磨く必要なんてないんじゃないか
歩きながら僕は横目で周りの人々を見た。人々のこんな平和な姿を見れば、訓練する気も失せるというものだ
「なにを考えているんだ?」
「え?」
隣を歩くフォードが訓練所へ向かう途中、図ったように話しかけてきた
「余計なことは考えないほうがいい、相手の倒し方と生き残る方法だけを考えろ。相手を気遣っていてはいつまで経っても強くはなれないぞ」
「……そうだね」
僕は訓練生の中でも最低階級の弱さだった、きっとフォードは僕がそのことで悩んでると思ったんだろう
僕が引き取られたのは六歳の時だ。フォードは三歳の時から自我が芽生え、聖騎士である義父に稽古をつけてもらっていたらしい。剣術も訓練も親子の絆すら先を越されてるが、気にしたことなんて一度も無い。僕にとって小さい頃から一緒になって遊んでくれたお義兄ちゃんだ、流石に照れくさくてそう呼んだことはないけど
鈍色の城壁が見えてきた、槍を構えた番兵が二人佇んでいる。フォードはその二人に向かって首を僅かに上下させる、僕もそれに倣って軽く会釈しそのまま門を通過した
トゥアタ城……ここの城内の中庭で行われる訓練は武器を問わず、城の各兵士が各担当武器の訓練方法を指示する
弓兵は用意された的や鳥、小動物を射る
槍兵は混で訓練生同士の試合や型の練習
斧兵は大槌での素振り、重量による慣れや衝撃による反動の体感訓練だ
そして僕たち剣士は真剣、尤も鞘付きだけど。基礎練習は剣士の訓練項目にはない、各自自主練任せだ
内容は五人以上相手をし、敵に会心の一太刀を浴びせること。これだけだ。単純な訓練方法だが『会心』というのが曲者で、軽い一撃でも重い一撃でも審判の判断次第で合否が決定する。僕が最低階級なのはその法則の所為でもあった
「始め!」
兵士の掛け声が響いて僕は現実に引き戻された。目の前に鞘付きの剣が振り下ろされる
紙一重で僕はそれを躱し、即座に相手の背後へ回り込んで首筋へ剣を突きつける……判定のコールはかからない。剣を突きつける姿勢のまま、僕はこれ以上何もする気が起きずに動けなくなる。硬直した隙を突いて少年は僕の腹へ剣を叩き付けた
「ぐ……っ!」
「それまで!」
片方の手で剣を杖代わりにし、もう片方の手で腹を抱えて痛みに耐える。他人と技量を競い合うのはいい、でも人が傷つくのは我慢できなかった
相手となった者は十四歳くらいだろうか、明らかに僕よりも年下の少年だった
僕の戦績ではどんな相手が出てきてもおかしくはない、彼よりも年下の子と戦ったことだってある
少年は勝利を素直に喜ぶと、次の相手へと向かう
「またか?どうして倒さないんだ、勝てた試合のはずだ」
三人目の対戦を終えても怪我一つ無いフォードが声を掛けてきた。ちなみにフォードは最高階級の剣士で、訓練生の中でも一、二を争う実力者だ
「相手を気遣っているのならそれはいい迷惑だぞ、戦場ではそんな気遣いは無い。期待させるような真似はやめた方がいい」
「せ、戦場で、ゴホッ!」
声を出すたびに腹が痛む、今のままじゃ上手く声に出せないと思ったから少し落ち着いてから話すことにした。僕はさっきの少年を指差してフォードにいった
「フォード、僕は戦場でああゆう子と出会った時、剣を向ける自信が無い。たとえ自分が死んでしまう結果になったとしても」
僕の言葉を聞いたフォードは首を軽く左右に振ると不愉快な顔をしてこういった
「馬鹿げてる、ならお前はなんの為にここへ来る?」
尤もな意見だった、きっとフォードが正しいんだろう。でも僕は――――
「それは……」
言い淀んで考えてみた。僕がしてるのは国王へのあてつけなのかもしれない
『父の生きた戦乱を繰り返さないためにも力を蓄え、我が国の兵力を世に知らしめん』
この国の若き王、ブレス王はそう言った
要は圧倒的な力で他国を牽制し、武力をもって戦争を防ぐということだろう。でも圧倒的な力で『牽制』してみせても、相手は屈服してくれない。僕が今したように
結局は僕がやられることで敗者を生み出し、ハッキリした上下関係を示す以外、方法はないんじゃないか。ブレス王はそれを承知で今回のような実戦向けの訓練法を定め、死者を出す戦を前提とした兵訓練を行っている
王は何を考えているのか…………
「……ごめん、迷惑だよね。今日はこれで切り上げるよ」
「そうか、一人で大丈夫か?」
「あぁ、ありがとう。それじゃまた」
フォードに見送られて僕は訓練生の掛け声が響く中庭を後にした
◆
トゥアタ国の隣国アルスター国との境目にある、森の奥に泉があった
アルスター国はトゥアタ国と敵対しているわけでもなく、両国の薬師が薬草摘みにここを訪れる恵みの森。訓練で負けたり悩んだり、楽しい気分になると僕はいつもここに来る。つまりほぼ毎日だ
森の最奥部にある泉の水はとても澄んでいて、波紋一つ立たない。そんな泉の様子を見ていると、何かに優しく見守られているような雰囲気を感じて僕も落ち着いた気分になれる
泥を払った草むらにいつものように寝転がると、試合に負けた時の黒い感情が納まっていく。腹の痛みは治まったけど、負けた悔しい想いは簡単には拭いきれない
悔しくないわけがない、いくら相手を傷付けたくないからってそれでみんなが僕を『弱い』と評価するんだ
実力を誇示したいわけじゃない、でも――――
…………
……
そんな僕にまるで気を遣ってくれているように森は穏やかに揺れていた
この泉付近ではいつだって小鳥や小動物が集まっている。ダヴェド国の人はたしかマナがどうとかいう理由だといっていたけど、根拠はどうあれ心も身体も癒されるってだけで十分だ
剣の訓練をする時もあった、不思議なことにここでは自分のイメージする以上に身体が動いてくれる
ここに来るといつも静謐な感覚に捉われるのだ、時折それがたまらなく不安になることもある。平和すぎるこの空間が壊されやしないだろうか、そんな不安と焦燥を考えながら目を閉じた
戦場ではそんな気遣いは無い――――
最強の訓練生である僕の義兄はそう断言した
戦場では……か、本当は戦争なんてものが無い世の中が一番なんだろうな
「なんで、戦いなんてあるんだろう」
誰に聞くともなしに自問自答する、この場所に来るといろいろと考える所為か独り言が多くなって困る
「またそんなこといってる」
「うわっ!?」
急に声を掛けられて思わず情けない声を上げる。吃驚して目を開けるともう一人の幼馴染、エレインが僕の顔を覗き込んでいた
「お、おどかさないでよヴァン」
「そりゃこっちのセリフだよ。いつからいたんだ?」
「さっきからいたよぉ、なのにヴァンったらずっと上の空で全然気付いてくれないんだから!」
頬を膨らませてむくれてみせるエレインを見て苦笑する、子どもっぽいところは相変わらずだ。そういえば構ってやらないといつもこんな表情してるっけ
「悪かったよ、薬草摘みにきたのか?」
片手に小さな籠をぶら下げているのに気づいて訊くと『うん』と素直に頷く、さっきの不満顔はどこへ行ったのやら
「言えば僕かフォードが付き添ったのに、一人で出歩いちゃ危ないじゃないか」
「う、うん。でも私だって一人前の薬師目指してるから、一人で薬草くらい」
「それでも、だ。女の子なんだから一人で出歩いちゃ危ないだろう?今度から僕かフォードを頼ること!わかった?」
エレインより一歳年上の僕は少しお兄さんぶってそう諭す。こうやって落ち着いて言い聞かせるとエレインは約束を絶対に破らない。子どもっぽい仕草が抜けなくても、素直で守るべきこととそうでないことをきちんと見極められる立派な大人だ
「う〜、うん。ありがと」
「よし!じゃあ薬草摘もうか、手伝うよ」
そういって起き上がり、僕は薬草摘みに取り掛かる。こうやってエレインの仕事を手伝うのは初めてじゃない。だからどの草が薬草となるのか毒草となるのか、見極めは自然とできるようになっていた
「あ、あのね、ヴァン」
一本目の薬草を見つけたとき、エレインは珍しく言い辛そうにして薬草を摘む手を止めていた。それに気付いた僕も手を止めてエレインに向き直る
「ん?なんだエレイン」
幼馴染として一緒に過ごした十数年、エレインの煮え切らない態度を見るのは初めてだった。僕とフォードにはどんなことでもキッパリハッキリ、遠慮なくものを言うエレインだったけど、こんなエレインも新鮮で悪くない
……ってなに考えてんだ僕は
「聞いてヴァン、私――――」
「待って」
エレインの言葉を手で遮り、静かにするように人差し指を立てて合図すると僕は耳を澄ませる。この静かな森にあってはならない音が聴こえた気がしたのだ
僕の様子を見て只ならぬ雰囲気を読み取ったのか、不満顔になりながらもエレインも同様に耳を澄ませる
キィン、ガンッ!……ギィン、キン……
剣戟の音だ、聴こえたときは訓練生の誰かが自主訓練してるかと思った。でも真剣じゃないとこの音はどうやっても出ないし、音がちょっと激しすぎるな
まるで何人も相手してるような……
「エレインちょっとここで待ってて、様子見てくる」
「あ、ヴァン!?」
「危ないから動くなよ」
返事を待たずにエレインを置いて走り出した。音の質が違う、剣を『受ける音』が圧倒的に多い。剣戟の音が近づいてくるにつれてやはり何人かが少数を襲っていることがわかってきた
十歩走るたび音が大きくなる、方向は間違っていない。剣戟の音が煩いくらい耳に響いた。少し速さを落として足音も殺す
……ゆっくりと剣を抜いた
剣を鞘から抜いたのは久しぶりだ、基礎練習でも鞘つきのほうが重くて訓練になる
いつしか……鈍い銀の光が、僕の目に暴力的に映っていた
現場へ飛び込む前に様子を見る
戦いを制するために状況を見定めろ。聖騎士の父から授かった戦術を思い出す
九人の追い剥ぎらしき男達が身なりの良い男女二人組を襲っている。二人組の男の方は女の護衛なのか、鎧を纏い長剣を構えて応戦している。追い剥ぎはそれに苦戦してるらしく、既に三人ほど地に伏していた。だが流石に馬鹿じゃない、頭領らしき人物が指示を出して二人組を取り囲もうとしていた
あの護衛の剣士、かなり腕が立つみたいだけどあのままじゃ女の人が危ない。それだけ考えると僕は二人組に味方していた
頭領らしき追い剥ぎの背中に忍び寄り、首筋に剣を突きつける
「やめろ!!!それ以上戦えばこいつの命は無いぞ!」
突然掛けられた声に追い剥ぎ達の視線は僕に集中する。その隙を突いて護衛の剣士が二人の追い剥ぎを斬った。完全に虚を突かれた追い剥ぎは剣士と僕を警戒しつつ、僕が剣を突きつけた追い剥ぎの指示を待つように狼狽する
「武器を捨てろ、早く!!!」
脅すようにそう命じると追い剥ぎたちは僕が剣を突きつけた男をはじめ、大人しく武器をその場に捨てた。どうやらこいつが頭首で正解だったようだ。僕は剣を突きつけていた男を跪かせて他の追い剥ぎたちに命令する
「すぐにこの森から立ち去れ!行け!」
命令と共に剣を突きつけた追い剥ぎと二人組を残し、全員がその場を去った
「フゥ…………お前ももう行っていいよ。もうこんなことは――――」
「うらぁ!」
跪いていた追い剥ぎが突然捨てた剣を拾い上げて、僕に襲い掛かってきた
「うらっ、うらぁ!死ね!」
逆水平、振り下ろし、袈裟斬り、切り上げ……
滅茶苦茶だ。王国兵士の訓練を幼い頃から受けてきた僕には単調な素振りにしか見えなかった。剣を一合も交えず、断続的に巻き上がる風を更に三度受けて、そいつの首に剣を突きつける
「二度とは言わないぞ…………去れ」
言い終えると同時に剣を叩き落した、それを合図に彼は弾けたように逃げ出す
ふぅ、なんとか誰も倒さずに済んだな。思いながら剣を鞘に収める。何人かはあの護衛の剣士に斬り殺されてしまったようだがそれは仕方ない、自業自得というヤツだ
追い剥ぎたちの残した武器を回収していると五人の追い剥ぎの死体が目に入った、少し胸が痛んだ。自分がやったワケじゃない、それなのに……やっぱり人の死は辛いものだ
「あ、平気でしたか?怪我、無いですか?」
二人組の男女のことをすっかり忘れてた、ジッと僕の様子を窺っていたらしい。どうやら敵か味方かの判別をしていたようだ
敵ではないと判断したのか、護衛らしき男の方が剣を収めて一歩僕に近づく
「あぁ、怪我は無い。ありがとう、君のおかげで助かったよ」
男は笑顔で僕に握手を求めてきた、慌てて僕もぎこちない笑顔を浮かべて手を差し出す
「あ、いえいえ、どう致しまして」
それだけ返事を返してまた追い剥ぎの武器を一箇所に集める
男は十八歳前後といったところだろうか、僕よりもさほど年齢は離れてないように見えた。けどその物腰、立ち居振る舞いから僕よりは年上だな。大人だなぁ、と感じさせる雰囲気だ
「その武器、どうする気だ?」
「え?さぁ、どうしましょう」
と、隣にいた女の子へ話を振るとその子はフフッと上品に笑った。近くで見るとその子は僕とそんなに年齢が変わらないように見える。ただ男と同じように落ち着いた雰囲気が大人びた印象を与えていた
「これ、半分僕が貰ってもいいですか?お金に換えたいんで」
別にお金に困ってるわけじゃない、このまま処分に困るようなら武器屋でお金に換えてもらったほうがいい。それにもう賊なんかに使われないように、武器を正しく扱う人たちに使ってもらったほうがいいと思った
「そうか、なら全部持っていってくれ。助けてくれた礼代わりになるかな?」
「ありがとうございます」
僕は一礼して追い剥ぎたちの死体へ向かって歩き出した。既に絶命していることを確かめ、一人ひとり瞼を下ろしていく
「?……あの、なにを?」
女の子が恐る恐るといった様子で死体を運ぶ僕に話しかけてきた。まぁ死体を運んでるからな、怖がられるのも当然か
「この辺に墓を造ろうかなってね。ほら、いくら悪い人でも可哀想だろ?」
さほど年齢も変わらなく見えるから、ついついエレインと同じような口調になってしまう
喋りながら僕は樹の根元辺りに一人分ずつ墓穴を掘る。簡素な埋葬だけど、これなら樹が養分を吸い取ってくれて無駄が無い
こいつらには悪いけど、せめて最後には善行を積んでもらおう
一人目の死体を穴へ落としたとき、その様子を今までジッと見ていた女の子が驚いたことに――――
「私もお手伝いします」
――――なんて言い出した
「「はっ!?」」
僕と男の声が重なった。無理も無い、どっからどう見ても貴族な娘が突飛な発言をしたんだ
「ディア様!なにも貴女様がそのようなことをなさらずともっ!」
「いいえ、この者は人を殺めずに彼らを退けました。ならば命を奪った私達がその責を負うが道理です」
まるで学者のような物言いに『へぇ』と感心してしまう
ディアと呼ばれた女の子は反論を許さない強い意志の目をしていた。好感の持てる意見だった、考え方が似ている女の子を僕は知っている
「しかし……」
男の方は納得がいかない様子だったけど、僕は正論だと素直に思えた
この子はよくできてる。義父が語るトゥアタ国のどの貴族たちとも比較にならないくらいに。僕はこの女の子がいっぺんに気に入った
失礼だとは思ったけど、この子のやりたいようにさせたいという気持ちの方が勝った
「じゃあ樹の根元に穴を掘ってくれるかな?あ、手ェ汚れるからそこの木の棒使って少しずつでいいよ。深く掘れなくても土を柔らかくしてくれれば楽になる」
「おい貴様、ディア様になんてことを!」
「やめなさいマグレド!」
女の子が一喝すると男は背筋を僅かに伸ばしてぐっと押し黙る。この時だけは女の子って顔じゃなかった。子どもを叱る母親のような構図が頭に浮かんで苦笑する
僕の足元に二つ目の墓穴が出来上がり、女の子が半分ほど穴を広げた頃
「いたー!ヴァンったら私のこと忘れてたでしょー!」
エレインの声が静かな森に響いた
「あ、エレイン」
「『あ、エレイン』じゃないわよもう!さっき『女の子なんだから一人で出歩いちゃ危険だろう?』なんて言ってたクセに!」
うっ、一言一句誤らずに復唱するとは……相当怒ってるな
「あ、ああぁ、そ、そうだぞぅエレイン?だからこんなところまで一人で来ちゃ危ないじゃないか」
我ながら苦しい言い訳を、エレインが呆れてるじゃないか
「いいわよもうっ!……それで?何してんの?」
◆
結局エレインにも穴を掘るのを手伝ってもらうことにした
エレインは嫌な顔一つせず引き受けてくれた。というか事情を話したら進んで手伝ってくれたのだ
墓穴を掘る時に女の子は何故樹の根元なのかとか、どうして同じ穴に埋めてはならないのかとか色々と訊ねてきた。僕とエレインが説明してあげると、そのたびに女の子はいちいち感心してくれるものだからこちらもなんだか嬉しくなってくる
自分を襲った者のために墓なんて普通は造りたくないだろうに、この子も嫌な顔を一度も見せなかった
穴を掘り終えると、流石に女の子に死体を担がせるわけにもいかず、護衛の男がいつの間にか死体を担いで穴へ放り投げていた。全ての穴を埋めた後、みんな墓の前で手を組んで黙祷をする
全てを終えて僕は改めてみんなに礼を言う
「手伝ってくれてありがとうございました」
「礼を言うのはこちらの方ですヴァン様。御蔭で命が助かり、勉強にもなりました。ありがとうございます」
そういって女の子は丁寧に御辞儀する、ここまで丁寧にされると逆にこっちが恐縮してしまう。同年代の女の子に様付けで呼ばれるというのはどうも照れ臭い、呼ばれたことがないのだから仕方ないけど
「では、我々はこれで失礼する。ディア様、もう行きますよ」
男の方が言い切って女の子を急かす。あんまり僕にいい印象持ってないみたいだな、当然か
自主的にとはいえ、結果墓作りを手伝わせた男だもんなぁ
「待ってマグ。それではヴァン様、御縁がありましたらまたお会いしましょう、本当にありがとうございました」
最後まで感謝の気持ちを崩さず、女の子と男はアルスター国に続く道へ向かっていった
「それではヴァンさまぁ?私たちも参りましょうか?」
エレインがなにか言ってきたみたいだけど僕はそれに気づかず
「綺麗な娘だったなぁ」
呟いた瞬間、僕の脇にエレインの肘打ちが炸裂した
コレ一応ファンタジーものです、これからずっと先になんか魔法とかだすってことでヨロシクです
……なんとも話を明るくするのが苦手なんでしょうか私
あと今回の作品知り合いがモデルだったりする。
ていってもチャットとかで直接面識ないけど、元気にしてるかなぁヴァンさんフォードさんヴァニラさん