理由その9 - 毒王
え~、超久しぶりに更新してみた。
なんか変なカンジに締めちゃったので最後らへん書き直すかも
「うぅ、もうダメよヴァン。あたしを置いて先に行ってー」
「いいのか?」
「いやー置いてかないでぇ」
「どっちだよ」
後ろでなにやら小芝居を始めた幼馴染達、異常事態だという時に緊張感の無い二人だ
尤もどんな事態が起ころうとこの任務に中断はありえない
トゥアタ国はあの魔物たちの襲撃を受けていないだろうか、当然気がかりではあったが聖騎士フォーレがいる限り、全て杞憂に終わることだろう
二人もそのことがわかってじゃれ合っているのだ……と、そう思いたい
「おい二人とも、乳繰り合うのはタラに着くまで我慢しろ」
俺の一言でエレインは真っ赤な顔をした
尤もタラに着いてもこの調子では困るのだが
「ち、ちち、ち……」
エレインがなにも言い返せないままでいると代わりにヴァンが反論してきた
「は、走りっぱなしだったから退屈だっただけだよ!」
「なんだ図星か?なんでもいいがあまり暴れるな、馬に負担がかかる」
エレインが乗ってきた馬は昨日の人型のバケモノに襲われてしまった。よって二人乗りで行くしかないため、荷物と一人分の重さが馬の負担になるのだ
彼女の体重は知らない(聞いてみたが教えてくれない)が……まぁ途中何度か休憩もしたし、今はゆっくりと歩かせているから暴れたりしなければ大きな負担にもなるまい
「とにかくもう少しでタラだ。エレインも多少魔術を使えるみたいだが、街に着くまでは油断するなよ」
「は~い」
「そういえばエル、いつの間にルーン魔術なんて覚えたんだ?」
「えっへっへー、だいぶ前から密かに練習してたのだ。まだ火の印のカノンしか知らないけどね~」
えっへん、と胸を張る我が部隊の紅一点。だが俺はその発音に疑問を抱く
「カノン?コカトリスに炎を出したときはたしか『ケィノーン』と唱えなかったか?」
「あぁ、あれは攻撃用のカノンだよ」
攻撃用?と俺とヴァンが首を傾げる。バラルは魔術の心得でもあるのか、俺たちの会話に興味を示すことなくただ前方を注視していた
「うん、ルーンは一つの印に十以上の意味と詠唱法が含まれていて、役割とか用途を分けられるんだよ。さっきいった――――<(ケノ)!」
素早く印を描いたかと思うとボッ、と音を立ててエレインは指先に小さな炎を作り出す
炎は拳大程度の大きさで、今のように暗ければ松明代わりに充分使えるだろう。
集中しているのか、エレインは真剣な顔で揺らめく指先の炎を見つめている
やがて安定したのか炎を視線から外し、俺たちに笑顔を見せて説明を続けてくれた
「――――は、こうやって明かり代わりにしたり、凝縮して火の玉を飛ばしたりできるんだけど、火のルーン一つが起点なんだよ。カノンていうのは“火”の総称、呼び方を変化させれば役割も変化するの――――ブランク!」
再びエレインが叫ぶと指先の炎は“無”になった
ただ鎮火でも燃え尽きるでもなくわざわざ“無”と表現したのは、炎同士が相殺し、対消滅したように見えたのだ
「今のは?」
「“無”のルーンだよ。ルーン魔術は今みたいに別のルーンと組み合わせることもできるの。“無”は自分のルーンや掌握した相手のルーンを打ち消すことができるんだけど、私は自分のルーンに終わりを示すのが精一杯」
「へぇ~そんなことができるのか、すごいなぁ」
「えへへ」
ヴァンは目を輝かせてしきりに感心した声を上げている。別にエレインを褒めたわけじゃないと思うのだが、本人は嬉しそうなので黙っておこう
かくいう俺も密かに感動していた。
人間の手から炎が現れるというだけでも物凄いことだと思うのに、それを打ち消すにまで至るということに人が進化した姿を見た気がしたのだ
ルーン魔術か、エレインでもできるのなら俺も……
「フォード~?なんか失礼な目つきしてない?」
「い、いや、俺も感心していた。よく勉強しているじゃないかエレイン!」
「や、やだなぁ大したことないよー」
「ハハハハハ」
「あはははは」
……スルドイ
一瞬だったが怒気を孕んだ魔女のジト目に身体が強張った。これからはからかうのはやめておこう。
「見えたぞ、タラの都じゃ」
◆
「ここが、タラか……」
タラの都はトゥアタ、アルスター、ダヴェド、この三国の中心付近に位置する商業都市だ
三国成立後に中立として造られた比較的新しい街である。
しかし“中立”という理由から商人や旅人の往来が特に激しく、めざましい発展をし続け、善しも悪しきも様々な情報や物品が流れる場所となっていた
本来ならばトゥアタ国の城下町に負けない賑わいを見せていただろう。
ただしここの住人が生きていた時は
街に入る前、違和感を感じたバラルとフォードが警戒して偵察にでたところ、街は既に全滅していた
街中がコカトリスの巣、街の中心から放射状に広がっていったように歪な石像が立っていた
身体の一部が欠けた男の石像や蜂の巣のように食い散らかされた三本の子どもの足、顔の半分が石化し半分に食事の跡が残された女性の顔――――
そんな惨たらしい姿をした石像が街のいたるところに捨てられていた
「……っ!」
見るな、見てやるな。人として、女性としてこんな死に様は不本意であっただろう。
憐憫も哀悼もできない、ならば無視してやることでその死だけを悼もう
しばらく歩いても完全な形を保った石像はどこを探してもない
せめて、完全に石化してしまえば身体の一部が食われる恐怖を味わわずに済んだものを……
「ひどい……」
エルが泣きそうな声を搾り出す
その気持ちは僕も同じだったが、コカトリスの所業は動物としてあるべき姿なのだろう
エルタレイクでも思ったが、これが自然の摂理であるというのなら、目の前のコカトリスの“食事”は生き物としてなんらおかしなところはない。
きっと彼らの日常には欠かせないことなのだ。人のよく知る家畜とただ食する対象が違うだけ
でも――――
これが、魔物か
全員がそう再認識させられる光景だった
街に残った何匹かのコカトリスを斬り倒しながら中心へ向かう。
人を襲うのは魔物の習性なのか、石像に張り付いてるコカトリスは僕らを見るとすぐに飛び掛ってくる。
「数が少ない、餌を求めて外へ散らばったか」
「ふむ、襲撃を受けた時の数を計算に入れてもこの街の石像は多すぎる。街人が抵抗した様子もなし、恐らくは」
ほとんどといっていいほどコカトリスの死体は無い、魔物が一日に何人食べるのか共食いするのかなんて知らないけど
それでも街の中心に近づくにつれて、コカトリスと石像の数は増してきた
街の中心に辿り着くと、タラの都の象徴となっている鐘楼塔の陰に巨大な生き物が陣取っていた
「っ、待て! ……これ以上近づくな」
「どうしたんだ、バラル」
フォードが疑問を投げかけるがバラルは返事もせずに近くの民家へ飛び込む
僕らは訳もわからずその後に続き、改めて尋ねた
「拙い奴がおるわ…………バジリスク、この名を聞いたことはないか」
「バジリスク…………バジリスク!コカトリスの王じゃなかったか!」
窓からその姿を再確認すると特徴を捉えたバラルが確信に満ちた顔で頷いた
「八本足、鶏冠を持つ蛇……恐らくは間違いない、外見が一致しておる」
「バジリスクって、そ、そんなに危ない魔物なの?」
不安に駆られたエルが声を震わせながら聞いてきた
「伝説では火炎を吐き出し、通った跡には人を死に至らしめるほどの毒液を撒き散らし、一睨みすればその者を猛毒に侵し、殺せばその毒が武器から伝わって死ぬとまで言われている毒蛇王じゃ」
「な、なんだよ、そんな反則…………打つ手無しじゃないか、どうすれば倒せるんだ?」
「なんとか背後に回って手を触れずに勝つしか、接敵せず――――」
三人の頭にひとつの言葉が浮かんだ、と同時に視線は一人の人物へと注がれる
「え?な、なに?」
「エレイン、ルーン魔術で奴を攻撃できないか?」
「フォード!」
それは僕自身、同じ考えが浮かびながらも賛同できない戦術だった
「エルに戦闘に参加しろっていうのか!そんなことして……もしヤツに睨まれたら――――!」
「落ち着けヴァン。もし奴がそこまで強力な魔眼を持つ魔物ならばもはや俺達だけではどうにもならない、
本国に引き返して部隊を再編し、改めて討伐するということなる。だがよく見ろ」
突然バジリスクは奇声を上げていっぺんに数十体のコカトリスを産んだ
「あのバジリスクは女王だったのか」
「あれがいつ現れたのかは知らんが、どうやら数時間毎にコカトリスを産んでいるようじゃな」
バラルに同意したフォードが言葉を繋げる
「文献では正確な周期は不明だったが、毒に侵されて数日経過したと考えてみても、ここの人たちの死体はまだ新しい。ここに来るまでに遭遇したコカトリス達が……もしあのバジリスクから生まれたものだとしたら――――」
背筋に冷たい汗が流れた
もしフォードの言うとおりなら、トゥアタ国に引き返して対策を講じる前に野はコカトリスで埋め尽くされる
それこそトゥアタ国……いや、三国の騎士団総出であっても甚大な被害となるだろう
いや、ひょっとしたら世界はコカトリスに滅ぼされるかもしれない
「むぅ、もはやタラの都もろとも全て焼き討ちするしかあるまい。戦争の引き金にならねばよいが、やむを得ぬか。……しかしバジリスクだけはここで確実に仕留めねばならん」
「そうだ、奴が移動していない今が好機。タラの住人達には悪いが周りに燃やせる家屋がある、この時しか倒す機会は無いんだ」
「くっ……」
バジリスクを今ここで始末するのは賛成だ。時間を置けば置くほど世界的に被害が拡大することも理解している
けどエルは――――
どう反論するか考えたとき、後ろから意外な言葉が聞こえた
「……ヴァン、私やるよ」
「エル……?」
「平気だよ! ルーン魔術もあるし、もともと遠くから戦う役割なんでしょ?」
彼女の声は震えているのに、精一杯無理してるってわかるのに
けれどその瞳は力強くて、曲がらない意志が感じられた
フォードもバラルもエルの勇気を感じ取ったのか、震える彼女に声をかける
「すまないなエレイン、だがヤツを決してお前に近づけはしない」
「頼りにしてるよー」
「…………あぁ……」
街の中を跳梁跋扈するコカトリス達を見て苦悩する
何人もの命を奪う、あの魔物集団とこれから戦うことよりも
僕はまたエルを危険な目に遭わせてしまうことに
最悪な選択を選ばざるを得ない自分の無力さを感じていた
エルを、危険な目に……
…………否
二度と、危険に曝してなるものか
「エル」
「ん?」
「僕が護るから」
「な、にゃにゃにを?」
激しく動揺するエルを放置し、静かに剣を抜く
コカトリスの気配を感じる。僕らが身を潜めている民家のすぐ傍まできているようだった
入り口近くにいた僕が顔を覗かせると、三匹のコカトリスが威嚇のような鳴き声を上げる
そのうちの二匹が僕に飛び掛ってきた
血を浴びないように二匹とも素早く突き刺し、遠心力を利用して屍と化したそれを捨てる
三匹目は一瞬で屍と化した仲間を見て、恐怖したのか小さく呻き、背を向けて走り出す
素早く回り込み、嘴が届かないように喉元を踏みつけ、剣を突きつけた
コカトリスは僕の足下で跪き、苦しそうな悲鳴を上げている
命乞いでもしているかのような、無様なその姿を見てふと思う
このコカトリスはどれだけの人間を食べたのだろうか
一人? 二人? 十人? 百人?
もしかしたら零かもしれない、こいつは先ほど生まれたばかりのあのコカトリスかもしれない
人も動物も全ての生きとし生けるものは食べることを教わる。食べて身体はできあがっていく……強く、なっていく
ゆっくりと僕は突きつけていた剣を持ち上げる
「お前に罪は無い」
自分自身へ確認するように呟いた
これから僕のとる矛盾を、自分自身の考えの下に枉げる信念を
だけど――――
僕も強くならなくちゃいけないんだ
言い訳を口に出せずにソレと目を合わせる
――――だから
ただその思いを強く秘めて
無言のまま、僕は
ゆっくりと剣を突き下ろした
あ、ワタクシ蛇は苦手だけど動物虐待とかしてませんからご安心をw
「07魔物」で書き忘れてましたがコカトリスもバジリスクもwikiに記載されております。