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理由その0 - 過去


血と刃が二つの“鉄”を漂わせる戦の世。

僕が生まれてきたのはそんな血生臭い世界だった。

戦いが始まったのは何が原因だったのだろう。

権力……領土……財宝……愛憎…………それとも、たった一人の命のためだったか。

死体が積み重なる赤い戦場、王が戦を続ける理由はそれだけで十分だった。

人は戦をするために戦をする。

同じ種族が血で血を洗う醜い復讐の連鎖、そんな不毛の争いに意味があったんだろうか。

いや、そもそも僕らはこの戦いに意味を求めていたのか。

どちらにしろ……人の命が原因ならば、人の命でしか感情こころは納まらない。

僕たち“人間”は、理屈だけで感情を抑制コントロールできる立派な生き物じゃないのだから――――





巨大な扉の前で僕はまた躊躇う。この先に待つ運命の戦いと、未来を勝ち取るということを

そうするべきことが正しい……それはこの世界の誰が考えても、誰もが『正しい』と認めてくれる

戦いの勝敗がどうあれ、その先の未来に間違いなどあるはずがなかった。ならば当然、人はより善い未来を選ぶ

少数の意見は多数の意見に食い潰される、だからといって前者の意見が消滅するわけじゃない。少数派は消滅しない考えを抱えたまま動き、生きていかなきゃいけないんだ

けれど戦う理由に誤りはない、そう決断することが僕の正義でもあった。たとえ戦う相手が間違っているとしても

もう……止められない

なのに――――

ゴゴゴ…………

扉を開けたことで部屋の空気が外へ漏れる

流れた空気は金属の錆びた臭いに似てる


……一番嫌いな臭いだった


重い扉がまるで獣の唸り声のような音を鳴らす

そう、音の原因は明白だ。なのに気分と臭いの所為なのか、扉が醜い化け物に見えた。思わず腰にかけた剣を手にとろうと反応する、すぐに気のせいと気付くと同時に自分が無意識に牛歩していたことに気付いた


「戦いたくないよ……」


誰にも聞かれてはならない言葉、搾り出すようにその本音を口にした

けれどその意思は許されない。僕をここまで連れてきてくれた仲間達に、ここで退いては合わせる顔がない

だから負けることも許されない。たとえ腕が落とされようとも目玉が抉られようとも臓物を引きずり出されようとも

相手が誰であろうと、僕は必ず首を持ち帰る。誓ったんだ


「ようこそ」


扉を開けるとすぐ、玉座に座っていた者が低い声で僕に話しかけてきた

うっ……

奥に進むとあの厭な臭いがさらに強くなった。自然、視線が臭いの元を辿る……不意に一粒の雫が頬を打った

雨…………?

見上げると無数の剣が突き刺さっている、部屋を見渡すと謁見の間には不釣合いな山があった

目を凝らしてよくみてみると


それは……全身の血を抜き取られた人間の山、だった


天井には何百という無数の剣が死体の数以上に突き刺さり、残った僅かな血液も剣を伝って雨のように部屋を赤く染めていく

肉の塊が部屋の隅に所狭しとまるで敷き詰めるように築き上げられ、ぴちゃぴちゃと不気味な音が部屋中を奏でる

玉座へ伸びる赤い絨毯だけは元からその色だったのか、それとも流れた血で染められたのかは知らない。ただ僕を導くように玉座に続く絨毯には雨は降らなかった

その“道”の脇には腕や脚や首を人形遊びのように繋ぎ合わせた肉塊がある

神経は肉の山を崩さないよう縄のように死体を結びつけ、指や目玉や内臓のように小さな“部品”は別の死体の腸に詰められ、入りきらないものは口に詰め込まれているものもあった

貌の無い死体が恨むように僕を見つめる。まるで『もう少し早く来れば』『お前が迷わなければ』と非難しているようで心が痛んだ

死体は何かを形作ろうとしているのか、それとも儀礼的な『何か』があるのだろうか、それらの特徴的な死体だけは等間隔を空けて部屋に配置されていたのだ

だけど僕はこれが何かの罠だとか、大きな意味を持ってこのおぞましい死体を造ったと考えるよりも先に、ある言葉を思い浮かべた


装飾――――


そう、まるで死体モノを使って部屋を飾らんとしているかのようだった

芸術の一つとでも主張する気か……

内心、この死体芸術に毒づくも奥底では冷静な状況判断を思考していた

よかった、部屋の大部分を占領していなくて

死んだ彼らには悪いが、端に避けられているのは好都合だった。いくら僕でも死体の上を戦地にしたくない、精神的被害を受けるのは『ここに死体があった』という事実だけでもう十分だ

玉座の主は立ち上がると柔和な笑みを浮かべ、抱擁を求めるように手を広げて僕に近づいてきた

その姿は自分の知る親友の姿、だった


「どう?私の“作品”の感想は?」

「…………」


沈黙する僕を見て怪訝そうな顔で立ち止まる


「どうしたのかな?……あぁ、すごい臭いだろう?一応洗浄はしたんだけどね」


語り口調を崩さず、まるで演劇でもするかのように玉座の前を行ったり来たりする

鼻をつまんだり、臭そうにしかめ面をして見せたり、汚物を見るかのように死体から目を逸らす


「…………」

「臓器、血液、感情、悪臭……」


部屋に入ってから一言も発しない、返事すらしない僕に構わず語り続ける


「見た目も中身も精神も……虚構も真実もいつも、いつだって汚れてきた。染み込んだこの臭いも“人”の本質と真理だよ。そう思わないかい?」


その様子は無性に……


「どれをとってもどれを理解しても、その度に絶望させられる。全くもって人ってさ――――」


……腹が立つ


「ホント、醜いよねぇ?」


ダンッ!

ンッッ………………

玉座に俺が投げた血塗れの剣が突き刺さる。死体を刺すのに飽きたのか、余ったのか……“道”の脇にあった剣だ


「……由緒正しい玉座になんてことするんだい?」

「話すことはない、始めよう」


言いながら焦るように歩き出す。会話を続ければ、僕はきっと躊躇うだろう

戦いの中にいれば、誰もが戦いにのみ集中できる。これは死闘だ

必要なのは危機感、闘争心、そして……殺意のみ!

対する彼は先ほどの柔和な笑顔が嘘であったかのように冷たい貌になっていた

それを見てホッ、と安堵する

気が楽になった

彼が僕の知らない貌をすればするほど剣を向けられる気がする


「話すことはない?これから命乞いしか云えなくなるというのに、つまらないだろう」

「必要ないさ、君はもうつまらないと感じられなくなる」


僕も彼も近づきながら殺気を放つ。呼応するかのように血の雫が勢いを増して流れ落ちてきた

腰に下げた鞘は歩くたびに軽鎧とぶつかり合い、広い謁見の間にまるで戦いの前奏曲が流れ始めているかのようだ

――――不思議、だった

もう間もなく、友との死闘が始まるというのに

僕の心はこんなにも――――

スラッ!と……剣を引き抜く音が部屋に響いた瞬間、二人の距離はゼロになっていた













※重ーい話ばっかりでゴメンね。仮タイトルですけど中世時代テーマで、あと英語とか極力避けてます

っていきなり英語使ってましたね(^^;

これからも和訳わかんないとことかは英語使うようにします

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