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リィンロア・マジック・カレウス

 私は魔女、僕は魔法使い。

 童話や昔話に登場する、不思議な力を持った登場人物、その多くは私の事である。

南瓜を馬にしたのも、北に住む魔女も、毒林檎を食べさせたのも、青年に覚めん夢を見せた亀も。


 私の魔法は万能である、がしかしその行使には何らかの代償を必要とする。

その大半はくだらないものであるが、稀に物語が出来てしまうほどの代償を生むことがある。

 そしてその代償は、私にもわからない。

今この危機を救うためには、かなり大きな代償を孕む魔法を使う必要がありそうだ。

 あと一四日と二時間後、地球上から人類は滅ぶ。


 理由は超新星爆発の余波。これが地球を襲えば六秒後には地球上の生物は壊滅する。

これは予言。

 予言の代償は比較的少なく、精々がドアノブとの目測を誤ってスカる程度、だから月に一度翌月の未来を予言している。

 先月急に予言内容が自分でも理解できない結果になったため、より詳細な予言をした所これが判明した。

で、それから二週間、私は普段通りに過ごしていた。

別に救う気がないとかではなく、その気になれば六秒の間になんとかすることだって可能だから。

 しかしまぁ、どうやらとある国が異変に気がついた様子。

現在この異変を察知調査しているのは数百人だが、公表を決定したら万倍の人類が知ることと為る。

事が大事になれば、ソレだけ代償は増える傾向に有る。

もし数億人に目視できる範囲に起こったナニカ、そんなモノに魔法で干渉したら。......流石に私でも死ぬかもしれない。


 この所業故に私が再三物語の主人公となったのなら、私はいい加減主張したい。

古により伝わる魔法使いはいつだって、最悪の事態を回避をしているんだと。

そりゃあ主人公だけ見れば、いくつかは悲劇だったかもしれない。しかし私にはそれをするだけの理由があり、目的もある。

 私はいつだって人を救い続けてきたつもりだし、私が魔女である限り今後だってそうするつもりだ。

同時に人心弄び愉悦を貪ることもあるかも知れないが、それでも最悪は回避する。それが魔女で魔法使いの私の使命だと信じている。

 

 椅子から立ち上がり窓に向かえば、あたりは普段と変わらない田畑と小川、そして星空。

百年程前に移り住んだこの地はとても気に入っていたのだけど。これから起こす事の代償を考えてみればここに住めなくなる可能性も少なくない。

 それでも、少しでも代償を減らすため、数百年ぶりに魔導書と杖を持ち詠唱をするのは不壊の詩。

あらゆる物理法則と不幸を置き換え、生きとし生ける全ての者の絶対的な幸を喚ぶ。

『我が名はリィンロア・マジック・カレウス。始祖より世界を見守らんとし大魔法使い』

『万象、理を還し衝波と閃光を幻世の塵と化す』

『明星は豊作、波相は浄化。全てを益とし未完の星を照らし給え、全ては神代(しんだい)の名のもとに』


 世界を救った代償は……。









カレウスが目覚めたのは慣れ親しんだ部屋のベットではなかった。

「ん?」

鼻孔を就くのは慣れ親しんだバクテリアの匂ではなく、祭りで香るタレの焼ける匂いと人の匂い。

「ここは?」

あたりを見渡すと、今いるのは納屋のような場所であるというのがわかる。

「代償か」

そうつぶやくと、懐から魔導書を取り出し現状把握を開始する。

 求めたものを記す魔法。物語の登場人物にアドバイスをする時によく使った魔法である。

「就寝後、代償として異なる世界へと移動、護身措置として性別を男性化、ここは現代日本ライトノベルでよく見られる都合の良い中世とよく似た時代背景であり魔法が存在する、ここは大通り近くの廃教会の納屋」

要役しつつ読み上げ、口にした内容にうろたえる。

「......ライトノベル?」

「じゃない!それよりも魔法?えっ?魔法!?」

 当然カレウスだって異世界ぐらい行き来したことはある、なんなら案内人にだってなったこともある。

だから驚くのはそこではない、カレウスは今まで一度たりとも魔法使いを見たことが無かった。

自身が魔法使いのくせに、と思うかもしれないが、事実自分以外の魔法使いは存在を聞いたことすら無かった。

幾つかの話では同時多発的に魔法使いが登場する事もあるが、カレウスの魔法に元来不可能は無い。

つまり【カレウス】が【同時】に【複数】の場所に居ただけである。当然容姿も変え、話し方だって変えていたが。

そういう理由で年甲斐も無く......魔法使いの前で年齢なんてものはあってないようなものだが。

かなりテンションが上っていた。


「おっと、その前に」


 カレウスの衣服は地球に居た時のまま、つまり女性服である。

しかも代償の発動迄にラグがあり、こちらに飛ばされたのはベットに入ってから。すなわちナイトウェア。

【魔女】であるならば壮絶な色香の美女であっただろうが、護身の為にその容姿は男性。

いくら中性的な容姿とは言え、百八十を越える男性が来て良い服ではない。

自らの服装を慮って、相応な服装を創造する。

黒を基調とし紫赤と金を使った魔法使い風の衣装を創り出す。勿論鐘に溶けたりはしないそれは、現代日本人の魔法使い像である。

「うぉっ」

天井から落ちてきた蜘蛛はさておき、仕上がりを確かめるカレウス。

 その服装が技術的に低い世界で、王侯貴族並の衣服である事に気がつかない。


「よし、行くか」

 現代日本で安寧に浸っていた日々からの変化に気合を入れ、納屋の扉に手をかける。すると扉はひとりでに開き手が空を切る。


 自動ドア。無論そんなわけはなく、開いた扉の先にはただ、扉に手をかけ薪を抱えた子供の姿があった。


「......す」

「す?」

子供は驚き、薪を取りこぼし泣きそうな顔になって、勢い良く頭を下げた。

「すみませんでした!!!」

「え?」


 容姿と服を見て上位貴族だと判断した孤児である。なにはともあれ貴族に逆らうな、前に立つな、関わるな。

孤児達に徹底して教え込まれたその教えが、目も合わせずに小さくうずくまるこの光景を生み出した。

そんなことを知らないカレウスからしてみれば、不法侵入をして見つかったら謝罪されたという意味の分からない状況になる。


「いや、こちらこそ勝手に入ってごめんね?顔上げて?」

「そんなおそれおおい、貴族様の前に立つなど」


 平伏する少年を前にこれまた慌てふためく魔法使い(外見年齢一七)。


「ちょっと!なにやってるの!」

そこに現れるもう一人、齢十二程度だろうか活発そうな少女は眼前で平伏している少年をみてカレウスを睨めつけながらにじり寄る。

「ああ!ちょっとアルマやめて!すいません貴族様」

「えっ?貴族?」

少年の言葉にカレウスの服を見て徐々に青ざめる少女。

「ちょっ!違うから!貴族じゃないから!」

少年の二の舞いになってはたまらないと声を荒げて否定をする大魔法使い(笑)。

「え、じゃ、じゃあ、おうぞk......」

「違う!ただの魔法使い!」


地球では全力で隠した魔法使い、しかしこの世界に魔法使いが居ると聞いて、慌てていたのもありそう言ってしまった。

「あっ」

千年から生きる魔法使いとは思えぬほど、軽率だった。


「「え」」

「なんだ!魔法使いじゃない!」

「えっ、てっきり......よかった」

勘違いした少年を責めるような少女の声と、それに対する少年の声。

それはカレウスの知る人々とは大きく異なっていた。

 地球や、その他の幾つかの世界で【魔法使い】は偉大であった。

羨望と畏怖を一身に集め、名乗った名は天災などで失伝しない限り、尽く後世まで語り継がれている。

 つい先日も単騎、悟られず未曾有の危機から地球を救ったばかり。


その力と影響力は貴族なんて比でない、一国、或いは全世界だって、魔法使いを敵に回して生き残ることは叶わないだろう。

と同時に、しかし彼らの反応も当然のものだろうという思いも湧く。

 未来のスーパーで地球破壊爆弾が売っているわけが無いように、未来を描く手記が売っているわけが無いように、【この世界で一般的な魔法使い】が全員カトレアに類する程の力を持っているはずが無いと。


 空間を跳べば軍は意味を持たず。

 雨を金貨にすることが出来れば商いは成り立たず。

 死者は黄泉がえり、生者は骸に変えられ、呪い一つで国が滅ぶ。

 ツァーリボンバを遥かに越える力を瞬時に使える魔法使いが当たり前な世界、滅亡しない訳がない。


「そうただの魔法使いなんだ、ごめんね勝手に入って?」

 貴族でない事に安堵してか、尚も言い争う二人に声をかけたのは当然、リィンロア・マジック・カレウス。

 ともすれば万を越える年齢性別共に不詳の魔法使いである......筈なのだがその声は軽く、その容姿も十八程度にしか見えないため。とてもではないが【魔法使い】にも紀元前を数える化物にも見えはしない。

 貴族、もしくは商会のぼんぼんにしかみえない彼は、人好きする笑みを浮かべ目線を合わせて優しく声をかける。


「そうよ、貴方も違うなら違うってはっきりしなさいよね!」

「ちょっとレティ、お兄さんに失礼でしょ」

レティと呼ばれた少女は尚も食って掛かるが、それを少年が鎮める様子は見ていてなんとも和む。

幾つかの話のように完全な善人ではない彼だが。むしろ悪人よりの感性すら持っている彼だが。

お腹をすかせた迷子に無数のお菓子を与え、(理不尽)を被った少女に夢を見せる事もする程度には甘かった。

「ははは、そうだねはっきり言うべきだった、許してくれるかい?」

だから少し、この不幸な少女たちに手を貸す事にした。

 それを察したのか、少女はカレウスの非を突く。


「そうね......廃とはいえここは神聖な教会、その納屋に勝手に入って居たのは」

「ちょっとレティ!」

「あんたは黙って」

おそらく擁護の声をあげようとする少年だったが、すぐさま少女に嗜められる。

「そうだね、そこを突かれると痛いなあ」

全く痛くも無さそうに、ヘラヘラと頭をかく。


「でしょう?神官様に突き出されたくなければ、すこし手を貸してくれないかしら?」

「そうだね、しょうがない」

玄孫でも足りないほどの年の子どもたちの手伝いをしようと、自らの非を認め取り引きとして手を貸すことを決めた。

「それで?僕は何をすればいいんだい?」

「しばらくここで私達と暮らして、それで料理と水くみは貴方の仕事、勿論ただで、どう?」


この年の子供に水汲みは重労働だろう、慣れていたってそれは変わらない。

「勿論構わない、けれど私達っていうのは君たち二人?」

カレウスの視線は廃教会の入り口、小さな頭が4つ見えている。

「いいえ、私達孤児院のみんなよ」

それに気が付かない少女は、まるで罠にはめてやったとでもいうほど得意気に胸を張る。

孤児にしては回りすぎる頭と小綺麗な言葉遣い、けれど相手の顔を見ることまでは出来無かったらしい。

「わかった、じゃあしばらくよろしくね、レティ......と?」

「ノアです」

「ノアね、よろしく」

因みに、顔を伺う事とあれば少年のほうに分があるらしく、カレウスの隠す気のないニヤニヤ顔とレティのドヤ顔に顔をひきつらせていた。

心の中が読めるなら(カレウスには当然読めるが)

『またレティが暴走してわけの分からない事に』

といった具合だろう。

なかなかに愉快で気苦労のありそうな展開にワクワクしているカレウスは、やはり悪い魔法使いなのかもしれない。


「ふふふ」

「何?気味の悪い」

「やっぱり無知は最高ですね」

「一体何よ?無知は罪よ?」

「いえいえ、こちらの話です」

 かのソクラテスが聞いたら『知は空虚なり』とか言いそうな会話を交え、魔法使いは廃教会の扉を開く。その目にうつるのは期待。

 

 世界を救った英雄は、新しいボードゲームを始めるような気分で新たな世界へ、踏み込んだ。



次回はオリンピックまでに投稿します。

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