一周目 4話 想定外
「そう、meizuだよ」
meizuと名乗った人は、髪が短く、前髪と同じ深緑色の曇りのない目が片方髪で隠れかかっている。黒のタンクトップの上に涼しげな半袖のジャケットをはおり、踝ほどまである真っ白な長いスカートを履いているその姿はまるで----
「女...?」
「そうだけど...まさかそっちも男だなんてねえ...びっくりしたよ」
と言いつつも表面上は全くもってびっくりしていないmeizuさんを横目に俺は冷や汗をダラダラとかいていた。
は?女とか想定外だよ?ちょっタイム、まてまてまてまて、男だと思っておしゃれして来たら女でしたーとか同性愛者の俺には無理、無理だわぁ...
よし、ここはさっさとチケットを貰ってさっさと帰ろう。二度と来ねえぞ花岡市。
「い、いやぁmeizuさん女だったんですねぇ...びっくりしましたよ...ハァイ」
「ハハハ。まあmeizuって名前だったら別に女でもおかしくないからね」
一理あるけどでもネット上での言動とかさ!!!
「えっとチケットはぁ...?」
話を切り替えるとmeizuさん、いやmeizuはおもむろにポケットから封筒を取り出した。
「この中に入ってる。それで、」
meizuがニヤリとして封筒を人差し指と中指で挟んで持ち、口元を隠す。
「なんでこれが欲しかったの?」
痛いところをつかれた。meizuが男だと思って会いに来ました♡だなんて死んでも言えるわけねぇ...かと言って嘘をついても女っていうのに驚いた意味がわからない。meizuファンのフリをするか、ウン。実際ファンだし。
「meizuさんのファンだから...ですかねぇ...」
頭をポリポリとかきながらアハハと笑う。
「ふーん...でも、私のこと、男だと思ってたんでしょ?...まさかホモ?」
直球ストレートをくらい、俺の心にグサグサと突き刺さる。
「いや、元々女だって予想してたけど...なんて言うか...びっくりしたんだよ。本当に合ってたから」
辛い。辛すぎる。
かんが鈍い俺でも十分にわかるような嘘だ。
汗がダラダラと出てくる。季節は夏なのに氷点下の如く寒い。
するとmeizuはニヤニヤとして、指を指し、
「君、友達いないだろ」
と友達ZEROの俺を嘲笑うかのように言った。ナンダヨコイツキラァイ。ええい、もうこうなったらヤケクソだ。
「あぁ、いないが...で?」
「私が貴方の為に友達になってあげる」
なぁに言ってんのこの女。出会ってわずか1分で自分のファンであるぼっちのニート男と友達になりたいだあ?馬鹿げてるにも程がある。こういう軽い女は嫌いだ。
「こっちからお断りだ。俺は元々1人が好きな性格でな。それじゃ、ばいばい、meizuさん」
若干キレ気味だった俺は皮肉を込めた別れの言葉を告げ、二本指で挟んでいた封筒をひょいととり、俺は後ろを向いて歩き出した。
俺の好きだったmeizuはもういない。あれは別人なんだ。
そう思い一歩二歩と足を進めていると、
「ま、待って!」
と声がかかる。
振り返ると、meizuが一瞬ためらったが、次の言葉を発した。
「ごめん、言い方が悪かった。えって...その私も友達がいないの。だっだから!その........友達に、なってください」
その言葉に俺は驚いた。なんで俺なんかが。あいつに。
「条件が二つ」
その言葉は自然に俺の口から滑らかに滑り出ていった。先ほどの熱は覚めきっていた。
「一つはお互いの本名、連絡先、年齢を嘘偽りなく教える、もう一つは...」
「どれだけ俺やお前のことを知っても友達であり続けること。これを守れるなら俺は友達になってやる」
俺は鋭い眼差しでmeizuを見る。meizuは俺の出した条件にひどく驚き、戸惑っているようだった。しかし、数秒たった後、
「佐倉、すみれ」
桃色の唇から言葉が発され、俺はmeizuの方を見た。
「名前。佐倉菫。あなたの名前は?」
今までの態度と違うこともあるが、条件を本当にのんでくれるなんて思わなかった俺は唖然としていた。
「俺は...」
「俺は、緑川翔斗。25歳」
俺が自己紹介をした途端、meizuは目の色を変えて、俺にグッと近寄ってきた。
「と、友達になってくれるの!?」
「お、おう」
その激変っぷりに俺は思わず驚いてしまった。
「えっと私は22歳で、大学生、です」
大学生だったのか。意外だ。と思いつつ、俺は無言で手を差し伸べた。meizu、いや佐倉は俺の手を取りぎゅっと握りしめた。
それから俺らはメルアドを交換し、それぞれ変えることになった。奇遇にも佐倉は俺が住んでいる市の隣の市に住んでいたようだった。
今日は早く寝よう。そう思った。
どうも塩大福くんです。
いやー...暑いっすね...
最近家の前でセミが鳴いてるので余計に...笑
それではまた次回の後書きで!さようなら!