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悪魔なら問題ないよな!  作者: 塩大福くん
2/6

一周目 2話 花弁


 「チケット当たりましたよ。おめでとうございます」

 

 DCでその文が見えた時、俺はガッツポーズと無声で、きたぁぁぁぁぁ!!!という言葉を発していた。

 送り主はmeizuさんだ。にやけ顔になり、僕は思わずたれそうになったよだれを袖口で拭う。

 

 来た。何回妄想したかわからないような奇跡がきたのだ。

 

 「ありがとうございます!」

 

 とすぐさま返信を送る。

 

 事の始まりは十日前だった。

 

 いつも通りTwittarでmeizuさんの投稿を見ていると、三秒前に発信された新着のつぶやきがあった。そこには、

 

 「7月30日の『すたー✩みらくる』のチケット抽選企画!いいねとリツイーテしてくれた人の中から1人、チケットをプレゼント!当選発表や日時連絡はDCにて!締切は6月30日の23:59まで!」

 

 と書いてあった。「すたー✩みらくる」とは、ボーカロイドが歌い、オタ芸を極めた美少女たちがオタ芸を技として踊りを披露するアイドルグループだ。

 

 今日は6月28日。まだまだ時間はある。

 僕は即座にリツイーテボタンといいねボタンを押した。6月30日の8時時点でもう一度そのツイーテをちらっと見てみたが、意外と応募条件を満たしている人は少なかった。

 

 それから1週間後の夜。その抽選に僕が当たったのだ。

 

 「じゃあ7月10日花岡市の駅で会えるか?」

 

 というコメントが送られてきた。

 

 「はい!会えますよ!」

 

 と送り、目を閉じ、長い溜息をつきながら俺はタブレットのカバーをパタンと閉めた。花岡市はうちからそう遠くない。

 

 meizuさんはどんな見た目なのだろうか。と胸がワクワクしながら、俺は寝床についた。

 

 例の日の前日、俺はmeizuさんに会う時の服を買うために久しぶりに外に出た。妹は既に学校に行っている。

 

 カランカランというベルの音と、店員のいらっしゃいませーという高い声。

 ファッションには詳しい方ではないが、とにかく店内のものを見て回ることにしたのだが...分からん。と言うか店を間違えたような気すらしてきた。どう見てもここはシンプルなものしか取り揃えていない服屋じゃないか。orzとしか言いようがない。

 

 「お客様、なにかお困りですか?」

  

 と店員の1人が話しかけてくれた。

 肩まで伸ばした銀色のミディアムヘアー、ジーンズ素材のエプロン、キラリと光る銀縁のメガネ。その奥の藍色の瞳が俺を直視している。かなりの美人に思わずドキッとしてしまう。

 念のため言っておくが、俺は同性愛者だが、何も女性が嫌いという訳では無い。

 

 「あ、えっと、たっ、大切な人にあ、う約しょくをしてて...」

 

 終わった。コミュ障全開でしかも噛んで約束を約しょくと言ってしまった。オワタ。頭の中で壮大なクラシックが奏でられている。

 

 「お求めはトップスでしょうか?ボトムスでしょうか?」

 

 と店員さんが聞いてくる。

 

 「えぁっ、えっと、その...ど、っちもです」

 

 ただでさえ恥ずかしいのに店員さんは全くそれを気にしていないのが余計恥ずかしい。

 

 「すこしお待ち下さい」

 

 と店員さんは俺に似合う服を探しに行った。

 

 ああああ、終わったぁぁぁ...どうせならパソコンにブックマークしている「コミュ障を直す為の5箇条」をもっと読んでおくべきだった。

 

 「こちらはどうでしょうか、お客様」

 

 と先ほどの店員が差し出してきてくれたのは、半袖の黒いパーカーと、すね辺りまであるジーンズだった。黒いパーカーの内側は蛍光の黄色に染められている。今着ているジャージよりは遥かにオシャレだ。

 

 「あ、じゃ、じゃあそれで」

 

 とまたしてもコミュ障を発揮し、サイズを確認して、精算した後、俺はさっさと家に帰った。

 

 

 

 「貴方は運命というものを信じますでしょうか」

 

 

 若干ハスキーボイスなその声で目を覚ますと、俺は真っ白な部屋にいた。

 周りは割と広い。縦横6mくらいだろうか。

 そして、驚くくらいに部屋は殺風景だった。

 

 俺は確かいつも通り部屋に帰ってきて、パソコンを立ち上げて、それから---

 

 記憶がくすむようにそれからのことが思い出せない。

 

 ここにあるのは小さなテーブルとその上にある、真っ赤なホウセンカ、白い百合、青いアサガオなど、統一性のないたくさんの花が入った花瓶、今俺座っている椅子、そしてーーー

 

 見知らぬ女性が座っている椅子のみだ。

 

 女性。というものの、それは声を聞いたのみの判断だ。顔は黒いベールに包まれていて見えないし、全身も黒マントに包まれている。

 

 「お前は誰だ!ここはどこなんだ!」

 

 俺が叫び、立ち上がろうとするが。

 

 立てない。

 

 俺の足、胴、腕にはロープで椅子に巻き付けてあり、動こうとする度にガッと締め付けられる。普通のロープなら力ずくで引きちぎれたかもしれないが、太い上に何重にも縛られているのでそれすら出来ない。

 

 「もう一度、お尋ねします。貴方は運命というものを信じますでしょうか」

 

 

 「そんなんはどうでもいい、早く解いてくれ!」

 

 「貴方は運命というものを信じますでしょうか」

 

 俺の全身全霊を込めた言葉を無視して同じ質問を繰り返してくる。どうやらあちらの質問に答えないとこちらも質問不可能という訳だ。一刻も早くここから立ち去りたい。

 そもそもここはどこなんだ。誘拐?夢?異世界..は流石にないだろう。

 

 「貴方は運命というものを」

 

 また同じことを繰り返してこようとする女に俺は、

 

 「信じるわけない!」

 

 と叫んで女の声をさえぎった。

 

 「...信じるわけない。産まれるのも、誰かに会うのも、死ぬのも、沢山ある道の一つにたどり着いた偶然で、運命なんていう一本道なんてどこにもない。俺はそう思ってる」

 

 「......ッフフ」

 女が口に手を当て、おかしそうに笑う。

 

 次は俺が質問させろ。

 

 そういう前に女が言葉を発した。

 

 「私があと2回質問してそれに答えたら貴方を解放しましょう」

 

 「やるなら早くやってくれ」

 

 イライラしながら言うとそれと反対に女はニヤニヤとしだした。口元だけベールが透けているため、口角が上がっているのがわかる。

 

 「じゃあまず一つ目。貴方はこの花たちが何かはご存知かしら?」

 

 そうやって細い指で赤い薔薇、向日葵、赤い花--これは品種がわからない。--を、花瓶からをすっと抜き取り、左手に抱える。

 

 「...ただの装飾の花だろう。まあすぐに朽ちるだろうがな」

 

 女はまたしてもフフッと笑った。

 

 「不正解。この花は人の運命よ。ほかの花をご覧なさい?花弁が一つしかないでしょう?その花の持ち主が辿る運命の道筋がこの花弁なの」

 

 確かに、今女が持っている花以外は全て合弁花類と言われる花びらが1枚しかない花だ。

 

 「それならお前が持っているその花はなんだ?」

 

 「この花弁は、貴方の運命と貴方の運命の歯車を狂わせる運命の数」

 

 「貴方は随分特殊なお方。周りの人にまで影響を及ぼし、本来なら一つしかない運命を表す花弁がこんなに。それもそんな花が3本も」

 

 フンッと鼻で笑い、

 

 「そんなのはどうでもいい。早く次の質問をしてくれ」

 

 と質問を促す。

 女は花を二本の花を花瓶に戻し、俺がわからなかった花だけを手に持ち、

 

 「この花、綺麗でしょう?」

 

 と問いかけてきた。

 花は真ん中から黄色、ピンク色、僅かに白色という模様が広がっている。顔を近づけると、たちまち甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 

 「俺は花には興味が無い」

 

 と自分でもぶっきらぼうに答えてやったつもりだったが、女は表情一つ変えずまた話し始めた。

 

 「この花はジュリアンと言って貴方の運命の花。いわば貴方の花。花には一つ一つ花言葉があります。この花の花言葉は『運命を開く』」

 

 「これから貴方は様々な運命の分岐点に出会うでしょう。その運命の成れの果てがこの花弁。そしてその分岐点となるのがこの花の持ち主達」

 

 そう言って女は先ほどの赤い薔薇と向日葵を取り出し、俺の膝の上に載せる。

 

 「花弁の数ほど運命がある。花弁の数ほど命の差し引きがある。花弁の数ほど救いがある」

 

 何を言っているんだこの女はと今更ながら思う。すると女はパチンとこころよい音を指から出し、段々俺の視界がぼやけてきて-----

 

 「さあ、始めましょうか。終わらないループを。メビウスの輪を創り出すのです」

 

 最後にぼやけていく五感で唯一女の傲慢な声と赤色と黄色の花の色を感じた。

どうも塩大福くんです。

第二話が予想以上に長くなってしまいました。ごめんなさい。

次回はいよいよ本質に入っていきます。

それではまた次回の後書きで!

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