一周目 1話 日常
※ヤンデレ、メンヘラが苦手な方は閲覧をお控え下さい。
※ヤンデレ、メンヘラを愛している方は閲覧大推奨でございます。
「ほんっとに神曲!」
「最高...!」
「即マイリスしました!」
タブレットの液晶画面の中からアニソンのPVが流れていくと同時に、白い文字が右から左へと流れていく。
目でそれらを追い、缶に残っていたジンジャーエールを一気に飲み干すと、俺は乱暴に空になった缶を机にガンっと叩きつけた。最近買ったお気に入りの高音質なはずのヘッドフォンからは低レベルのカバー曲が流れる。
とにかく酷い。まず音声加工が強すぎる。それに、耳がキンキンして痛くなるような男性の汚い高音だ。元々は非恋を歌った歌なのだが、それを壊すかのようなぶっ壊れたテンションで音が流れていく。聴いているだけでイライラとしてきて思わず貧乏ゆすりをしていた。しかし俺の目当てはこの歌ではなく、別にあった。
白文字の中に、赤文字で流れていく文を見て僕は思わずにやりとしてしまう。
「マジで信者キモイwww」
その発言に白い文字で
「そんな事言わないでくれる?」
という文や
「いちいち反応するなよ」
と前文を批判する文、
「荒れてんなー」
という人事のような文も流れていく。
「やっぱここにもいたか...」
俺はニヤリとしながら赤文字が中央になると一時停止ボタンをクリックし、題名が映るようにして、すかさずスクリーンショットを撮る。
この赤文字のコメントをしている人は、Twittarの寒いポエムや、実況者、 Yautubeなどにも暴言にほぼ近いコメントをしている、meizuさんだ。
いつも皮肉屋で現代のネットを仕事に食っているような人達に毒をまき散らす人、俗に言う「アンチ」だ。
普通アンチは人目につきにくい3チャンネルなどでねちねちと書き込みをしているのだが、meizuさんは違い、人目につきやすいTwittarやニヤニヤ動画に書き込みをすることが多い。
もちろんファンや、ファンを行き過ぎた信者達には嫌われる存在である。
だが、そんな毒舌で皮肉屋なmeizuさんが僕は好きだ。
Twittarアカウントはもちろんフォローしているし、ありがたい事にフォローバックもしてもらっている。
言動や、Yautubeでの名前、Twittarでのつぶやきから、赤文字の書き込みやYauTubeでのコメントが全てmeizuさんと推測していた。
これはmeizuさんにTwittarダイレクトコメント、略してDCでこの書き込みはmeizuさんかと聞くと、5分も立たぬ間に
「おーwよく分かりましたねw」
という返信が返ってきた事から、推測は合っていたという結果に繋がった。
俺はピクチャーを開き、「meizuさん」と書かれたフォルダーを開く。そこには先ほどの写真と同じような写真が何十枚もあった。それを眺めて思わずため息をついた。
俺はmeizuさんを愛している。ただ単に好きなのではない。心から愛しているのだ。
meizuさんはおそらく男性だが、そんなのは関係ない。むしろ言ってしまうなら俺は同性愛者だ。
meizuさんに罵られたい。「へぇ...こんなのがいいんだぁ...」とニヤニヤした顔で引かれたい。いつもネット依存症候群立ちに向けているその蔑んだその目で俺を見てほしい。
そんな最高のシチュエーションを脳内で想像しただけでゾクゾクしてきた。椅子ごと半歩後ろに下がり、そろりそろりとズボンに手をかけようとしたその時。
「兄ちゃーん!晩ご飯できたよー!」
ドア越しに響くやかましいその声は凛と張っていて俺を驚かせるのには十分だった。
ビクリと身体を震わせ、慌ててタブレットを閉じると、
「お、おう!」
と負けじと大きな声で返事をする。若干声が震えた。
すぐに立ち上がり、クーラーと電気を消した後、リビングへと向かう。
キッチンには我が妹、緑川咲希がいつものしかめっ面で立っていた。
黄色のシュシュで括ったポニーテールの艶やかな黒髪にややつり目の夜空のように綺麗で透き通った目、透けてしまいそうなほど白い肌。ダブっとした灰色のパーカーにショートパンツと、いつも通りラフでカジュアルな服だ。
咲希は僕の顔を見た途端、長いため息をついた。
「まったく...兄ちゃんは咲希を手伝おうって気持ちにはならないのー?こんな萌え萌えの妹がいるのにー」
俺はギロリと妹をにらみ、すっと指を指す。
「咲希。お前がオタクじゃなかったら今頃俺もデッレデレだったかもな」
咲希は頬をふくらませ、
「ひっどぉーい!咲希だって、そんなにオタクじゃないもんだ!」
と言い、フンッと顔を反らした。
「はいはい。今日の晩ご飯は?」
俺が質問すると先ほどの態度から一変し、咲希は目を輝かせて僕に言い誇った。
「ふっふーん。聞いて驚け!」
腰に手を当ててかなりのドヤ顔を浮かべている咲希に俺は賞賛の拍手とともに
「ワースゴイデスネー」
という無感情な言葉をプレゼントした。
それを聞いた咲希はムッとした顔で、
「兄ちゃんふざけないでよー!」
と言った後、
「今日の晩ご飯はハンバーグですぞ!」
と付け足した。
それを聞いた俺は心の中で舞い上がり、一瞬3周くらい部屋を駆け回ってしまいたい衝動に駆られたが、
「そうか。早く食べよう」
という冷たい言葉だけを咲希に浴びせ、さっさと食卓の席についた。
咲希も今日何度見たかわからない怒った顔で席についた。
平凡で変哲もないこんな日がずっと続けばいい。そう思っいながら僕は、ナイフとフォークを手に取った。
どうも、塩大福くんです。
今回は前書きのとおり、ヤンデレとタイムリープが主題となっております。妹・咲希とmeizuとの間柄をどう取るか、どう取っていくか推測しながらこれからもご覧ください。
meizuの名前の由来は、ゲームで定番のメイスを少し濁らせたものです。
異世界保安隊~SPEAK〜と同時進行でやっていきたいと思います。
それではまた次回の後書きでお会いしましょう。