表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
哀しき少年は、剣に誓う。  作者: 山月 洋
2/2

一章 魔剣と騎士学校①

最初は、アル視点です。

 


 あれから4年。母さんと父さんが死んで、俺はマルコの家でお世話になっている。おばさんも4年前に亡くなった。当時王都に召喚されていて駆けつけられなかったクロードさんは責任を感じ、俺を引き取ってくれたのだ。


 あれから4年間、鍛錬をしなかった日は一度もない。たまに休暇を貰って戻って来るクロードさんにも稽古をつけて貰った。マルコとは毎日模擬戦を欠かさなかった。10歳になってからはマルコと一緒に冒険者ギルドに登録して魔物と戦って実践も積んだ。

 今年から遂に騎士学校に入学する。騎士への第一歩を踏み出すわけだ。あと3年で騎士になれる。

 ギルドの冒険者のおっさんに聞いた話だと、戦争は大体10年周期で起こる。だったらそれまでに正騎士になって、帝国と戦う。今度こそ、俺の大好きなこの街を守ってみせる。剣術はこの4年で磨ける限り磨いた。騎士学校で魔法も習得して、もっと強くなる。2度目の人生でまで後悔しないように。なんとなくじゃない、しっかり生きるんだ。




 アルの意志は強かった。精神年齢でいえばもうとっくに二十歳を過ぎているのだ。修羅場もくぐってきている。


 意志を固め剣術の腕を上げたアルだった。

 そしてそれはマルコも同じだった。

 母を奪われた憎しみ。自分の大好きな日常を奪った帝国には強い怒りを覚えていた。だが彼を強くしたのはそれだけではない。アルの存在だ。

 マルコが折れそうな時、いつもアルは彼を支えてくれた。そしてアルはどんどん腕を上げていく。

 彼はアルに置いて行かれるわけには行かなかった。アルはしっかりとしているが、時に冷静さを失う。そんなときに彼を支える人がいなければ恐らく彼はダメになるだろう。それを分かっていたマルコは、せめてアルを支えられる人が現れるまで。できるならば最後までアルと戦い抜きたかった。大切な人を失う悲しみをマルコも知っていた。彼にとって兄弟のような存在のアルを失うのは、絶対に嫌だったのだ。その想いが彼を強くさせた。


 彼らがいつも通り鍛錬をしていると、クロードが帰ってきた。


「ただいま!おっ、今日も鍛錬頑張ってるんだな。だが、今日はアル、マルコ、お前達に話がある。少し来なさい。二人とも水を浴びたら来なさい。今日の鍛錬はおしまいだ。おつかれ。」


 2人は頷いて、水を浴びに行った。


 クロードは制服を着替え、普段着になると、庭の椅子に腰掛けて夜空を仰いだ。

(アイン。お前の息子も立派に成長しているぞ。

 来週からは騎士学校にいよいよ入学だ。お前が望んだ結果ではないかもしれない。だがこの子は意志の強い立派な子に育った。あの剣をやってもいいくらいにはなったぞ。これからどうなるか、楽しみでもあるな…。アイン、アリシアさんもメルもみんな死んじまったな。みんな、俺がうまくやれたのかって言われればわからんが、少なくともこいつらは立派になったぞ。)


 そんなことを報告していると、2人がやって来た。


「クロードさん、準備できました。」

「そうか、よし、アル、マルコ、そこに座って少し待っててくれ。」


 そう言ってからクロードは椅子から立ち上がり、家の中に入ると、二つの大きな木箱を持って家から出て来た。


「2人とも、お前らは来週から騎士学校に入学だな。よく頑張った。だがまだ始まったばかり。ここからが本番だ。」


 すると、クロードは木箱を開けた。その中にはそれぞれ一振りずつ、しっかりとしたロングソードが入っていた。ロングソードの刀身には、無数の文字が刻んであり、柄には派手ではないが控えめにしっかりとした装飾が施してあった。


「この剣はな、俺とアインが若い頃剣を習っていた師匠からお前達が生まれた時に頂いたものなんだ。この剣はこの世に二振りしか存在しない、いわゆる魔剣だ。この剣には強い雷の力が込められている。龍殺しの雷だ。この剣はまだ真価を発揮できないが、お前たちと一緒に成長してくれる。魔剣だからそうそう劣化したりはしないが、手入れはきちんとしてやってくれ。長い付き合いになるだろうからな。」


 アルもマルコも言葉が出なかった。魔剣というのはそう存在するものではない。極みに達した職人が、自らの命や魂を直接込めて打つことで生まれるといわれている魔剣だ。他にも聖剣というものが存在しているが、聖剣は神や精霊に選ばれたものしか持てない。だが魔剣は違う。確かにそれだけの代物ということもあって、かなりの使い手しか手にできないものではあるが、魔剣は相性さえあれば誰でも扱うことができる。だが、魔剣も自らの主にしか力を使わせない。故に、魔剣というのは出回ることがほとんどないのだ。

 魔剣を一見習い騎士が持っていることなど、事例がない。


 王族や神託を受けたものであれば、聖剣を所有していることもあるが、この国で確認されている聖剣は、記録に残っているものでも、400年前に魔王が降臨し魔王討伐のため神託を受けた勇者が持っていた「光の聖剣」、それと現在も王室に引き継がれている「王の聖剣」、そして、300年前、世界を滅ぼさんと甚大な被害をだした、「バハムート」を討った大英雄アトラスがバハムートを倒すために大精霊から授かったという「精霊の聖剣」の、この三件しかない。


 魔剣自体も確認されている数が非常に少なく、とても貴重なものだった。


「魔剣…父さん、俺、こんなものもらっていいの?使いこなせると思えないよ…」

「安心しろマルコ。魔剣はお前達と一緒に成長するんだ。力に振り回されるなんてことはない。お前達が強くなれば魔剣も強くなる。どんどん強くなるんだ。そうすれば魔剣も応えてくれる。」

「でも…」


 弱音を吐きかけたマルコをアルが遮る。


「マルコ、俺たちは強くならないといけないんだ。その手伝いをしてくれるんだ。使わない手はない。」


 そう言ってアルはクロードと向き直り、木箱から剣をとった。それを見たマルコも慌てて剣をとる。それを見てニヤっとしたクロードは2人に説明を始めた。


「2人とも、剣をとったな。そしたら指先がどこかを切って、剣にお前達の血を覚えさせる。そうすれば魔剣はお前達の魔剣になる。さあ。始めなさい」


 アルとマルコは魔剣で指先を傷つける。すると魔剣は紅く輝き始める。そして輝きが収まると、彼らは魔剣に違和感を感じる。


「魔剣が…軽くなった…?」

「すごい…剣の重みが感じられないよ!」

「魔剣がお前達を受け容れて主とみなしたんだ。

 これでその魔剣はお前達だけの魔剣だ。大事にしてやれよ?」

『はい!』


 2人は魔剣を木箱に入っていた鞘にしまうと、魔剣を大事そうに抱えて部屋に戻って行った。


「2人とも…しっかりやるんだぞ…」

(まぁ俺の息子とアインの息子だ。しっかりやらないはずもねーな。)


 そう考えながら呟いたクロードは、家の中から持ってきた葡萄酒をコップに注ぎ、夜空を見上げながら晩酌をするのだった。



 翌日。世間を騒がす大発表がされた。その発表は、400年振りの大発表であった。


 広場で神官たちが大声で触れ回っている。


「神託があった!神託があったぞ!


 勇者、来たれり!勇者、来たれり!」


 勇者、来たれり。それは勇者の力を授かって生まれた者の力が目覚めたということ。つまり、勇者と対をなす、魔王がどこかに降臨したことを表していた。


 広場で発表を聞いたマルコが大慌てで家に帰ってきた。朝の鍛錬を済ませた後、マルコは買い出しに、アルは家で掃除をしていたのだが、買い出しに行ったマルコが30分もたたずに大慌てでかえってきたので、アルは動揺した。


「どうしたマルコ?何があったんだ?」


 息を荒くしたマルコは真っ青な顔で言った。


「はぁ…はぁ…大変だ…神託が発表されたんだ…魔王が…魔王が復活した!」

「魔王!?」

「あぁそうだよ魔王が復活したんだ!これから戦争どころの騒ぎじゃなくなるぞ…魔物が一気に溢れてくるんだ…」


 アルは魔王というゲームでしか聞いたことのなかったような単語に恐怖も感じていたが、なによりも、興奮を覚えていた。


「そうか…魔王か…勇者か…そうか!」


 少しにやけたアルを見てマルコは戦慄する。


「なんでそんなに嬉しそうなんだよー!」


 2人が騎士学校へ入学する2日前の事だった。


 そして2日後。

 王立アルンハイム騎士学校入学式当日である。


「マルコ!遅れるぞ!早く!」

「アルが道に迷ったからじゃーん!もう!」


 多くの貴族や騎士、大商会の子供が馬車で校門に入る中、2人の少年は走って学校に辿り着くのであった。




「うおぉ…こりゃすごいなぁ」

「まるでお城だね、家がいくつ入るんだろ…」


 なんとか入学式に間に合った2人がとてつもなく大きな入学式の会場に圧倒されていると、拍手と共に1人の生徒が段に登った。まさに黄金色と表現するのに相応しい長く艶めかしい髪をなびかせて段を登った美しい少女に、会場は静まり返った。

 するとアナウンスが流れる。


「新入生代表挨拶!」


「新入生代表、ルミナリア=マクマトルです。

 この度、新入生代表としての役目をーー」


 あまりにも大きすぎる拍手の音でアルはハッと我に返る。するとマルコが興奮して手をくるくるさせている。


「すごいすごい!勇者様だよアル!僕たち、勇者様と同級生だよ!」

「やっぱあの人が勇者様なのかー。めちゃめちゃ美人でしかも勇者で侯爵家とか半端ねーなー。

 将来は王太子殿下辺りと結婚してもうすごそうだなぁ。雲の上の人だよありゃ。」


 といいつつも段を降りるルミナリアに見惚れているアルをみて、マルコは呆れたようにため息を吐いた。


 そして入学式が終わり、寮の割り当てられた部屋で2人は荷物を整理していた。


「それにしても、勇者様美人だったねー!勇者様と同じクラスになる為にも、クラス分けの模擬戦頑張らないとだね!」

「そうだなぁ、勇者と毎日打ち合いしてれば、さっさと強くなれそうだしな。頑張ろう。」

「はぁ…」


 恐らく勇者の容姿が目から離れないのだろう。上の空のアルにマルコは困っていた。


(困ったなぁ、アルこれじゃクラス分けの試験も大変だぁ。何とかならないかなぁ)


 そんなことを思いながら片付けをしていると、正午の鐘が鳴った。


「さぁ、アル!時間だよ!行こう!」

「うーん」


 未だふにゃふにゃしていたアルを引っ張って、マルコはクラス分けの模擬戦を行う訓練場に向かった。


「それではァ!これからァ!試験のォ!説明をォ!行うゥ!」


 すごい喋り方の教官が説明を始めた。


「コホン、えー、まず君達にはこれから順番に、1人ずつ私と模擬戦を行ってもらいます。私もそれなりに腕が立つということで教官を任されておりますので、みなさん全力でかかってきてください。ちなみに、クラスはSSが1クラス、Sが5クラス、Aが15クラス、Bが30クラス、Cが30クラス、Dが15クラスとなっておりますが、SSクラスは勇者様がいらっしゃるこの学年のみになっております、SSクラスは人数も10人と少なく、大変狭き門となっておりますがみなさん、頑張ってくださいね。」


(戻すんだぁ…)


 喋り方が普通になった教官だったが、逆に丁寧になりすぎて違和感を感じたのはマルコだけではなかった。アルは勿論上の空である。


「それではどんどん行きましょう!1番、クライン候補生。剣をとってこちらに来なさい。」

「はい!クライン候補生です!よろしくお願いします!」


「あのクライン候補生ってボルダー公爵家の長男のクライン様だよな…」

「とんでもない大物がいたもんだ…」


 どうやら話によると、クラインはボルダー公爵家の長男のようだ。顔立ち、スタイル共に抜群。短く切ってはあるが、美しい金髪だ。

 そんな耳打ち話をよそに、審判の試験官は開始の合図をした。


「両者構えて!始め!」


 開始の合図とともに地面を蹴って一気に距離を詰めたのはクライン。


身体強化コーン・コルプス

氷槍グラキエス・ハスタ


距離を詰めると同時に簡易詠唱で氷の槍を5つ作り出し、放つ。教官は5つの槍完璧に払うが、それと同時にクラインの鋭い突きが教官を襲う。しかし教官はその突きすらも躱し、躱した体勢からクラインを弾き飛ばした。


「なるほど、簡易詠唱を使いこなすか…それに5つもの同時詠唱とは…素晴らしい。だがまだ荒削りだな。しかし、とてもいい才能を持っている。それに才能だけでなく努力の跡も見られるこの剣さばき…実にファァァァァンタスティック!」

「くっ…さすがにそう簡単には行かないみたいだね…ならこれで!」


 そう呟いたクラインが姿を消す。

 周りが騒然とし始めたその時、クラインが突如教官の後ろから教官に斬りかかる。教官は神がかったような反射でその剣を受けるが、クラインは攻撃をやめない。流れるようなその剣さばきはまるで舞踏のようであった。更にクラインの剣は氷を纏い、剣が掠った部分を凍てつかせる。


「ウォオォォンッ!素晴らしい!これは素晴らしいゾォォオォッ!」


 クラインが押しているように見えたが、クラインは焦っていた。クラインの攻撃は素早く鋭い分体力どんどん消耗する。その上、エンチャントを施し、身体強化の魔法を使っているため精神力も大きく消耗する。だが教官はそれをなんの自己強化も無しに、最低限の動きだけでさばいていたのだ。


「ダメか…」


 そういったクラインはその場に倒れこんだ。


「クライン候補生!素晴らしかったぞ!君ならSSも十分あり得る!発表を楽しみにしたまえ!骨のある生徒が入って来て私は嬉しいぞ!

「はい…ありがとうございます…」


 クラインはよろよろと立ち上がり、後ろに下がった。


 その後も何人かの貴族や騎士の長男達は善戦したものの、クライン程の試合は一度もなかった。

 そして…


「次!マルコ候補生!」

「じゃあ、見ててね、アル」

「おーう。がんばれー、」


「はい!マルコ候補生です!よろしくお願いします!」


 マルコの番になっても、アルは上の空だった。



「両者構えて、始め!」


 マルコは他の生徒と同じように開始と同時に距離を詰める。しかしマルコのスピードは、最初の試合のクラインすらも全く届かないようなスピードだった。教官はなんとか突きを弾く。

(速い…)


 マルコは一歩で体勢を立て直し、再び速攻をかける。マルコの剣筋をほとんどの生徒が追うことが出来なかった。

(このスピード…他の生徒とは比べものにならん…ひょっとすると勇者様にすら届くのでは…)


(やっぱり一筋縄じゃ行かないよね。なら…やってみよう。)


 マルコはとっさに距離をとって、魔剣に魔力を流す。するとマルコの身体は雷を纏い始めた。


「まさか…魔剣?」


 教官がそう呟くと辺りが騒然とする。

 まさか魔剣などを一生徒が持っているはずもないからだ。


「それではっ!」


 マルコの突きはそれまでとは比べものにならない速さだった。だが、マルコの突きはわずかに教官をの右腕を掠り逸れてしまった。まだ魔剣により強化されたスピードにマルコが慣れていないのだ。その隙を教官は見逃さない。マルコがしまったという顔で後ろを振り返ると、教官がマルコの頭に手を置いていた。


「とんでもない掘り出し物だ。だがまだ未熟。腕を磨きなさい。君なら異名持ちになれるかもしれないな。」

「…ありがとうございました。」


 マルコは苦い顔で後ろに下がっていった。

 辺りは未だ騒然としているがマルコはそれどころではなかった。


「アル!ちゃんとしてね!」


 そしてついにアルの番がやって来たのだった。


「次!アルフレッド候補生!」

「はーい、アルフレッド候補生です。よろしくお願いしまーす。」


 辺りがさらにざわつく。

 教官は顔をしかめる。


「ほぅ…D候補かな?」


 そしてアルが位置につく。


「両者構えて、始め!」


 アルは動かず、詠唱を始めた。


『我、雷光を纏いて槍となるーー』

「呑気に詠唱させると思うなよ!?候補生‼︎」


 アルの詠唱を遮ろうと、教官が距離を詰める。

 そして教官の突きがアルの目前に迫った瞬間…


纏雷じんらい


 アルに直撃するはずの教官の突きは大きく右に逸れる。


「なんだ!?」


 振り返ると、アルの身体はマルコの何倍もの強さの雷を纏っていた。


「それでは。」


 アルはそう呟くとまるで瞬間移動をしたかのような速度、いや、瞬間移動をしたのだ。そして教官の横に立ったアルは教官に剣を突き立てる。


「これでどうですか」


 アルは笑顔で教官に向かって質問した。


「あぁ、SSだな。おめでとう。」


 辺りの大喝采を浴びたアル。


 そんなアルを呆れた目で見ているマルコ。


「やり過ぎだよ、もう…勇者様見てから人が変わったように…はぁ…こまったなぁ〜」



 こうして、アル達は無事に?試験を終えるのだった。


ありがとうございます!

文章の構成(´・ω・`)

魔法にルビを振って見ました。ラテン語を元に長いやつは省略して入れてみたんですが、カッコ悪いかな?かっこ悪かったら教えてください。やめます。意外と自分で書くと長いので2日〜くらいのペースで頑張っていこうと思います。よろしくお願いします。

アドバイスもほんとにお願いします!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ