序章
大きなクラクションの音。
彼の目前に迫ってきたのは、一台の乗用車。
「ーーーあっ。」
堂本慎二、17歳。
親との意見の食い違いが原因になり、高校受験に失敗。それでも成績の良かった彼は市内のそれなりにいい私立高校に進学。
部活には所属しなかったが、その代わりに自分の趣味の熱帯魚飼育に没頭。
中学時代に勉強をしっかりとしていたため、高校でも苦労はせず、それなりにいい成績を収め、友達付き合いもそれなりにしっかりとしていた。
いつも通り学校の帰りに熱帯魚のお店に寄り、次はどの魚を飼おう。そんなことを考えながらの帰り道。
彼の平凡ながらもそれなりに充実していた人生は、その幕を下ろした。
…そう、1度目は。
「あれ…」
(そうだった、車に轢かれて死んだんだったな。そっか。死んじゃったんだなぁ。せめて彼女ができて、色々と一人前になっておきたかったなぁ。父さんにも母さんにもなんだかんだいって恩返ししたかったな。
大学生になったらバイトしてもっと大きい水槽買って…なんでかなぁ。)
「なんで…なんで死んじゃったんだよぉ…」
なにもない真っ白な空間。色々と疑問もあっただろうが、彼にその時にそんな余裕はなく、ただひたすらに、心残りや、遺してきた人たちの事を思い出して、それだけで精一杯だった。そうだったのだがー
「おめでとう!ラッキーボーイ!君には今から、二度目の人生を歩んでもらうことになったよ!ささやかな贈り物と、記憶と君の培ってきた経験を引き継ぐくらいしかできないけど、頑張ってね!今度こそ不運な死に方はしないよーにね!」
「な、なんです?それってどういうーーえっ?えっ?
うわああああああああああああああああ!」
「それじゃ!いってらっしゃーい!」
質問をする間も無く、突然現れた整った顔立ちの小柄な少年に無いはずの身体が突き飛ばされる。かなり高いところから落とされたことは彼にも分かった。
「やばいやばいやばいやばい死ぬ死ぬ死ぬ!あれっ?なん…で…」
高いところから落ちる。とてつもない恐怖だった。だが、彼は気を失ってしまった。
ーーーーーー
目がさめると、美人な女性に抱かれ、おっぱいを飲んでいた。
(なんだこれなんだこれなんだこれ、状況がよく分からない!けど!なんというかこれ!素晴らしい!)
目を輝かせている彼に気づいた女性はやさしく語りかける。
「アル君、ごはんおいしいですね。いいのよ、おなかいーっぱいいいのよ。よしよし、私のかわいいアル。元気に育ってちょうだいな。」
(いい、実にいいぞ。このままでいたい。素晴らしいぞ。ファンタスティック!)
それから30分ほど。
彼はようやく落ち着きを取り戻し始めていた。
(まずは状況整理だ。俺は死んだ。確かに車に轢かれて死んだんだ。そしたら、真っ白なところにいて、いきなり出てきた変な外国人の男の子に突き飛ばされて、落っこちて、目が覚めたらフィーバーしていた。なるほど、なるほど!?いやまていやまて、なんでだなんで生まれ変わってるんだ?記憶もあるし、なんでだ?ううん…もどかしいな。取りあえずここがどこなのかってところだよな。
まず、さっきの美人。あの人は俺の母親の人なんだろう。つまり、第二の母さん。美人だ。あの人の服装からして、日本ではないし、もっと言えば現代じゃないな。いや、もしかしてヨーロッパの田舎とかだと未だにあんな格好をしているのか?それは考えづらいけどなぁ。まぁなんにせよよくわからないから、じっくり考えていこう。)
なかなかにポジティブで落ち着いてはいたが、一度死を経験しているのだ。それなりに精神も強くなった。きっとそうであろう。
こうして彼は、アルフレッドとして、第二の人生を送ることになるのだった。
ーそして、5年の月日が流れる。
アルフレッド、5歳。それなりに自由に動けるように、言葉を話せるようになった彼は、この世界のことを少しずつ学び、少しずつ、この世界に順応し始めていた。
「ーー母さん!隣のマルクが遊びにきたよ!お庭で遊んできていい?」
「いいけど、アル?お庭の中だけよ?」
「はーい!マルク!遊んでいいって!いってきまーす!」
そう言って家の入り口へ走って行く少年はアルフレッドである。そして見送るのは母のアリシア。27歳。
入り口で待っているのがアルフレッドの幼馴染、マルク=プロクレット。苗字持ち、つまり、中流階級以上の子供である。
アルの父は商人であり、街中にちゃんとした家を買い、不自由なく暮らせる程には儲かっていた。
マルクの父はアルの父の幼馴染であり、苗字持ちとはいえ、兵士であるマルクの父が8年前起きた戦争で手柄を立て、出世し騎士になったたばかりだったため、子供の友達の家柄を気にしたり、ましては平民の彼らと距離を置くような真似はしなかった。
なんせ彼らも8年前までは平民だったし、彼の幼い頃からの仲間たちも嫁も元平民だ。そんな真似ができるほど傲慢な性格ではなかった。寧ろ人柄は大変よく、なによりも器の大きい人であったため、人望も厚かった。
「アル!今日も騎士ごっこをしてあそぼ!」
「うん!いいよ!」
マルクは武功を挙げ騎士になった父に憧れており、騎士というのはやはり、この歳の男子にとっても憧れの職業だったのだ。その上マルクは父が騎士だったので、騎士学校に入学し、騎士を目指すのは決まっていた。アルも、家に余裕があるのなら、マルクと共に自分も騎士学校にはいって騎士を目指すのも悪くないと思っていた。
そして2年後。彼らの運命を大きく左右する事が起きる。彼らの住んでいるプレタニア王国に、隣国のオルレキア帝国が宣戦布告。
彼らが暮らしていた国境の街、ルーンは戦火に飲まれ、街の住民達は早々に避難を始めた。
しかし、オルレキア帝国は新設された魔導銃騎兵隊を投入。王国騎士団はそれまで使い物にならないとされていた魔導銃に圧倒され、撤退を余儀なくされる。
帝国魔道銃騎兵隊の侵攻速度は尋常ではなく、瞬く間にルーンに帝国軍が攻め入った。王国騎士団も敵国の侵攻を想定し、防衛設備がある程度整ったルーンでの防衛戦においては奮戦したものの、帝国の予想外の侵攻速度により、王都からの増援は遅れる形になり、そう長くはもたなかった。
開戦からわずか5日後、ルーンは陥落、占領された。
避難の途中だったルーン市民は帝国軍から逃げきれず、捕虜となった。非道と知られていた帝国軍の噂は事実であり、捕虜となった彼らの扱いは酷かった。
当然女は無理矢理兵士達の慰みものにされた。
子供達もほとんど食料を与えられず、厳しい生活を強いられた。男は重労働をさせられ、兵士に反抗したり、兵士が気に食わないものは殺された。
その中、アルたちの母親も兵士に連れて行かれ、母が連れて行かれる時に抵抗した、アルの父アイン。
彼は幼少の頃からマルコの父クロードとともに剣術の鍛錬をしており、剣術大会で優勝する程腕がたった。
彼が騎士にならなかったのは、それなりの理由があったのだが、彼は商人になった後も時々剣術の鍛錬をしていた。アルやマルコにもきっと役に立つと言って剣術の指導をしていた。
そのため、アインはなかなか腕が立ち、並みの兵士では彼に太刀打ちできなかった。しかし、アインが幾ら腕が立つと言っても所詮は商人。騎士ではないため魔術も使えない。アインはアル達が八つ当たりされるのを避けるため、無関係の人を装ってアリシアを助けようと戦ったが、10人ほどの兵士を道連れに、その命を絶たれた。
アルは今にもアリシアを連れて行く兵士達に飛びかかろうというところだったが、横で兵士に殴られ気を失っているマルコを見て、自分がここで行っても無駄。父の犠牲を無駄にするだけだと悟った。
ルーン占領から2日後、帝国は本隊の到着を待ち、ルーンに留まっていた。王国も勿論この隙を見逃すはずがなく、増援として送られた王都の精鋭達は、ルーン奪還軍としてルーンに近付いていた。
その3日後、王国はルーン奪還作戦を開始。指揮官のポール=ハイネドルフ侯爵は、貴族出身の騎士だったが、市民の命を優先。騎士団にも大きな被害が出るのを覚悟し、全戦力で街に強行突入した。さすがの帝国軍も10倍近い勢力が決死の覚悟でゴリ押しされては半日と持たず、市民の犠牲も僅かに出たが、おそらく最小限の犠牲でルーンを奪還した。
そしてルーン近郊及びルーンに騎士団が防衛線を張ることで帝国本隊が参戦しても戦線は膠着。その後も王国は防衛線に惜しみなく戦力と物資を送り続けた結果、消耗しすぎた帝国軍は撤退を開始。
こうして、発想の勝利によりルーンを一瞬で陥落させた帝国だったが、最後はあまりにも情けない敗北を喫した。その結果、士気が低下し過ぎた帝国は敗戦し、王国に賠償として領土を割譲し、多額の賠償金を払うことになった。この時の皇帝、コールII世は帝国の歴史に、無能な敗戦皇帝として名を残すことになった。しかし、彼が目をつけた魔導兵器は、後の戦争に大きな影響を与える。だがそれは、遠い先の話である。
こうしてルーンに大きな被害をもたらし、アル達の大切なものを奪った戦争は幕を降ろすのだった。
時は流れ、4年後。
アルフレッド、11歳。
彼は4年前の惨禍をきっかけに、騎士になることを決心し、日々鍛錬に明け暮れていた。
ぼちぼちやって行きたいと思います。
文章の拙いところもあるとは思いますが、初めての投稿なので、確実に直して行きたいと思いますのでよろしくお願いします!