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須佐妖戦帖 第1章「八岐の口縄」  作者: 蚰蜒(ゲジゲジ)
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其の4 決戦の火蓋

澤蔵司たくぞうすは叫んだ。「村人を、村人を助けるのが先だ!腕を根元から崩せ!」

腕の根元に白狐たちは集中攻撃を浴びせた。

ピシャーーーーーンンン!!

腕の根元に白狐たちの弾丸のような砲炎が集中した。腕は焼き切れかかった。

すると息絶えたように動かなくなった。

「やったか?」

ズゴーーーーン!

地面から其の先が出て来た。其れは夜空に高く伸びていった。

「此れは手では無い!尾だ!」

ズゴーーーーン!ズゴーーーーン!ズゴーーーーン!ズゴーーーーン!

他の場所から同じ物が次々と出て来た。

まずい!頭が12在ると云うことは尾も12在ると云うことか?壱ノ隊!地上から生き残った村人を避難させろ!円陣を囲んで村人を包め!」

でかいむちのような尾が暴れ出した。まるで尾が意識を持っているようだ。

すると壱ノ隊の白狐たちが球体になって村人を包んだ。手の中の触覚が狙って来たが球体が光り出し、弾き返した。まるでシールドの様な働きをした。

眼をやると数人の物達が奔って来た。


「あ、あれは、須佐一族!」

10人程の志能備しのびが刀を抜いて奔っている。

「白狐殿!遅れて済まぬ。後10人程が頭の方に向かった」

「力強い!須佐一族が来たぞ!」


須佐の2、3人が両腕を掲げると前に振った。すると背から大きな燃える手裏剣がヤタの尾に飛んで行った。


ヒューーーーーーン!


尾に当たると弧を描いて再び戻って来て尾を襲った。まるで生きているようだ。

須佐たちは眼にも止まらぬ早さで尾の攻撃を除け、刀で斬り刻みくうから真っ赤に燃えた槍を出し、突き刺した。

「あれが人の動きか?」澤蔵司は感嘆した。「村人を此の間に逃がせ」村人を入れた球体は、其の侭、空の彼方に消えていった。

ヤタの尾は忽ち火達磨になった。


「よし、総攻撃だ」

須佐たちが集まり円陣を組んだ。

刀をかざし、「雷炎!」と、叫んだ。

ピシャーーーーーンンン!!ピシャーーーーーンンン!!ピシャーーーーーンンン!!

皆の刀からいかづち波が出て1つにまとまって空から一気に襲った。

どどどどどどどどどーーーーー!

尾はもろくも忽ち落ちた。

「よし、総大将の所に戻るぞ」


素地等は火の海である。無数の白狐兵が飛び回り砲炎を撃っていた。

童子が叫んだ。

「王子の!俺はヤタの背に乗る」

「何ですと!危険です」

建御雷神たけみかづちが一つの首に腕を回していた。

「ヤタ!どうじゃ!」全身から電撃が奔った。バリバリバリ!建御雷神が更に締め上げて首を引き千切った。

「ギャアアアアアアアーーーー」ヤタが悲鳴を上げた。

ズドドドーーーン!首は地面に落下した。

「なんと!此れは?!」首の根元には村人らしき姿があった。半分解けかかった身体が首の中にあった。腕が無い。甚吉の変わり果てた姿だ。


「タケミカヅチーーー!!」怒った遠呂智の首数匹が建御雷神目掛けて放炎を浴びせた。

「アガガアアアアア」建御雷神が燃え始め、身体が解け始めた。

「ヤターーーー!」童子が空中の白狐大将から其のまま飛び降りた。

「伸びろ!草薙!」すると草薙剣がスルッと大きく伸びた。童子は落下しながら草薙剣で建御雷神を攻撃していた大きな遠呂智の首を撥ねた。

ズバッ!遠呂智の背に飛び降りると間髪かんはつを入れず奔り、違う首も切り落とした。

かたじけない。童子」建御雷神は顔が半分解けて無く成っていたが、平気だ。「眼が1つになっちまったぞ。動きづらいな」

其の間、白狐たちが2つの首と頭を焼き切った。頭が地面に転がっていた。わなわなと動いているだけだ。


しかし、地面に落ちた4つの首に手足がはえ、蝙蝠こうもりの様な羽が出て来た。ニョキニョキ、バリバリ。

「視ろ!まだ生きてるぞ」素志て炎を吐きながら空に飛び上がった。

其れを視た柳田は思った。「ドラゴンだ!」

落とした違う頭からは蜘蛛くものような足がはえ、地上を物凄い早さで奔り廻った。

「ばけものめ・・・・」

須佐たちが駆けつけて其のばけものを次々に斬り裂いた。

「武角!」

「須佐之男さま、おまかせを」


すると蜘蛛のような首の口から霧掛かったもやが立ち籠めた。

「此れは・・・・・」

靄は辺りを包んだ。


辺りの景色が一変した。冥い谷底の様な世界だ。現世では無い。

「此れは・・・此れはヤタの世界だ。俺達を連れ込んだ・・・自分の力が半減して行くのを感じる・・・奴の思う壷だ」

何処いずこからか遠呂智の声がした。

「須佐之男よ。此の世界ではお前達は勝てないぞ。魂の死に至るぞ。宇宙から存在自体が無く成るぞ」

「ヤタ!何処にいる?!姿を表せ!」

「般若心経の色即是空とは此れか?彼等も知っていたんだ。マーラ(魔の蛇)とはお前のことだな」

「其れだけではない。彼方故知等に少し姿を変えて下界で暴れたよ。色々な名で呼ばれたわい」

「貴様・・・一体何者だ?!」

「何者?釈迦もそんなことを云うとったな」

「釈迦が此処に来たのか?!」

「釈迦は三千世界(宇宙)を解いた。此処を視た御蔭よ」


「須佐之男殿」王子の白狐が云った。

「釈迦は現世で涅槃(ねはん-死去)に入った。つまり、此処を生きて出たことになりますぞ」

「確かに・・・しかし、どうやって?」

「何処かに其れを示す書などが残っている筈」


「馬鹿め、此処ではお前等は無力だぞ。三千世界のちりとなって未来永劫、無に帰れ!」

「糞蛇野郎が!」と、人間ぽい罵声を浴びせたのは建御雷神だった。

遠呂智が全身をさらけ出した。

「此れが最後の戦いになるかもしれない」童子は天を見上げた。



八つの谷、八つの峰に股がる巨大さ・・・・


遠呂智は途轍も無い大きさだ。伝説の通りだった。

素志て空には幾多のドラゴン、地には何やらの化物が数知れず表れた。

「囲まれている・・・・」

「まて、動けぬぞ」

遠呂智の妖術にって重力が加えられた。

「か、身体が重い・・・・」

白狐たちも地面に倒れ伏した。

地面からはおびただしい数の餓鬼の様な小悪魔がニョキニョキと出て来た。

「ギャアギャア、キィキィ」

童子も建御雷神も白狐達も餓鬼に呑まれた。

「須佐之男よ、其の侭、餓鬼共に喰われろ」

「く、くそ、遠呂智め・・・う、うぎゃあーーー」

小悪魔共が噛み付き始めた。

「なぶり殺しになるぞ!」


其の時、童子の腰の草薙剣が勝手に抜け、小悪魔共を薙ぎ祓った。

ギャアアーーー、ピイイイイ。

「此れは・・・・伝説の倭男具那やまとをぐなの・・・・」


倭男具那(日本武尊-やまとたける)が東征の折り、焼津の地で、敵に欺かれ野原にて焼き討ちにされた。其の時、腰元の叢雲剣が、生き物の如く勝手に飛び出し、草を薙ぎ払い皇子のピンチを救った。

此の時より、天叢雲剣あまのむらくものつるぎを「草薙剣くさなぎのつるぎ」と改名した。


「そうか!草薙剣は遠呂智の尾から出た剣。奴の妖術は効かないんだ。草薙剣よ、ヤタをやれ!」

すると、草薙剣は立ち上がり、みるみると巨大化し、其の侭、遠呂智に猛スピードで地面を切り裂きながら奔り出した。

バババババババ!

「此の剣が何をしたいかーーーー!」

遠呂智は砲炎を浴びせた。しかし草薙剣は砲炎を真っ二つにして、尚も突っ奔る。

素志て遠呂智の胴体を真っ二つに切り裂いた。

「ウギャアアアアア!」

遠呂智は左右に倒れ伏したが、草薙剣に砲炎を浴びせかけた。其の砲炎は弾き返され四方八方に飛び散った。

空のドラゴン、地の化物たちに次々に当たり、粉砕した。

「重力の妖術が解けた!戻れ!草薙剣よ」

草薙剣は小さくなり童子の腰元に戻った。

其れでも何千もの魑魅魍魎ちみもうりょうが次々と出て来る。遠呂智は二つになった身体から・・・・パキパキパキ。蜘蛛の様な足が生えて二匹になった。

「此れではらちが明かない・・・・」


「須佐の童子ーーー!」

何処からか呼ぶ声がする。

「先生の声だ・・・」上を見上げると小さな光の穴から柳田が呼んでいた。

「何故?あんな所に先生が居る?」

彼処あそこは現世への出口だ。白狐殿、彼処まで跳べるか?」

「跳べますが、ドラゴンが追って来るでしょう」

にわかに童子や白狐達の周りは一帯が黒い煙に包まれた。草薙剣から発している。

「煙幕になる!此れに隠れて逃げ仰せる。退却だ!皆の者、退却だ!」

「須佐之男殿、戦わぬのですか?」建御雷神たけみかづちが云った。

「無駄だ。此れでは勝てぬ。無駄死になる」

ダダダーーーーー!雲の様な煙幕は彼等を包み込んでくれた。此の異世界周辺も巻き込んだ。

草薙剣は元名が天叢雲剣・・・雲を巻き起こす神剣・・・。


地上から遠呂智が容赦なく砲炎を浴びせている。

何処どこだ!何処にいる!?」遠呂智は煙幕に翻弄されていた。

「うわあ!」其の時、闇雲に飛んで来たドラゴン達に建御雷神が捕まり、連れ去られた。

「建御雷神ーーーー」

「童子!無理です。助けられない」白狐の大将が背に乗る童子に云った。

「王子の・・・すまん」

そう云うと白狐の大将から飛び降り、建御雷神を助けに云った。

「童子!貴方は飛べないでしょう?!ーーーー」

澤蔵司たくぞうすが童子を受け取った。

「童子!わたしと共に建御雷神を助けに参りましょう」

「澤蔵司!勝手なことをするなーーーー!」白狐の大将が云った。

「大将、大丈夫。わたしだって早く蕎麦を喰いたいですから。ははっは」

彼等は姿が視得無く成った。

「仕方無い。皆、あの光の穴に続け!」


「来る・・・」

柳田が外で待っている。あの口縄稲荷神社跡の前である。

ザーーーーーーーーーーー!!!!

壊れかけた鳥居の中から白狐達が飛び出して来た。

「王子の白狐衆!あ、あなたがたは?」

「われらは須佐一族。須佐之男さまの一派です」

「帰れたか・・・此処は・・・口縄稲荷神社?」

「そうです。尾村で村人たちを助けた白狐たちとボー然としていたら月が・・・」

「月が?」

「一筋の光を指していたんです。其の場所が此処だった。此処に戻ったら誰も居ない。鳥居は神の異界への入口。もしかしたら?と思ったんです」

「大将、貴方の波動を我々が感知したんです。此の鳥居から」現世に居残った白狐たちが云った。

「ドラゴンが追って来る。鳥居を破壊しよう」

「待ってください。須佐の童子は?奥様は?村長は?」

「彼等は深い闇底に落ちた・・・やれ!」

ピシャーーーン!ガラガラ。鳥居は破壊された。

柳田は動揺した。「王子の白狐殿!彼等は生きているかもしれない。此れでは・・・此れでは帰れない」

「帰れます。此処では無く出雲辺りにね」須佐武角がそう諭した。

「あ!・・・・須佐神社?!」

「須佐神社はみことのものです。必ず見付ける筈。まだ命の波動を感じる。生きています」


戦いは終わった・・・・。遠呂智は倒せなかった。また何時か復活するだろう。

月からの光は月読(つくよみー須佐之男の姉、夜の神)だったのではないのか?

りゅう座は元に戻っていた。


「先生、我々は郷杜さともりに帰ります。わたしは東京の王子稲荷神社。善かったら背に乗って共に帰りましょう」

「先生、お別れですね」千の白狐たちが平伏してくれた。須佐一族もそうした。

「うわ!あなたたちにそんなことされちゃ!バチが当たる」

皆が笑った。

「先生、あなたとは、また何処かで会いそうだ」武角は予感した。

「幾匹かの白狐は戦死した。此処での戦死は何時か復活出来る。しかし、遠呂智の異世界で死んだ者は二度と帰らない・・・・。皆に官位を与えたい。傷が癒えたら大晦日に王子の装束榎しょうぞくえのきに集合しよう」

「夜が明けて来た。朝日が眩しい。今日の陽は、また一段と美しい」

「天照様が我々に感謝してくれているのかな?」


生き残った数人の村人たち、其の中には正太も居た。

少し離れた町に送られていた。尾村の人は何が起きたのか?未だよく解っていない。只、只、信じられない恐怖だった。

「本当なんだ、本当なんだってば、八岐大蛇がよぉ」

彼等は大惨事にあって気が動転している、頭が怪訝おかしく成ったんだろう・・・と誰もが信じなかった。

「地震じゃろ?地割れもしたろう。村人たちは大半が亡くなったろうな」


其の後、戸場村、尾村跡に自警団、消防隊、警察やらが来た。此の地に大地震が起き、火災にあって家屋は焼け落ちた・・・・としか思えなかった。大蛇の痕跡、村人の屍体等何も残っていなかった。

「犠牲者の遺体が見付からないってのも怪訝しなことだな・・・」


八岐大蛇。

此の魔物が少なからず未だ伝説でしか残っていないのは、何の痕跡も、証拠も残していないからである。何やらの力で証拠隠滅をする。しかし、八岐大蛇は確かに存在している・・・魔はまた復活する・・・と確信している人達が日の本には居る。

天照大神の子孫・・・天皇族である。

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