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須佐妖戦帖 第1章「八岐の口縄」  作者: 蚰蜒(ゲジゲジ)
3/5

其の3 須佐之男

「手がぁ!手がぁ!わああああああーーーー!!!」

「何処から落ちて来た?!」

天井に異変は無い。

「一同、騒ぐで無い!」

村長が皆を鎮めた。皆、恐怖に打ひしがれていた。

柳田も腰が抜けていた。「あわわわ」


其の晩 生皮を剥がされた一頭の駒が畑に転がされた。奴の仕業であろう。


「武者の文に書いてあった・・・生皮剥がし」


「誰か、誰か片付けてくれ」

「村長、そんなこと云ったって・・・ひ、人の手だぞ。儂等わしらは厭だ」

「ええい、儂がやろう」

奥から油紙を持って来て包み、たたみの血を拭いた。が、畳は真っ赤である。

泣き出す者も居た。


「村長」

あの離れの少年と母親が立っていた。

「須佐の童子!」

村長がそう云うと皆が振り返った。

「物の怪小僧だ。こんな時に何だ?」

「馬鹿もん!尊いお人ぞ」

村長はそう垂らし述べた。


須佐の一族と合流し共に戦うことを誓わん


「須佐・・・少年は末裔か?」柳田は思った。


母親が述べた。

「村長、善いのです。私たちは存在自体が忌むべき者ですから」

「奥さま・・・」


「貴方が大学の先生ですね。信じられないと思いますが、何が起きているか?お解りですか?」

「わ、わたしは風習や伝説を利用して超常現象に視せ掛けた殺人事件だと思う・・・あんたは其の一派か?」

童子はニヤッとした。素志て彼が手を広げると間に映像が浮かんだ。

其れは戦国武士と須佐一族、陰陽師と視られる者達が遠呂智おろちと戦っていた。


グオーーーーン。バリバリ!ズサーーン。


火の海だ。

「視ろ!あのでかさを!駄目だ!まるで歯が立たない。我我は全滅だ」


シーーーン。

「戦国の世に予言された。此の地に遠呂智が復活すると。上皇は我我一族と天皇の軍隊を率いて倒せと仰せられた。戦いで生き残ったのは須佐の一族数人と陰陽師が一人だけだった。武士達は全滅、遠呂智も傷付いた。素志て深い地の底に戻った。生き残った陰陽師は避難させた村人たちと封印の呪術を掛けた」

「神社と石碑・・・」

「そうだ。しかし、石碑は元元は八つあった。遠呂智が地の底から砕いたんだ。呪術が崩れた・・・しかし誰も再建出来なかった。の陰陽師の封印の仕方、力を持ち合わせていなかった。何時かまた復活する。俺たちは此の村に留まって時を待った」

「あなたは須佐一族の末裔か?ま、まさか建速須佐之男命たけはやすさのおのみこと?」

「そうだとも云えるし、違うとも云える。魂だけがそうだ。身体は借りている」

「荒ぶる神!」

「違う!天でのことは身体を遠呂智に乗っ取られたんだ」

「古事記にある、駒の生皮を剥いで家屋にぶちまけた逸話か?」

「駒の生肉を喰らおうとも思った。しかし、なんとか理性は残った。姉さんは動揺して洞窟に籠り、考えた挙げ句、わたしを下界に下し、遠呂智を倒して呪いを解けと云った。そうしなければ、仏門に云う三千世界(宇宙)が滅びる」

「姉さん・・・天照大神・・・」

「わたしが詠んだ歌は、隠し言葉だ。警告だよ」


八雲立つ 出雲八重垣 妻籠に 八重垣作る その八重垣を


「復活するだろうことは解っていた。後は更に妖力や戦闘力が増しているだろう」


八雲立つ (八つ首の悪雲が来る)

出雲八重垣 (出雲に何重もの壁を作れ)

妻籠に (妻を喰らいに来る。守るんだ。籠(隠)すんだ)

八重垣作る (何重の壁で防御にしろ)

その八重垣を(壁を盾に攻防しろ)


「城郭か」

「そうだ。其の時代にはそういう言葉が無かった。強力な居城、軍城を作れと詠んだ」

「出雲の須賀の山の上に」

「しかし、数代後の子孫が魂を捕われた。大国主と云う」

「大国主!」


出雲大社の大国主。多くの別名を持つ。

大国主神おおくにぬしのかみ

・大穴牟遅神・大穴持命おおあなもち大己貴命おほなむち

大汝命おほなむち

大名持神おおなもち

八千矛神やちほこ

・葦原醜男・葦原色許男神あしはらしこを

大物主神おおものぬし

大國魂大神おほくにたま

・顕国玉神・宇都志国玉神うつしくにたま

国作大己貴命くにつくりおほなむち

所造天下大神あめのしたつくらししおほかみ

・幽冥主宰大神 (かくりごとしろしめすおおかみ)


「因幡の白兎は彼の話だろ?」


○稻羽之素菟(古事記)

大穴牟遲神(おおむなぢのかみ=大国主神)の兄弟(八十神)たちは、稲羽の八神上売やがみひめに求婚したがり、国を大国主に譲ってしまった。稲羽に出掛けた時、八十神は大穴牟遲神に袋を持たせ、従者のように引き連れた。


気多けたに来ると、裸のあかはだのうさぎが伏せっていた。兎は、八十神に「海塩を浴び、山の頂で強い風と日光にあたり、横になることだ」と教えられた通りに伏せていたが、海塩が乾くにつれ、体中の皮がことごとく裂けてきて、痛みに苦しんだ。遅れて現れた大穴牟遲神が「なぜ泣いているのか?」と聞いた。


兎は

「私は隠岐の島から此の地に渡ろうと思ったが、渡る手段が無かったのです。其処で、ワニザメ(和邇)をあざむいて、『私と貴方達では、どちらの同族が多いか数えよう。此の島から気多の前まで並んでおくれ。私が其の上を数えて渡ろう』と誘いました。すると、欺かれてワニザメは列をなし、私は其の上を踏んで数えるふりをして渡って来て、地に下りようとした時、『お前達は欺されたのさ』と言いました。すると最後のワニザメが、たちまち私を捕えて毛をむしりました。泣き憂いていたら、先に行った八十神たちが『海で塩水を浴びて、風に当たって伏していなさい』と教えたので、そうしたところ、この身はたちまち傷ついてしまったのです」

と云った。

大穴牟遲神が兎に「今すぐ水門へ行き、真水で体を洗い、その水門のがまの穂を採って敷き散らし、其の上を転がって花粉をつければ、膚はもとのように戻るだろう」と教えたので、そうすると、其の体は回復した。


其の兎は「八十神は八上比賣やがみひめを絶対に得る事は無いです」と大穴牟遲神に云った。

八上比賣やがみひめは八十神に「貴方達の云う事は聞かない」と跳ね付け、大穴牟遲神に「袋を背負われる貴方様が、私を自分のものにしてください」と云った、其の兎は兎神となった。


「和邇だ。皮は剥がされないが、其れに近い仕打ちがなされる。しかし、後世では兎は皮を剥がされたことになっている」

「三輪の伝説は尤も近い」


○三輪山箸墓伝説(日本書紀)

大物主(=大国主)は百襲ももそ姫(倭迹迹日百襲姫命~やまとととひももそひめのみこと)と神婚し、妊娠した。彼は夜に会いに来るだけで姫は、はっきり顔が解らなかった。不満を感じた彼女は「日中にはっきりとお姿を視せてください」と懇願こんがんした。「わかった。私は明日の朝、櫛箱くしばこの中に入っている。其の姿を視ても驚かないように」と告げた。

奇妙な返答に戸惑いながらも翌日、櫛箱を開けた。其の中にはくちなわが入っていた。姫が悲鳴を上げると、其の蛇は人の姿になり、「昨夜、私の姿を視ても驚いてはいけないと云ったのに、悲鳴まで上げて私に恥をかかせたな」と云い、大空に舞い上がり、御諸山(みもろやま~三輪山の古名)に飛んで帰ってしまった。百襲姫は夫が蛇だったこと、怒って山に帰ってしまったことで気が動転したのか、陰処(ほと~女性器)を箸で刺し、絶命してしまった。


「此の話は随分と変えられている。大物主は子を産んだ姫を陰処から喰った。後悔した彼は山に帰ったんだ。わたしは大国主が遠呂智になって行くのを知っていた。理性が行ったり来たりしていた。だから手を出せなかった。で、後、姉さんが出て来た」

「天孫降臨か・・・」

「姉さんが配下のものに始末させようとした。国譲りだ。遠呂智が大国主を使って現世を支配しようとしていた」

天若日子あまのわかひこは精神を乗っ取られたから殺された・・・」

「出雲大社の大きな注連縄とやらを視ろ。あれは大蛇おろちぞ!遠呂智が支配すると云う看板だ」

建御雷神たけみかづち建御名方たけみなかたの戦いは建御雷神が建御名方の腕を引き千切る・・・」

「腕両腕をもぎ取るとどういう姿になる?」

「・・・蛇?」

「そうだ」

「つまり、あなたは古記は、八岐大蛇との関連を書いたものだと云うのか?」

「天孫は大国主を殺さなかったが、其の罪を被せた」

「わ、わかった。混乱しているが」

「さっきの生皮を剥がされた腕は、多分居なく成った村人の腕だろう。遠呂智の仕業ぞ・・・と。腕の無い人間は蛇ぞ・・・と、奴が脅している」

「八岐大蛇とは何だ?」

「解らん。何千年?何万年も生きているんだろう。縄文でも表している。いて云えば「魔」だ。此の世に魔を蔓延はびこらせる」

「あなたは戦って勝てるのか?」

「解らないが、頼りになる武器はあるし、仲間も駆けつける。わたしには呪われた時から付いた遠呂智の魔力もある」

「頼りになる武器?仲間とは?」

「武器は此れだ」

精製した大刀を視せた。

「草薙の剣だよ」

「草薙剣!遠呂智の尾から出たと云う」

「わたしは尾張熱田神宮に行って、其の旨を伝えると大急ぎで再精製してくれた。神官、陶工の霊力も備わっている」


柳田は此の途方も無い話をどう受け止めたら善いのか混乱していた。

母親が云った。

「先生、貴方は此れから起こりえることを記録して万人に伝えてください。村のしゅうは今の内にお逃げなさい」


「ちょっと、待てや。村長、何の話や。行き也来て此の小僧は奇術は視せるは、大法螺吹いてるは・・・先生!何なんですか?!こりゃ?」

「正太さん、わたしも信じられんのです」

「大体、記紀や風土記なんてもんは嘘っぱちでしょうが?」

「学者は何かの事件を神話めいた話に編纂へんさんしたと睨んでいます。天皇は現人神である・・・神にして国家を統治しようとした。確かに其れが現実っぽい。しかし、学者の観点からの学説です」

「そんな化物が本当に出るなら警察を呼ぼう。軍隊を呼べば善いだろ?」

童子が云った。

「呼んだ処で犠牲が増えるだけだ。其の前に八岐大蛇をやっつけてくれと頼むのかい?其れこそ信じまい。此の何でも迷信だとしてしまった日の本の国で。其れに時間もない。遠呂智は今夜動き出す」

「今夜!」


「童子、かたじけない遅れて」

其の声に皆が庭を視ると、大きな白狐が居た。駒ぐらいの大きさだ。鼻の先に小さな炎が燃えている。尾が四本あった。

「王子の大将!」と須佐の童子が歓喜した。

「あ・・・あ・・」村人等は全てを・・・信じた。



「童子、千の仲間を連れて来ましたわ」

「彼女は関八州(関東~東北一帯)の妖狐の大将だ」と童子が云った。

柳田は知っている。「東京の王子神社に祀られる白狐・・・」

「口縄稲荷神社の狐像は白狐の分霊だ」童子がとも云った。

「そうか!口縄を白狐が封じ込めているんだ」

白狐が「童子、龍座が真北に移動している」と云った。

「古代の北極星の再現だ」

「村人を避難させましょう。わたしの仲間が外に出るまで連れ添う。澤蔵司たくぞうす将軍!頼むぞ」

すると、空から数匹の白狐が降りて来た。

「御任せを。村の者達、家に戻り荷物を纏めなさい」


村人達はかしこまり「ありがとうごぜえます。畏れ多いでございます」

「村長は逃げないんですか?」

わしは戦う」

「戦うって?何云っとんだ?」

「儂の名は建御雷神たけみかづちじゃ」

「建御雷神!!」

童子と母親が頷いた。

「先生も村人とお逃げなさい」

「わたしに戦う術は無いが見定めたい」

「山の上まで行けば大丈夫。村人は其の侭、尾村までお逃げなさい。先生は山頂から事のあらましを視て居てください」


澤蔵司が数匹を従者に村人と柳田を送っていった。

其の時、地面からいかづちが放射された。村人を狙っている。

「危ない!」間髪かんはつを入れず、澤蔵司が鼻先の炎を電磁波の如く、雷にぶつけた。

雷が何本も襲ってくる。白狐達が皆、防いだ。


「ヤタだ!逃げろ!奔れ!」

「わああああーーーーーーーー!!!」

なおも土中から雷が襲って来た。

バリバリ!ズドーーーン!

「奔れ!奔れーーー!」

子供が倒れた。「花子!花子ーーー!」

白狐が其の子を背に乗せ、空に舞い上がった。


村人は山まで逃げ仰せた。女の子は白狐の御蔭で無事助けられた。

「先生」

「正太さん、わたしは此処で戦いを見定める」

「先生、無茶して死なんでください」

「大丈夫。そんな勇気等無いし、ほら、まだ膝がガクガク云ってる」

「ははっは」二人は笑い合った。助かった・・・と云うほっとした気持ちからだろう。

「正太さん、しばしの別れだ」

「先生、二三日じゃ帰れなかったね」

澤蔵司達は村人の無事を確認すると空に舞い上がり戻って行った。


「まてよ」柳田がふと思った。「村・・・しっぽじゃないか。まさか古来、遠呂智のしっぽが隣村まで・・・」

ズシーーーーーン!!

物凄い轟音と共に盆地全体に穴が開いた。

「ヤタが出るぞ!白狐の者たち、用意は善いか?!」童子が云った。

「おおーーーー!!」空には千の白狐。

童子は母親をくしに変え、髪に刺した。

「童子、わたしの背に乗ってください」と王子の白狐が云った。

かたじけない」童子を乗せ、空に舞い上がった。

村長が変身した。「おおおおおーーー!!」其れは身の丈10メートル程の怪力建御雷神になった。

「儂は雷神じゃぞ!ヤタめ、俺の専売特許を盗るな!」


ドドーーーーン!!

「オオオオーーーーン!!」咆哮と共に遠呂智が姿を表した。

「うわわわわわわ」柳田は火っ繰り返った。


八つ頭で八本尾、眼は赤酸漿、背中には苔や木が生え、腹は血でただれ、八つの谷、八つの峰に股がる巨大さ・・・


「彼等はあんな化物と戦うのか!」

龍なのか?蛇なのか?此の世のものでもなけりゃ、伝説の姿とも違う。此れは巨大な悪魔だ!魔王だ!


童子達が空から襲う。「ヤタ!覚悟しろ!」白狐達はまるで軍隊の進撃だ。千の白狐の群れが統一されている。

建御雷神は既に遠呂智の背に乗っていた。


柳田は山から視て居た。「でかい、盆地の広さと変わらない。村の盆地は遠呂智を押さえる蓋だったんだ」

「彼等はヤタと呼んでいる・・・」


「タケミナカターーー!貴様ぁ!」遠呂智が人語を喋った。

やかましい!貴様がでかすぎるんだ。奔ってたら、其の侭乗っかっちまったわい」

遠呂智は其れでもまだ首と上肩しか出ていない。建御雷神を振り払おうとしている。


「童子!ヤタの首が多いですぞ!12はある!」

遠呂智の首々が口から火を放った。ブワアアアアアアーーー、ゴオオオオオ。たちまち、村は火の山だ。

身体からは四方にいかづちが放たれている。ピシャーーーン!山を崩す気だ。

炎は鉄をも溶かす威力で、雷の電撃は砲弾のようである。雷が石碑を崩そうとするが、弾き返されている。

「石碑の呪術は効いている・・・遠呂智は此処から出られないんだ」柳田が思った。

「しかし、此処も危険だ」


「白狐どの、波状攻撃を首にかけよう」

ドゴーーーーン!!

「何の音だ?山の向こうから聞こえた」

「あ!あれは?!」隣村、尾村の方角である。柳田は山から何やらの陰が視得た。地底から奇妙な腕らしきものがうごめいていた。

「童子!隣村からヤタのものらしき腕が出た!童子!童子ーーーー!」

「先生は彼処あそこで何を叫んでいる?」

「隣村からヤタの腕が表れたと云ってますぞ」

「腕だと?!ヤタの奴、腕を手に入れたのか?」

尾村から悲鳴が聞こえて来た。

村人達が襲われた。

「澤蔵司将軍、助けに行ってくれ」


「我に一個大隊が付け!尾村に向かう」

まるでミサイルだ。

「あれは?何だ?」

澤蔵司の隊が視たものは途轍も無い化物である。

大きな腕と手が地面から突き出ていた。其の掌には牙のはえた口と触覚のような、むちと云える様なものが無数に伸び、村人をくるみ、次次に喰っていた。手の甲には突き出た眼がぎょろりと辺りを見回している。手元には喰い散らかした首や足、臓物なのがおびただしく散乱している。

駐在が狂った様に発砲していたが、何も効果が無い。結局喰らわれた。

「わあああああ」「ぎゃああああ」

「地獄絵図だ・・・・」

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