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Epidemic  作者: 不在通知
2/2

感染

 このオフィスビルの屋上は、ここのオフィスの社員達にとって唯一の喫煙所だった。

前まではデスクでも喫煙できたのだが、最近の分煙・禁煙ブームの煽りを受け、

俺含む数十名は、炎天下だったり寒空だったりする屋上まで追いやられてしまった。

しかし案外、俺はこの場所を気に入っていたりする。

10階立てのビルの屋上には、管理人の趣味で植えられた緑が広がり、

あちこちの草の間からは花が顔を出している。

このあたりでは平均的な高さの10階という高度は、街並みの凹凸を一望できる。

背の低い手すりからすこしだけ身を乗り出して下を眺めると、

昼時でごったがえす大通りが俺の目を飽きさせない。

休むにも、サボるにも、ここは丁度いい場所だった。


 だらだらと一服していると、薄汚れたスーツの男が1人上がってきた。

俺のそばによってきて火をくれないかと言うのでライターを渡してやると、

何度かカチカチとライターの火を付けて、それだけで満足してライターを返してきた。

おかしな奴だと思ったが、少しだけ興味がわいて、世間話を振ってみた。

どこの従業員だとか、最近どうだとか、とにかく無難でどうでもいいやりとりをいくつかした。

曰く、彼はここの24階の研究員で、人間が自力で空を浮遊する研究をしていたそうだ。

ああ確かに、その辺の階の連中はそんな感じのことをやっていた気がするが、

それにしたって人体浮遊とはあまりに突拍子も無い、無茶苦茶な研究だ。

率直にそう告げると、彼は嬉しそうにして、実はたった今その実験に成功してきた所らしい。

まさか。と思ったが、訝しむ俺の目の前で彼は、ほんの数cmだけ実際に浮いてみせた。

俺は素直に驚いた。人間、飛ぼうと思えば飛べるものなのだな、と感嘆した。

そんな俺をよそに彼は、今からこの空を飛びまわって、散歩に行くのだと言う。

もはや疑わなかった。


彼は背丈ほどもある鉄の手すりに一足で飛び乗ると、行ってくる。とだけ俺に伝えた。

俺が頷くのとほぼ同時に彼は飛び立った。

ふわりと浮いて、しばらく近くのビルの上をゆっくり漂った後、

彼の姿はビルの隙間、空の向こうへと消えた。

ビルの下の大通りからは、空飛ぶ人間を目撃した驚きの声が聞こえてきた。

まぁ俺もデモンストレーションでは驚いた、無理も無いことだろう。

目線を空からもどすと、二人分の煙草が、灰皿でくすぶっていた。

俺はそれを両方きっちり揉み消して、自分のオフィスへと降りていった。

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