暗く寒い雨の夜。
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雨が降っている。
しとしとと、細く糸を引くような雨粒が落葉の上に落ちる音だけが静寂に混じり、周囲は真の闇と呼べるような暗さに包まれている。
吐く息は白く、手の指は痛いほどにかじかんでいるが、悟はその半ば感覚のない手に強く一本の黒い片刃剣を握り締めながら、それを振り上げていた。
目の前には、微かに震える手を胸の前で組み合わせながら土の上に跪き、涙を流してこちらを見上げている一人の少女がいる。
少女の長く黒い髪は雨に濡れそぼり、森の中を逃げ惑ったのか、そのふわりと身に纏ってる白いローブには、土や枯れ葉が汚らしく張りついている。
少女は自らのそんな装いには目もくれず、ただひたすらこちらを見上げ、声を震わせて言う。
「お願い、私を斬らないで……。私はただ、あなたと一緒にいたいだけなの、他には何もいらない。ただ、それだけでいい。だから……!」
「すまない、俺の『女神』……」
「そんな……。どうして、悟……?」
その縋るような目から視線を逸らし、悟は少女の肩口へ一気に剣を振り下ろした。肉を斬り裂く重い感触が手に伝わるが、それは一瞬のことである。
血は迸らず、少女の身体には傷の一つもない。だが、確かに悟に斬られた少女は、その衝撃を受けて後ろへ倒れる。涙と、冷たい雨に濡れた虚ろな目を見開いて悟を見つめながら、落ち葉の積み重なった土の上へ崩れ落ちる。
手に残る感触に呆然として、動くことができない。膝に力が入らず、地面に膝をつく。そして、今自分が切り捨てた少女の顔をただ見つめる。
「お兄……」
ふと、背後から聞き慣れた声が聞こえた。頭がボンヤリとしているせいで突然のその声に驚くこともなく、悟はゆっくりと後ろを振り向く。すると、そこにはこちらへ差し出される小さな手があった。
「お兄、桜が――」
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