挙動不審
「なんで昨日は教室にいなかったの?」なんて、聞けるはずもない。次の日の朝、俺は小山さんに話しかけることはできなかった。授業は生ぬるく過ぎて、放課後が来た。小山さんはそそくさと部活へ出かけ、俺はだらだらと卓球部へ向かった。
部活かばんの外ポケットには相変わらずおにぎり(昨日より少し小さ目)を入れていたが、部活後教室に戻るかどうかは決めあぐねていた。生徒指導の先生に見つかりたくはなかったし、一人教室で時間を持て余すのも辛かった。下駄箱まで行った。校門もくぐった。でも結局、俺の足は帰り道を引き返し、教室に向かっていたのだった。
ドアをノックする。時計は6時15分を指している。一瞬の沈黙。そして
「はーい!」
と声がした! 小山さんだ! 心臓の鼓動がこんなに影響されたのは人生で初めてだと、なんだか自分の感情を他人事のように考えたりした。
「なんで昨日はいなかったの?」と聞きたいのはやまやまだったけど、俺の口から出たのは
「こ、こやま、、、さん?」
という、なんとも情けない震え声だった。
「あれー? また鈴木君かー。そういう反応されると、私が幽霊にでもなったみたいで困るわー」
ちっとも困っていないような表情で、小山さんの声がした。
「いいかげん、学習してよねー。あれ? 鈴木くんのロッカーは空みたいだよ? 部室に忘れたんじゃない?」
「あ、、違うの、、、大丈夫! ごめんっ!」
俺はそう言やいなや、玄関の方へ駆け出してしまった。これじゃあ完全に不審者じゃないか!
そう思ったけど、今さら引き返すような言い訳も思いつかなかった。
家に帰ってから、ベッドの中で自己嫌悪した気がする。今日が金曜日なら、まだよかったのだけど「父兄の参加率向上のため」とかいう事情で入学式が日曜日に挙行された結果、5日連続で学校に行ったのに、今日はまだ木曜日。明日も登校しなくてはいけないのだった。
長い、夜だった。