始まり
「いや、だから悪かったって。もう静岡だから夕方には家に着くからさ。」
俺こと十束春樹はこの春、都内の高校を卒業し関西の大学に進学した。
当初は年に一回、正月にでも帰省すればいいと思いゴールデンウィークも帰らないでいたところ4歳下の妹の莉桜に「ありえない!」から始まる1時間以上のお叱りの電話を頂いてしまった。もっとも後半は学校のテストが難しかったとかクラスの男子に告白されて断るのに苦労したとかの愚痴に変わり、話を聞き終え、夏にはお土産を沢山買って帰ると約束した頃にはすっかり機嫌を直していが。
まだまだ子供だなぁと内心で思っていたのは莉桜には秘密である。
告白のくだりで少しムッとしてしまったが妹の心配をするのは兄の特権だし何よりブラコンの気のある妹に彼氏などまだ早い。もちろん構い過ぎて嫌われてもあれなので不機嫌さを隠すのは忘れない。
まぁそんなやりとりがあって季節は夏に変わり、今は帰省の真っ最中で新幹線に乗っていたのだが昼を過ぎても帰って来ない兄に業を煮やしたのか電話をかけてきたので苦笑しつつもデッキに移動し今に至る。
「もう、だいたい昼には帰るって言ってたのに何で約束破るの?お兄ちゃんはそんなに莉桜に会いたくないんだ。」
「そんなことないって、昨日は深夜までバイトしてたから朝寝坊してさ。約束通りお土産もいっぱい買ったし機嫌直せよ。」
「そうやって子供扱いして…しょうがないから許してあげるけど早く帰ってきてね。ダッシュだよ、ダッシュ。」
何だかんだで物で機嫌を直す妹がチョロ過ぎて将来が心配になる。
「莉桜もお母さんと一緒に夕飯作るから楽しみにしててね。お兄ちゃんの好きな莉桜特製手作り餃子だよ。買い食いなんてしてきたら許さ」
会話の途中、突然電話が切れ、圏外かどうか確かめるが電波は入っている。まぁ何かあれば掛け直してくるだろうと席を戻ろうとすると新幹線の揺れとは違う別の揺れをかすかに感じ新幹線がブレーキをかけて止まってしまった。
走行中の車内にいても搖れを感じるのだからそこそこ大きい揺れだったのかもしれない。
その時俺は、早く運転を再開してくれないとまた莉桜の機嫌が悪くなるなぁ、なんて呑気な事を考えていた。
東京で何が起こっているかも知らずに。
diary 4.30
せっかくのゴールデンウィークなのにお兄ちゃんが帰ってこない。
普通に帰ってくると思ってたから連絡しなかったけどこんなことなら連絡すればよかった。
反省してるみたいだから許してあげたけどそれにしてもお兄ちゃん、りおが告白されたって話したら機嫌悪くなっちゃってカワイイなぁ。りおに気づかれないようにしてたみたいだけどバレバレだよ。妹にヤキモチ妬いちゃうなんてシスコンお兄ちゃんはしょうがないんだから。
あ〜あ、早く夏にならないかな。
初めまして、犬友です
注意事項ですが今作はギャグなどいれつつ暗くなりすぎないよう気をつけますが登場キャラクターは基本、名無し=死にキャラで名有りもそれなりに死ぬ予定ですのでそれを納得した上でお読みください。