さいきょーの魔物に生まれ変わりました!
初投稿です。拙い文章ですが、最後まで読んでいただけると幸いです。
パラコラルクトス
体長:50ルルア程 体重:2500ケイススと推測 苦手属性:特になし 生息地:不明
特徴:灰色の毛を持つ、肉食(イアルークのみを食する)
備考:奴に出会ったときは、間違っても挑発するようなことは言ってはならない。なぜなら、人の言葉を解する程の知能を持つようであるからだ。戦闘に突入すればほぼ勝ち目はないだろう。なのでもし遭遇した場合には、余計なことをせずにそのまま立ち去るのが賢明である。
ソルティア・リリック著 『魔物図鑑〜初心者編〜第3版』より抜粋
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突然だが、俺には前世の記憶がある。もう昔のように感じられるが、前世では普通の高校生だった。普通に青春していた……と思う。
でも、ある日トラックに轢かれて死んでしまった。そして転生して異世界で生活しているという訳だ。テンプレ通りだと自分でも思う。
テンプレと違うところは神様とかに会わなかったということと、俺が人ならざる者、つまり魔物だということだ。
この話は最強の魔物と呼ばれている俺のなんの変哲もない1日の物語。
朝起きてまず最初に身体の成長を確認する。前世と木などの大きさが同じなら俺の身体は10メートルくらいだ。生まれ変わった時は5メートルだったことを考えるとかなり大きくなった気がするが、最近また大きくなってきている。
次に鍛錬をする。前世ではあまりスポーツなどを真面目にやったりしたことはなかったが、弱肉強食が掟のこの状況では別だ。
最初に得意な魔法を寝床の洞窟から出て空に撃つ。余計ないざこざが起きないように細心の注意を払って、だ。
「グゴアァァァァァ!」
そう俺が叫ぶと、凄まじい光の奔流が空を駆け抜けた。今のは〈スパークキャノン〉と言って俺の得意な属性である『雷』に属する魔法だ。
ちなみにこの世界には、『炎』『水』『風』『光』『闇』の五つの基本属性を元に様々な派生属性があって、『雷』は『風』に属している。
他にも一応『水』と『光』は使えるが、威力や精度で『雷』には劣るのであまり使わない。
魔法の訓練はいざという時に魔力が切れているといけないから基本的に毎朝1発だけ撃つ。それで終わりだ。あまり成長しているとは思えないが仕方ない。
次に物理攻撃の訓練をする。都合良く洞窟の奥に硬い岩盤があるのでいつもそれを殴っている。最初の頃は傷一つ付けられなかったが、今では一撃で削ることができるようになった。
かと言って単純に成長を喜べる訳でもなく、この訓練のせいで洞窟にヒビが入り始めているのが最近の悩みだ。
だが弱肉強食だから訓練をしていると言っても、捕食の時以外自ら戦闘はしない。
理由は単純だ。戦闘中はあまり周りに気を配れないから奇襲されると命に関わるからだ。生き残るために培った戦闘能力を過信して死んでしまっては元も子もない。
それを一時間くらいしていると腹が減ってくるので、獲物を狩りに出かける。
俺の獲物は「イアルーク」という魔物らしい。前に見た冒険者たちがそう呼んでいた。全身に笹の葉のような鱗が生えていて、顔はブルドックのような顔をしている。全身が色の濃さの差はあれど緑色でサイズは俺の半分くらい、シルエットだけならキリンか何かのようだ。
しかし他の生き物との明確な差が一つある。それは異常に気持ち悪いということだ。どこがどうと聞かれても答えようがないが、いわゆる「生理的に無理」というやつだ。
人間や他の魔物からもそう思われているようで、誰も近付こうとはしない。しかも素材がいい装備になる訳でもない上に害もないから、万が一にも狩り尽くされて食料がないということもない。
だが、見た目が見た目だから俺も本能ではわかっていても、かなり躊躇した。別の前世にもいたような、動物に近い魔物を食べようともしたが、なぜか受け付けなかった。最初は本当に無理をして食べていたが、最近になってようやく食べ物として見られるようになってきた。正直、あまり嬉しくない。
狩りの段取りは身体が大きいのでばれないようにというのは無理だから、見つけると同時に全速力で走って襲いかかる。そして自慢の腕力を駆使して息を止める、とこんな感じだ。あいつらはあまり戦闘には長けていないので苦戦はしない。
腹が満たされると、そのまま洞窟に直行する。というのも長時間外に出ていると、他の魔物に見つかる危険性が高まるからだ。
帰り道の途中で稀に冒険者に遭遇することがある。彼らも俺の種族への対処法を知っているらしく、何もせずに去ってくれることが多い。俺も無駄な戦闘はしたくないし、やはり人間を傷付けるのには抵抗があるのでありがたい。
同族に遇うこともある。種族の特性上あまり戦いを好まないらしく、縄張り争いをしたりはしないようだ。
しかし、縄張り争いはしないのになぜか雌をめぐっての戦闘はする。
俺はまだ成体として認識されていないらしく、そのような状況になったことはない。ちなみに彼らは20メートル以上はあったと思う。
だが雄同士の争いを見たことがある。あれは凄まじかった。
お互いに魔法を撃って、牽制し合い俺よりも一回りは太い腕で殴り合っていた。他にも頭突きをしたり、噛みつきあっていた。
森の中で戦闘していたのだが、半径500メートルの木がすべてなぎ倒されていた。いつかはそうなると考えると末恐ろしい限りだ。
基本的には何事もなく洞窟に戻れる。戻った後はまた身体を動かしたり、小さな魔法を撃ったりして過ごす。
これが俺の1日だ。死んで良かったとは言わないがなんだかんだ言って、割と楽しく過ごしている。
不満があるとすれば、いやでも毎日水を見なければならないということだ。
勿論、魔物も生物である以上水分を摂取しなければならない。
しかもイアルークは植物のような見た目のくせに、食べると異常に喉が乾く。
別に水自体が嫌いなのではない。むしろ前世では泳ぐのは好きだった。
しかしこの世界では蛇口から水が出てくる訳ではないし、身体が大きいのでいやでも湖のようなところで飲むことになる。
するといやでも自分の姿を見ることになるのだ。
灰色の毛で覆われた身体…
鋭い牙に爪…
筋肉質の腕…
鋭い目…
大きな黒い鼻…
お腹にある袋…
そう、どう見ても強面なコアラなのだ。
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