に.
トイレから出ると世界が変わっていた…
なんてこともなく。
おっきい校舎も、行きかう人々もそのままだ。
思ったよりトイレは混んでいなくて、
すんなり入ってすんなり出てこれた。
ただ、鏡で見た私は黒髪に若干の茶色っぽい黒目。
典型的地味さだった。
髪の毛もぼさぼさしているし、鏡を見た後は憂鬱な気分になる。
みんなも経験したことはないだろうか。
家の鏡では、「あれ、今日俺イケてない?」
って思っても、外でふとしたときに鏡を見るといつも通り、
かっこよくもかわいくもない自分が映っていて悲しくなること。
あれって、どんな魔法がかかっているのか不思議で仕方ない。
家の鏡が善意でそう見せてくれているなら余計なお世話だ。
ああ、さっきの女の子みたいに可愛くなれたなら…
なんて思いつつ、ふと、周りを見ると
さっきまで賑わっていたはずが、私が1人、ぽつんと立っているだけである。
真顔で時計を見ると…
1時…5分。
もう一度招待状を見てみる
「13時…にお越しください。」
当たり前だが、今が夜中の1時5分。なんてことはない。
「あ、これ遅刻だぁ」
やけに冷静に、自分のおかれている状況を呑み込めてしまった。
・
・
・
「ここ…なのかな…」
周りに人がいなかったため、聞くこともできず
迷いに迷いまくって講堂?とかいうところについた。
広いドームのようなところで、不思議な形だ。
中から話し声がするが、中に入る勇気がない。
入学早々、つんだってやつだ。
たぶん場所はあってると思う。
でも、入れない。
ああ、どうしよう。もう帰るしかないかもしれない…
さようなら私の学校生活…
なんて思っている場合じゃない。
とにかくなんとかして入ろう。入るしかないじゃない!
「あ、窓開いてる‼」
これは勝った。いや、勝負はしてないが。
ただ、問題がある。
窓があるのがたぶん、講堂の二階部分。
とにかく高い位置なのだ。
残念ながら私は空を飛ぶことはできない。
召喚魔法、というのがあってそれで精霊やらなんやら
召喚すれば空を飛べるのだが…
ロクに高度な召喚魔法なんて使えない私には到底無理な話である。
じゃあどうするか。
木に登る。
これしか私には残されていない。
「よしっ!」
そう意気込んだはいいが運動センスなんてないので
中々に難しい。
昔から上り棒は苦手だった気がする。
いかんせん、腕の力がないのか自分を持ち上げることなどできない。
ちょっとだけ…魔法を使ってもいいだろうか…。
たしか、後日配布されてきた「学校生活のしおり」とやらには
禁止事項に「無断で魔法を使用する」とあった気がするが
そんなこと言ってられない。
五大元素の聖属性にあたる附加魔法、つまり、元持っている力に
付け加えのできる魔法ということだ。
それで体力を増強すれば、木なんて軽々登れる。
致し方ない、これくらい目をつぶってくれるだろう。
空中に魔方陣を描く。
魔方陣は魔法や属性によって変わるし、
大きな魔法ほど魔方陣は大きくなるし、使い手の力も必要だ。
附加魔法は基本中の基本なのでぱぱっと描けてしまう。
ただ、使い手によって附加される力の量はかわるのだが…
「神の祝福があらんことを_身体強化」
とにかく手短に済ませてしまおう。
毎度思うが、魔法名って直球すぎて捻りがない。
厨二病ではないが、もう少しかっこよくてもいい気がするのだが…
身体強化とかいてバーストと読む、なんてこともない。
ただのしんたいきょうか、である。うん、ださい。
なんて考えているうちに木を登り切った。
窓からこそこそとのぞいてみる
「んー…?あれが、学園長?かな…」
奥に光に照らされながら話している人がいる。
学園長はどうやらあの人のようだ。
長いひげに白の長髪、絵に描いたような魔法使いである。
たぶんすごい人なのだろう。
どうやら魔法を見せているようで、
魔方陣も描かず召喚魔法を使っている。
前述したように召喚魔法は高度魔法だ。
魔方陣は省略もできるのだが、それはその分魔力がかかってしまう。
どうやらたくさんの精霊を召喚しているようだし、
本当にすごい人なのだと思う。
うん、語彙力がないがとにかくやばい。
しかしながら、そろそろ私も講堂に入らなければならないので
こっそり窓の中に入る。
幸い、みんな魔法に夢中でこちらに気が付いていないようだし、
さっきの青い髪の女の子も見つけた。
とりあえずその子の隣に座ろう、と思って
動き出したとき、一体の精霊と目が合った…気がした。
そのまま美しい精霊は微笑んで消滅したが、何あれこわい。
gkbr状態である。
ただ、消滅したということは魔法の披露が終わったみたいだ。
そろそろ本格的にばれそうなので青い髪の女の子の隣にこっそり座る。
女の子は驚いた顔をしたが微笑んで前に向き直した。
なにそれ惚れる…かわいい…。
心の中で女の子に感謝しながら、珍しくまじめに話を聞くことにした。
「えー、今みていただきましたのはご存知の通り召喚魔法です。
召喚魔法に二種類あるのはご存知でしょうか。
ひとつは聖属性の召喚魔法、もう一つは闇属性の召喚魔法です。
闇属性というのはあまり良い印象のある属性ではありません……」
まあ、ごく当たり前のことを学園長の隣の男がしゃべる。
お前がしゃべるんかい、と突っ込みながら一つ欠伸をする。
「魔法にも善悪があり、よい魔法とわるい魔法があります。
それをはっきりと理解し、使っていけるように
ここでは教育をしていきます。」
どうやらこの学校の教育方針はよい魔法使いを育てることらしい。
やってることは中学校とかわらないな…
「この学園には16歳以上の男女が300人近く在籍しています。
これから、あなたたちも魔法使いとして世のために活躍していけるよう、がんばりましょう。」
どうやら長ったらしい話は終わったらしい。
ぱち、ぱち、と聞こえる拍手に合わせて一応拍手しておく。
結局学園長の話を聞くことができなかったのが心残りだ。
「それでは、これにて入学式を終わります。
新入生のみなさんはこの後扉から出て右側にあるボードを見て、
自分のクラスを把握してから帰るようにしてください。
明日は通常通り登校です。」
ほとんど話も聞いていないが、皆に合わせて外に出よう。
そう思ったとき…
「あ、あの、さっきの子ですよね?」
青い髪の子に話しかけられた。
「覚えてたんだ。」
ちょっとだけ無愛想になってしまって後悔する。
ごめん、とこころの中でだけ謝っておく。
「うん!ここらじゃ黒髪って珍しいですから!
私の名前はユーリっていうのです。
ぜひ、仲良くしてほしいのです‼」
どうやらユーリちゃんっていうらしい。
入学早々友達ができたことに少し浮足立ってしまう。
純粋な笑顔を見てるとけがれた心が浄化されて消えそうだ。
「私はセンリ。よろしく。」
コミュ障はつらい。
こころの中で自分に悪態づきながら
ユーリちゃんに向き直す。
「よろしく!センリちゃん」
とにかく差し出された手をつかんで、握手する。
どうやら学校生活は少しだけ楽しくなりそうだ。