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ウルフ視点

「で、幸ちゃん。

……こんな俺ですが、付き合ってくれませんか?」

言い切ってから、頭を下げた。

勢いで言ったわけじゃない。考え抜いた言葉だ。

けれど、言い終えた瞬間に、心臓が一拍遅れて強く打ち始める。

……。

……。

……。

――あれ?

返事が、こない。

一秒がやけに長い。

二秒、三秒。

背中にじんわりと汗がにじむ。

まさか、固まってる?

それとも……。

そっと、様子をうかがうように視線を上げた。

ルルちゃんは、真っ赤だった。

耳まで、首筋まで、火がついたみたいに赤くて、顔を伏せたまま動かない。

唇が、わずかに動く。

開いては閉じ、閉じては噛みしめ、また開いて――言葉を探しているのが、痛いほど伝わってくる。

「えっと……」

ようやく、かすれた声がこぼれた。

「あの……私……大上さんのこと……」

言葉を選びながら、一つひとつ、慎重に紡いでいく。

「リアルでは、まだ、よく知りません。

それに……私は、皆さんに、自分のこと、ちゃんと話していませんでしたし……」

伏せていた顔を、勇気を振り絞るように上げる。

目が合う。少し潤んでいて、真剣で。

「……お友達からで、いいでしょうか?」

…………。

え?

オトモダチ?

脳内で、その単語が反響した。

オトモダチ。

オトモダチって、何だっけ……?

一瞬、思考が明後日の方向へ飛んでいく。

「……あ、うん。

オトモダチ、から……ね……」

声が、少し間延びする。

自分でもわかるくらい、肩が落ちた。

その様子に気づいたのか、ルルちゃんが慌てて付け足す。

「わ、私……初めて、なんです」

「え? は、初めてって……?」

「異性の……友達、いなかったので……」

その瞬間、沈みかけていた気持ちが、ふわっと浮いた。

初めて。

そうか、初めて、か。

そりゃそうだよな。

いきなり告白されたら、そりゃ戸惑うよな。

……いや、それにしても、初々しすぎるだろ。

こっちまで、顔が熱くなる。

断られるわけがない、なんて。

どこかで、ちょっとだけ、思ってたかもしれない。

反省しつつ、でも、嬉しさが勝ってしまう自分もいる。

初めて、かぁ……。

頭の中で、その言葉がぐるぐる回る。

「急に言われたら、ビックリするよな。そりゃそうだ。

でもさ……これから、こうやってリアルで会えたら、もっとお互いのこと、分かるかなって思ってさ。

今日は楽しかったし……また、会いたいんだ」

少し照れくさくて、目線を逸らしながら言う。

「えっと……

大上さん、わりと口の動きが、わかりやすいので……読みやすいです。

だから、お話できるかもしれませんが……」

一呼吸置いて、続ける。

「でも、わからなくなったら……すみません」

「そんなこと!

全部分かろうとしたら、しんどいだろ。

力抜いて、話そう?」

「……ありがとうございます」

「だから、力抜けって……」

まだ、どこか他人行儀だ。

でも、まあいい。

ゆっくりでいいか。

そう思った瞬間――

「……え……あ……うふ、うふふ」

いきなり、ルルちゃんの表情がほどけた。

堪えきれないように、クスクスと笑い出す。

おっ。

いい感じじゃん。

「大上さん、ギルチャと変わらないんで、安心しました」

「いや、それ言うなら、幸ちゃんも同じだから。

ギルドで一番イメージ違うの、やっぱアリスだろ」

「え? アリスさん?

可愛らしい方ですよね」

「かわ……?

……うーん?」

可愛い、かぁ……?

「アリスの中の人、知ってるの?」

「会ったことはありませんけど……本の趣味が合って。

可愛い、ほのぼの系が好きで。

犬とか猫とか……よくギルチャで報告してくれるんです」

楽しそうに話すルルちゃんを見て、ちょっとだけ胸がざわつく。

……一応、アリスの中の人、男なんだよな。

しかも、キレイ系。

ジト目になりつつ、話を遮る。

「あのさ……幸ちゃん?」

「はい?」

「今度、ギルドオフしよ。

アリスの中の人にも会えるし、絶対驚くよ。

みんな、幸ちゃんに会いたがってた」

少しだけ前に身を乗り出して、ニヤリ。

「逃がさないから。覚悟しといて?」

「あ……は、はい……」

また、真っ赤になる。

……先は長そうだな。

オトモダチから、だもんなぁ。

それでも、不思議と悪くない。

オークたちのはしゃぐ顔。

真っ赤なルルちゃん。

そして、ちょっとドヤ顔の俺。

ルルちゃんが聞こえないこと。

オフ会でどうなるか。

どう配慮すればいいか。

ギルドのみんなとは、もう何度も話し合ってきた。

せっかく連れてくるなら、楽しんでほしい。

それだけだ。

ルルちゃんの注意を引くため、軽く手を振る。

『あなた 手話 わかる?』

たどたどしい手話。

ルルちゃんの目が、驚くほど大きく見開かれる。

『手話、わかる』

声はない。

でも、はっきり伝わった。

『ちょっと、覚えた。手話、難しい』

『私、カンペキ、違う』

それでも、通じる。

それが、やけに楽しい。

『色々 教えて』

『わかる 範囲』

『OK OK』

覚えられる自信なんて、正直ない。

でも――わかりたい。

その気持ちは、本物だった。

「……ルルちゃん。握手しよ」

もちろん、下心は満タンだ。

差し出した手に、条件反射みたいに小さな手が重なる。

ぎゅっと、少し強めに握った。

よし。

このあと、手、繋いで帰ろ。

オトモダチから――

でも、確実に、始まってる。

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