"火大"
どういう原因で喧嘩になったか忘れたけど、学校の帰り道、僕はあいつと掴み合いになって居た
河川敷の草の上に突き飛ばされて、僕が「服が汚れるな」と思っているうち、あいつの躰が上に乗って来た
2、3回くらい顔を拳で打たれて
こちらからも何発かやり返して居るうちに、あいつの手が、僕の顔を抑え付けようと掴んだ
頭を掴まれて、土に後頭部を打ち付けられる
殴って抵抗したけど、下敷きにされてる姿勢だからか全然効いてないみたいだった
抑え付けられてるなりに必死で抵抗するうち、どうやってそうなったのか忘れたけど、あいつの指が僕の唇に触れて、特に親指なんかは僕の口の中に入ってしまって居た
時間が止まったみたいな感覚だった
僕は「あっ……」と言ったきり、何もする事が出来なかった
躰が熱くなって、なんか、急に躰を重ねている事が恥ずかしく思えた
あいつも同じみたいだった
急に僕から離れるとそわそわした様子で……視線を逸らしながらではあるけど、謝りさえしてきた
それから僕とあいつは喧嘩をしなくなった
なんなら、「この日の河川敷での事を話題に挙げてはいけないのではないか」という雰囲気さえ、二人の中に生まれていた
それでも時々僕は、あの時の唇の感触を思い出した
授業中のふとした瞬間、お風呂に入っている時、学校の帰り道………或いは、寝る前の布団の中で
季節が秋に向かう頃だろうか
席替えが有った
僕もあいつも一番後ろで、隣同士だった
授業中
それとなく、あいつを視る
視ながら───何故そうしたかは解らないけど、僕は自分の唇を、人差し指で擦って居た
あいつは視線に気付くと、僕の仕草を視てあからさまに狼狽えた
ガタッ、と椅子が鳴った
あいつの椅子だった
教室の視線が集まる
僕は「先生!こいつ体調悪いみたいなんで、保健室連れてきます!」と叫ぶと、肩を貸してあいつを廊下に連れ出した
授業中の廊下は、誰も居なくて静かだ
僕は肩を貸すのを止めると、あいつの手を引いて歩いた
もしかしたら、走って居さえしたかも知れない
──廊下の突き当り
違う
──階段の踊り場
こんな所じゃない
何処をどう彷徨ったか忘れたけど、最後に僕らはトイレの個室の中で向かい合って、お互いを視つめ合って居た
「もういいよ」
苛立ったように僕が言う
「早く」
「早くここでしてよ!!」
我慢の限界だった




