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【超短編小説】目指せTRSK

掲載日:2025/12/18

 実家に残されている自分の部屋には、まだ高校生だった時に使っていたものが飾ってあった。

 作りかけのプラモデルとか、修学旅行のお土産とか、格好いいと思って集めていたポストカードとか。

 机なんかはもっと前の、小学生の頃から使っていたもので、ラクガキや彫刻刀で傷だらけなのも、今となっては愛おしい。


 部屋の壁には剣道部員だった頃に使っていた頭に巻く面手拭いが貼り付けてある。

 そこには、尊敬していた先輩たちが引退した日に書いてもらったサインがあった。

 サインと言っても名前とひと言コメントくらいの可愛いものだが、あの頃は嬉しなかったなと見る度に当時の感情が甦る。


 ただ、今になって見てみると、おれは先輩からすると覚えのめでたくない、印象の薄い後輩だったんだろうなと思う。

 確かにおれは、強くも無ければ練習熱心でも無かったから、そんなもんだろうと分かる。

 先輩たちを尊敬していただけに、いまになるとそれで喜んでいた自分が少し滑稽に思えてくる。可愛いものだ。



「頑張れ!」

「一生懸命!」

 そんな、当たり障りのなくどうしようもないコメントと名前の中でただ一つ、主将を務めていた先輩だけはきちんと「目指せ最恐!」と言うコメントをくれた。

 最強は難しいかも知れない、でも何かひとつ怖い部分を持てと、主将はおれの眼を見て言ってくれたのも憶えている。




 だけどその先輩が今は大変なのだと、風の噂で聞いた。

 最初に就職した会社が上手くいかず、短いスパンで何度かの転職を重ねた後に、いまは実家に戻って司法書士の勉強をしているのだと言う。

 それもここ数年で何度か続けて受験失敗していると聴いた。



 あの時の先輩は強くて格好良かった。

 身長も高かったし、厳しくて優しかった。

 おれの中で過去の先輩は防具を付けて凛々しく立っている。



 しかし今、想像上の先輩は暗い部屋で背中を丸めて勉強机に張り付いている。

 もしかしたらパソコンやスマホをいじっているのかも知れない。

 いや、本当は明るい部屋なのかも知れないし、いまも背筋を伸ばして教科書を開いているのかも知れない。



 何故あんなにも格好良かった先輩の惨めな姿を連想するのかは分からない。

 それも、唯一きちんとしたコメントをくれた主将だと言うのに。

 他の先輩がどうしているかは知らないし別に興味も無い。

 何なら同級生たちがどうしていようがおれの知った事ではない。

 それでも先輩だけは、強くて厳しくて優しい先輩でいて欲しかった。


 おれはあなたの言う最恐には、まだ成れていないかも知れませんがそれでも頑張って生きていますよ。

 聞こえていますか?

 先輩はまだ強いですか?

 おれは先輩から出鼻小手で一本取ったあの日の事をずっと覚えていますよ。

 もしかしたらあなたを殺したのはその出鼻小手ですか?

 分かりませんけれど、おれはいまここにいます。


 おれはおれの高校生が詰まった部屋から出た。

 先輩も、いつか。

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