97話 覚醒の時
俺たちは、合同パーティーでゴーレム討伐に挑む。
炎雷の申し子クルスとかいうやつを筆頭に、大剣使いのガレオ、双剣使いのマルクスという頼もしい仲間が一緒だ。は?炎雷の申し子?何それ?
「と、ともかく、今日はよろしくお願いします。こっちの金髪が魔法職のベルフィーナ=エーデルワイスです。」
「よろしくお願いしますわ!」
ベルはそう言うと、いかにもお上品そうにドレスの両端をつまみ上げ、ペコリと一礼。
おい、ここは舞踏会じゃないんだぞ?なんだその挨拶。ほら、後ろのガレオとマルクスが「あ、ど、ども」とか言っちゃってるじゃん。
「それでこっちの銀髪が、剣士のラヴィーナ=シルヴァリオです」
「よ、よろしくお願い、します」
ラヴィはそう言うと、ベルの真似をしようとしてロボットみたいにガチャガチャと不思議な動きを見せる。ベル、お前のせいだからな。挨拶はこうやるもんだってラヴィが勘違いしちゃったじゃないか。
「ベルフィーナ殿にラヴィーナ殿か。まるで暁に燃ゆる太陽の如き金色に、月光を映す鏡のような雪銀。ふふ、さてはお前たちただ者ではないな」
「……! ふふ、よくぞ気が付きましたわね。ワタクシは高名なるエーデルワイス家の長女、魔を司りし金色の乙女ですわ!」
え、何言ってんの?
クルスに感化されたのか、ベルは訳の分からないことをつらつらとまくしたてる。
「拙者こそ、銀狼の王にして、雪に咲く華。月夜に浮かぶ……えぇと、あの、狼である」
え、何言ってんの?
ベルに感化されたのか、ラヴィは訳の分からないことを言おうとして失敗してる。「狼である」て。
だめだこいつら、なんかもうあほすぎる。このままじゃ埒が明かない。
「えぇと……じゃあ、とりあえず作戦でも立てますか?」
俺の提案にガレオとマルクスは大きく頷いた。よかった、まともそうな人がいて。本当に。
最後の望みをこの二人に託そう。
「じゃあ、まずは役割分担だけど……ガレオさんとマルクスさん、得意な戦法とかはありますか? ちなみに俺はサポートが得意なんですけど――」
「正面突破」
「ああ、それに尽きる」
瓦解。
この合同パーティー、だめだ。いや、ガレオとマルクスはまだ分かる。正面切っての肉弾戦法が最も美徳とされる世界だから、世界観的には間違ってない。
ただ、残るアホ三人は、だめだ。なんかもう、三人だけでちょっと盛り上がっちゃってるじゃん。
え、俺ってもともとガレオとマルクスとパーティー組んでたっけ?違うわ。
「えぇと、そういえばクルスさんのジョブは――」
「よっくぞ聞いてくれたな、パライザー!」
バサァとマントを翻し、俺の方へ向きなおるクルス。
もう、本当に、待ってましたとばかりの食いつき。早押しクイズのチャンピオン級の反射神経。
なんだか仰々しいフリをしてるけど、見た目からすると軽装備で背中に片手剣っぽいのがあるから普通に剣士とかだろうさ。
「我こそは、魔導と剣技の集大成。灼炎と雷鳴の繰り人にして、鋭利な切っ先を運ぶもの――その名も”魔剣士”である……!」
「ま、魔剣士……!?」
嘘だろ………!RPGの中でも結構特殊な立ち位置のジョブで、一度は誰もが夢見るやつじゃねえか……!かくいう俺も、麻痺に目覚めるまではどんなに不遇と言われていても魔剣士のジョブを使うくらいには、思い入れのある職種なんだぜ……!?
コイツ、できる――!
「ふふ、ふ……魔剣士とは、恐れ入りました。クルスさん、あなたとパーティーを組めるとは光栄です」
「よせ、パライザー。俺たちはもう……いや、きっと、出会う前から仲間じゃないか。敬語はやめて対等にいこう」
クルスはそう言って包帯ぐるぐるの右手を差し出した。
へへっ、熱い……どうしようもなく熱ぃんだよ、俺の心が……!
気付かないうちに抑えつけていた本当の自分……そう、理解無きものからは「中二病」などとよく分からない言葉を投げかけられていた、俺本来のあるべき姿に戻る時が来たのかもしれない。
俺は、胸の奥、腹の底から湧き上がる……ほとばしる情熱をひたと感じていた。
ガレオとマルクスの冷ややかな視線も、ひたと感じていた。
だが、今の俺にはもう、恐れるものなど――何もない。
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