96話 学生時代の影が来るっす
フォレストドラゴンを倒した翌日、少し飲み過ぎて頭痛と戦う俺の元へギルド職員がやってきた。なんでも、緊急の依頼とのことでギルドまで来て欲しいと。
……緊急の依頼なんて、ろくなことがないに決まってるじゃないか!今日はゆっくりしようと思っていたのに……あぁ、さらば休日よ……
すぐさま支度を済ませ、ベルとラヴィを引き連れてギルドへ。俺に気付くと、セラ姐がすぐさま駆けよってきた。
「マヒルさん、それから皆さん。お疲れのところお呼び立てして申し訳ありません。実は緊急でお願いしたい依頼がありまして」
「なんですか? またゴキローチでも出たんですか?」
「ご、ゴキ……! い、いえ、今回はさらに強敵が現れました。放置しておくと街も危険かもしれません」
ぐぅあ……ただめんどくさい系じゃなくてしっかり危ないクエストってことか。嫌だなー、怖いなー。
「実は、アルクーンが管理しているダンジョンである〔古代風遺跡〕付近に、《ゴーレム》が出現しました」
古代"風"遺跡ねぇ……
どんな所ですか?って聞いたら「古代風の遺跡があります」って答えられそう。何々風って良くも悪くも便利な言葉。
ほんでもって、ゴーレムか。これまたよく親しんだ名前だけど……それが何で緊急事態にまで発展するんだ?
「ゴーレム、ですか……それがどうしたんですか?」
「はい。普段はダンジョンにしか生息していないのですが、なぜかワラワラと出現したそうで……これの調査と殲滅をお願いしたいのです」
「ひえぇ……」
ワラワラとゴーレムが!?そりゃ緊急事態じゃないっすか!逃げなきゃ!
「マヒルさん、今逃げようなどと考えておりませんでしたか? 貴族の名にかけて許しませんわよ?」
「な、何も言ってないだろうが!失敬なやつだなまったく」
まるで心を見透かしたかのように、細い目で俺を見つめるベル。いやはや、ド図星です。分かった、やりゃあいいんだろ、やりゃあよう!
「ありがとうございます。先だって、Cランクのパーティーが向かっておりますので現場で合流してください」
「へ? 合同パーティーってことですか?」
「まあ、そういうことになりますね。一時間程前に出発してますので、協力してゴーレム討伐をお願いします」
おお!つまり小規模なレイド戦ってわけか!どんなパーティーなんだろうなぁ……Cランクっていうだけあって、俺たちよりも間違いなく強いんだろうけど。……いや、強いはずなんだけどな?何となく、不安が胸をよぎる。
「まあ、ちょっとアレですけどマヒルさんなら大丈夫でしょう」
さりげにボソッと呟くセラ姐。なになに、その意味深な発言。すごーく嫌な予感。
でも、考えた所で行くことに変わりはねぇ!ちくしょう!
「それじゃあ、早速向かいますか?」
「えぇ、いきますわよ! 街の平和はワタクシが守ります!」
「拙者も!」
俺たちはギルドを後にして、古代風遺跡とかいうふざけた名前のダンジョン目指して出発した。
この時の俺は、なんやかんやいつも通りなんとかなるだろうと、どこか楽観的な考えだった。まさか、あんなことになるなんて――
* * *
馬車に揺られること一時間、件の迷宮に程近い丘が見えてきた。
「セラ姐によると、合流するならあのあたりでって言われてたけど……」
「拙者、少し、緊張してきた。笑われない、かな」
「ラヴィ……」
ラヴィは小さく呟いた。なんとなく元気がなさそうに見えたのは、そういうことか。
獣人族はどうも、人間と比べられて差別されることがあるらしい。もっとも、アルクーンの街ではそういうことはなかったし大丈夫だとは思うが――
「まあ、不安な気持ちも当然あるよな。 でも大丈夫!ラヴィはこんなに可愛くて奇麗なんだから!」
「なぁッ……!?」
「そうですわよ! こんなにプリティな女の子、他に見たことありませんわ!」
「むぅッ……!? あ、ありがとう。分かったから、もうやめて……」
ラヴィはそう言うと、顔から湯気が立つほど赤面てうつむいた。えー可愛い。
「もしも笑うようなやつがいましたら、セバスチャンでタコ殴りの刑ですわ!」
「えぐっ。 ラヴィは何の心配もないが、ベルよ。お前はくれぐれも失礼のないようにな」
「んなっ、なんでワタクシ!? 言われなくとも、気品と礼節を惜しげもなく振りまくのでご安心を!」
なーに言ってるんだか。
内心呆れつつ周りを見ていると、先発隊のものと思われる馬車と丘の上の人影が目についた。
「お、多分あの人たちだろう。 よし、みんな失礼のないようにな」
馬車を止め、俺たちも丘を登る。人影は三人、先発のパーティーで間違いないだろう。
……だけど、なんだこの感じ――なんだか……疼くな……心の中の何かが。
……まあいい、とりあえず社会人の常識、あいさつだ。
え?まともな社会人経験してないだろって?うるせえ。
「あのぅ……どうも、ギルドに言われて来ました」
「フッフッフ……貴様らが新たな深淵への捧げ物、というわけか」
おやぁ?
ツンツンとした長髪黒髪の男は、黒いマントをバサつかせ、包帯でぐるぐるの腕を顔の前に持っていき謎のポーズを決める。
おやおやぁ?これは、もしかすると、同族の匂いが濃厚ですねぇ。そう、懐かしき学生時代の名残が――
よし、ここは一発かましとくか。
「お、遅れてすまない。俺は時を統べる漆黒の牙、不動の王、マヒル=パライザーだ」
「自己紹介、感謝するパライザーよ。我は炎雷の申し子、闇の力で世界を焼きつくす地獄の王、クルス=ファウザーだ。 この二人は我が眷属、ガレオとマルクスだ」
クルスの両脇にいる、いかにも普通な冒険者風の男たちは申し訳なさそうに会釈する。
それにしても――同じ魂を持つもの同士の共鳴。かつての学生時代、同じ道を通った漢として、俺とクルスは何を言うでもなく無言で固い握手を交わした。
「二人とも、何を、言ってるの?」
「多分、昨日の戦いの疲れが出たんですわ。 相手の方もきっとそうなんでしょう」
外野が何を言おうが関係ない。
こういうのは、気にしたら負け。恥じらいは死を意味するのだから――
……ちなみに今、めちゃくちゃ恥ずかしい。これが成長というものだろうか?
自分の意思とは関係なく唇の端がプルプル震えている。体が熱い。なんでもいいから早く終わらせて酒で忘れたい。そんな始まりだ。
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