95話 巨象、地に伏す
首なしセバスチャンの上半身による連打により、体力のほとんどを削られたであろうフォレストドラゴン。息も絶え絶えながら、その瞳には赤い炎が宿っているようにすら思えた。
「ここが、正念場だな……! ラヴィ、決めてくれ!」
「了解……!」
そう言うとラヴィは刀を鞘に納め、深く一呼吸。
「これが、今の拙者が出せる、最大限。暴走を制する力……その名も【超獣化】!」
「超獣化ねぇ……」
なんか、その……お酒みたいな名前だな。
いやごめん、野暮なこと言うもんじゃないな。
修行の末に身に付けた大切な力なんだから、うん。それにしても、ワイルド・ターキーねぇ……
いや、強そうではあるけども!
当の本人は真剣そのもの。ラヴィがカッと目を開くと、銀色の髪がブワッと総毛立った。シュウシュウと、オーラのようなものがラヴィの体を包んでいる。
おぉ、いかにも強化されてますよって見た目、すっごく分かりやすい。そしてなによりかっけぇ……!
「参る――ッ!!」
ラヴィが小さく吠えた。その姿は一瞬にして消え、一陣の風となってフォレストドラゴンへ向かう。気付けばすでに額目掛けて駆け登り、ラヴィは両手を固く結び、天高く掲げていた。
「いけぇ、ラヴィ!」
「やったれー!ですわ!」
「これで、おしまい……【伏制】!」
ゴガアッ!という、鈍い金属音のようなものがこだます。ラヴィの強烈な拳骨?がフォレストドラゴンの額を猛打。
「パオンッ……」
白目を剥いて、グラリと巨体が揺れる。あたりの木々をバキバキなぎ倒し、まともに立っていられない程の地響きをたてながら、遂に撃沈。フォレストドラゴンは、まさに犬の芸よろしく"ふせ"の姿勢に。俺たちの大勝利だ!
「おぉい!やったぞラヴィ!!」
「すごいですわ……!」
「へへ……それほど、でも」
スキルの影響なのか、ラヴィの顔には一気に疲労の色が見てとれるが、なにより満足げだ。あの暴走する力を、遂に自分のものにしたんだな。本当にすげえや。
「二人とも、本当にお疲れさま!」
「……マヒルさんも、麻痺要員お疲れさまですわ!」
「うん。おかげで、安全に戦えた。お疲れ、さま!」
「じゃあ、みんなお疲れさまってことで……」
俺はそう言って、グーの手を差し出す。二人ともフッと微笑んでグータッチを交わす。
これがパライジング・グレイスの力じゃい!巨象もといフォレストドラゴンへのリベンジマッチ、無事達成――!
* * *
ギルドへ戻り、フォレストドラゴンの討伐報告を済ませた俺たち。やはりというか、ちょっとした騒ぎになってしまった。
セラ姐は俺たちに感謝しつつも、眉間にシワを寄せていた。「まさか本当に……」とか言ってたけど、そうです本当に倒しちゃいました。事後処理とか色々大変なんだろうなぁ……お疲れさまでっす!
報酬は破格の二十万ゴルド!他にも素材を持ち帰ればもっといくんだろうけど、素材回収が大変過ぎたので諦めた。魔結晶と、大きなドラゴンの牙……というか象牙を一本だけお持ち帰り。
戦いの後は、勿論宴だ!
「ってことで、かんぱ~い!」
「「かんぱ~い!」」
行きつけの酒場、銀の猪に乾杯の音頭が響き、クエスト達成の宴が始まった。疲れた体にアルコールが染み渡る……!早速ベルは数本の串焼きを平らげ、ラヴィは分厚い肉にうまそうにかじりついている。
「いやぁ……それにしても、二人とも大活躍だったな。ベルの魔法には驚いた……というか引いたけど」
「ふふん、そうでしょう! ワタクシも、日々成長しているということですわ!」
半分褒めてないんだけど、ベルは得意気に鼻をすする。まあいいや。
「ラヴィのスキルも凄かったな! 鼻を切り落とし、最後は一撃ノックアウト!修行の成果がモロに出たって感じだな!」
「ふふ……倒せてよかった」
「物理アタッカーとして頼もしい限りだ!」
「へへ……」
ラヴィは恥ずかしそうに笑いながら、肉にかぶりついた。
「でも、一番はやっぱりマヒルさんのおかげですわよね!」
「うん」
「へっ?」
ベルがそう言うと、二人して俺を見てくる。え、俺今回何にもしてないと思うけど……?
「だって、あんなに大きなモンスターを最後まで麻痺させ続けたんですわよ? 改めて、普通じゃないですわ!頭おかしいですわ!」
「うん。すごい。異常だよ」
「おい、二人とも褒める気ないだろ」
まあ、確かに麻痺らせはしたけど……そんなにすごいもんかね?俺的には普通の感覚でやっちゃってたけど、思い返せば確かにおかしいかも……しれない?
「MPもまだまだ余裕そうでしたし、麻痺の時間だって延びてませんでした? それこそ、引くくらい凶悪なスキルですわよ」
「うん。ドン引き」
二人はにこやかにそう語る。あれ、やっぱり褒められてないよね、これ。空気感だけは褒め称えてるようなんだけど、言ってる言葉が俺の胸を刺す。
言われてみれば、麻痺単発の効果時間も延びてるし、まだまだ麻痺らせられそうだった。俺は自分の才能に……麻痺の強さ改めて実感すると共に、ほんの少しだけ戸惑いを覚えた。
"麻痺の可能性"、行き着く先はどこなのか。そんなことをぼんやりと考えさせられる夜だった。
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