94話 凄絶バトル②
俺たちがフォレストドラゴンを前に、卑劣極まるな「ネチネチ、チクチク大作戦」を開始してから十分が経った。
一歩も動けないままに毒の継続ダメージ、小さな魔法の連発、刀で何度も刺す刺す刺す……フォレストドラゴンは、目に見えてと言う程ではないがかなり体力を消耗したはずだ。自分がされたらと思うと発狂するレベル。
「おーい、そろそろポイズンパライズ主体でいくぞ! ゆっくりだけど動き出すから、しっかり見て対応してくれ!」
この作戦を始めてから俺はと言うと、ずっとず~っと麻痺麻痺麻痺……
動きを止め続けるべく麻痺をかけ続けていた訳だが――飽きた。あまりにも一方的かつ、面白味のない戦い。これでは、俺たちの成長は見込めないだろう。
何より、ずっと睨んでくるベルも怖ぇし。
「ふぅ、ようやくワタクシの本領発揮というわけですわね!」
「刀が、うずく……!」
うっぷんが溜まって……いや、溜まりまくっていたであろう二人はギラリと目の色を変えた。
フォレストドラゴンも麻痺が解け、ゆっくりだが、確実に動き出した。
「遂にこの時が来ましたわ!ワタクシの全魔力で持って、殲滅してさしあげますわ!」
ベルが高らかと叫ぶと、巨大な魔方陣が展開し、そこからガトリング砲の銃身がニュッと――
「って、ばかぁーーー!」
ベルの頭頂部めがけて痛烈なチョップをお見舞いだ!
「あいたぁっ!? 何をするんですの!?」
「それはこっちのセリフだ!お前それ、封印っつったよな!今ここで全魔力放出してどうすんだ馬鹿!」
「二人とも!危ない!」
ラヴィの叫び声が聞こえた。気付けば、フォレストドラゴンのぶっとくて長い鼻が俺たちに迫っていた――!
あ、勿論めちゃくちゃゆっくり。三輪車が進む位のスピードで。あまり危機感は感じてないが、ラヴィはヤル気満々だ。
「……今、助ける。奥義【羅刹】ッ!!」
ラヴィの体が一瞬フッと沈んだかと思うと、姿が消えた。一閃の風が吹き、次の瞬間――数メートル先で刀を振り払ったラヴィの後ろ姿が見えた。
直後、ドサッという音と共にフォレストドラゴンの鼻先が地面に落ちた。
「ひぇっ……!」
人の胴体位の太さを有する巨大な鼻を、たったの一振りで切り捨てるとは凄まじい威力だ。
「パ ア ォ ォ ア ァ ッ!?」
フォレストドラゴンはポイズンパライズのせいで、至極ゆっくりな悲鳴をあげる。さすがになんか、かわいそうになってきたな。……せめて早く楽にしてやらないとな。
「おい、二人とも!一気に畳み掛けるぞ!」
「待ってましまたわ、この時を!」
倒置法!?ベルは魔導書をバラバラと開きながら、ザッと一歩前に出る。
「確かに感じる湧き出る力、出づるは従順なる黒き僕――おいでまし、【サモン・セバスチャン】ッ!!」
随分と仰々しい前口上だな。別にそんなこと言う必要なかっただろ。若干呆れながら見ていると、展開された魔方陣から執事風の服を着た腕が現れ――
「ってえぇっ!?」
それだけじゃない。今まで肩口までの両腕二本しかなかったが、なんと、胴体がある――!?ついに、セバスチャン完全体が――!
ズルンッ――
いや、胴体だけだった。
出てきたものは両腕と胴体だけ、腰から下も頭もない。それが魔方陣からずり落ちたかと思えば、ぐねりと腕立て伏せよろしく体勢を立て直した。
「うわぁっ!」
「……ッ!?」
ラヴィも思わず絶句。俺も開いた口が閉じない。
そりゃあそうだ、こんなビジュアルのものを見せられたら誰だって驚く。ホラーよりホラーしてるって。
「さあ、いきなさいセバス! 我が敵を殲滅せよ!」
セバスチャンの首なし上半身はベルの号令に合わせて腕をグッと曲げると、その反動のままフォレストドラゴン目掛けてぶっ飛んでいった。
そしてやつの鼻をガシガシと掴みながら、さらに上へ上へと登り続ける。
「うっわぁ……こぉれはえぐいてぇ……」
もう、見た目だけすると最悪のバケモンだ。そのバケモンは今、フォレストドラゴンの額目掛けて何度も何度も拳を叩き込んでいる。そして消えた。
フォレストドラゴンはたまらず、グラリと体勢を崩す。恐らく、あともう一息で倒せるだろう。だけど、何だか複雑な心境。さっきのセバスチャンの衝撃を越える経験なんて、この先そうそうないんだろうなぁ……
最後まで読んでいただきありがとうございました!
感想、ブクマ等いただけると励みになります。
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m




