93話 凄絶バトル①
「先手必勝、【パライズ】!!」
競り上がった巨体が小刻みに震える。よし、相変わらず麻痺はバッチリ効くようだな!フォレストドラゴンが麻痺ったと同時に、ベルが決死の表情で駆け戻って来る。アスリート顔負けな位必死に。
「マヒルさぁぁぁんっ!!! で、で、で、でましたわ!あいつですわ!」
「分かってるって。とりあえず、落ち着け」
「そ、そ、そうです、わね……! 一旦、深呼吸させて、くださいまし……!」
ベルはゼハゼハと慌ただしく深呼吸……いやそれ深呼吸か?
「よし、ここから組み立てていくぞ! ベル、ラヴィ、俺の指示に続いてくれ!」
「わ、分かりましたわ!」
「了解」
ベルは魔導書を展開させ、ラヴィは刀を構え双方準備万端だ。
「なんだか、いつにもまして頼もしいですわね! それで、どんな作戦ですの?」
「あぁ……! 作戦名は、「ネチネチ、チクチク大作戦」だ!麻痺らせ、毒らせ、少しずつ体力を奪い続けるぞ……!」
「「え……?」」
ベルとラヴィは、揃ってすっとんきょうな声をあげる。いやいや、まさかこんなバケモンと正面切って戦うつもりだったの?そんなもん、残機がいくらあっても足りない。
麻痺が確実に効くという確証を得た今、俺には最強……いや、最凶の戦法があった。
相手がでかくてのろくて、しかも一体だけだった場合――俺の麻痺があれば、MPの続く限り"ずっと俺のターン"ができるというわけだ!
ポイズンパライズで動きを遅くし、毒状態に。さらにパライズで完全に動きを制止できるという、確殺完封麻痺戦法の爆誕じゃい!おいおい、二人とも何を呆けた顔をしているんだよ。
「いや、え?じゃなくて。二人とも大技は控えて、MPと体力に気を付けながら攻撃しまくってくれ」
「いや、え?ですわよ! 何ですのその作戦は!地味、あまりにも地味過ぎますわ! セバスチャンの出番はっ……!?」
「そ、そうです! 拙者の、必殺技が……」
「やいのやいの言わないの! 見るからに体力おばけのモンスターなんだ、こいつを一撃で倒せるって人、挙手!」
「それは……」
二人とも、それ以上言うことなく黙り込んでしまった。いや、分かる。ボス戦だと思って意気込んでたら、ただの消化試合だもんな?拍子抜けするのは分かる……が!
「お、そろそろ切れそうだな。【パライズ】!」
「パァオオッ!?」
フォレストドラゴンは、心なしか切ない声をあげた。
「……このように、麻痺が確実に効くという確証ができたいま、命の危険をおかしてまで無理に戦う必要はない。勿論、不測の事態に備えて二人には最大限警戒してもらいつつ、チクチクと攻撃を与えていってほしい」
「ぐぐぅ……!」
二人はついに折れたのか、無言でフォレストドラゴンに攻撃を始めた。派手な魔法も、目を見張る一撃もない、至って地味ぃな絵面だ。
こんな戦いをゲームで強いられたら?そりゃあもう、クソゲーもクソゲー、運営に抗議の電話の一本も入れるだろう。でもここは異世界、これが現実。安全に勝つことの何が悪い……!
「……マヒル殿、拙者のやっていることは、武士道に反しては、いないか……?」
新しく覚えたというスキルも使えず、チクチクと刀で刺し続けているラヴィは、ひどく不安そうな顔で俺を見る。そんな不憫な彼女にかけてやれる言葉は――
「ラヴィ。それは、分からん!」
「はぅっ!?」
「武士道……すなわち"道"とは、人それぞれに宿る志のことだ! ならば俺の考える道は、パーティーの皆が無事に生還し、クエストも無事に達成することだ!今は自分の意思に反するかもしれないが、その力を俺の道しるべとして貸して欲しい……!」
「ま、マヒル殿……! 分かった。もう、拙者は迷わない……!」
そう言って、ラヴィはザッシュ、ザッシュと刀を突き立てる。う~ん、いたいけな少女を騙しているという罪悪感が心を締め付ける!いや、決して騙してる訳ではない。俺はただ、都合の良い言葉を体よく並べただけ……!それをどう受け取るかは、本人次第ってことで……!
「……」
ラヴィとのやり取りを見ていたベルは、じぃっと目を細めて俺を見つめて……いや、睨んでいる。俺には、フォレストドラゴンよりこっちのが怖く感じる。
だが、まあいい。これが俺なりのリベンジマッチだこんちくしょう!
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