91話 再結、パライジング・グレイス!
俺が麻痺をかけたことが原因で暴れているっぽいフォレストドラゴン。さすがにいたたまれず、つい「俺が行きましょうか」と口をついて出た。
「あ、あなたたちが? ……いえ、それは無理でしょう。フォレストドラゴンの危険度はC+です。あなたたち二人では、確実やられます」
セラ姐は首を横に振り即否定。ははっ、確実にやられるたぁ実に潔くていいね。
危険度C+……それがどれ程のものか分からないけど、あの見た目からして相当な強さなのだけは分かる。
「そりゃあ、倒すのは無理だと思います。でも、俺の麻痺があれば気をそらしたり、他の実力のあるパーティーが来るまで時間稼ぎもできると思います」
「そ、そうですわ!マヒルさんの麻痺なら、例えフォレストドラゴンであっても」
「しかし、せめて三人位は――」
バタンッ――!
セラ姐が言いかけたその時、ギルドの扉が勢いよく開かれた。風になびく銀髪、そして美しく整った顔立ち――
「拙者も、行く……!」
「ラヴィ!」
「ら、ら、ら……ラヴィさんっ!?」
全身フル装備で決め込んだラヴィは、ふんすと鼻息荒く登場。おいおい、胸熱展開じゃねえか!隣のベルお嬢さんも鼻をフガフガ言わせて大興奮だ。
なんだかんだ修行が忙しそうで、三人が顔を合わせることもほとんど無かったからな……ともあれ、これにてパライジング・グレイス、再始動だ……!
* * *
ラヴィの参戦によりセラ姐から渋々ゴーサインが出たので、俺たちは再びあの森へと向かっていた。
ラヴィは約二週間の修行の合間に、新たなスキルを覚えたらしい。頼もしい限りだ。
修行をつけてもらっていたハルヴァンさんは、仕事の為既に街から出ていってしまったらしいから、今度会った時はしっかりお礼を言わないとな。
それにしても――
「ラヴィ、随分と嬉しそうだな? なんか、ソワソワしてるっていうか……」
「え、そう……? でも、実は楽しみ。拙者の新しい力、早く見せたい」
「ふふっ、そういうことか。俺も楽しみにしてるよ」
ラヴィは新しいオモチャを買ってもらった子どものように、ソワソワウズウズしている。俺もRPGゲームやってた時は、新しい装備とかスキルとかはすぐにでも試したい派だったから、気持ちは分かるぞ、うん。
「あ、もちろんワタクシだって楽しみにしてますわよ!」
俺とラヴィばかりが話していたせいか、ベルが負けじと会話に入り込んでくる。しかも手元は手綱を捌きつつ、顔だけこちらを無理矢理向いて。器用だし怖いわ。
「それにワタクシ、ラヴィさんがいなくてとぉっても寂しかったんですわ! ここ最近ず~っとマヒルさんと一緒で、飽き飽きしていたところで……!」
「んだとこのやろう! いや、それよかちゃんと前見て運転しろ!」
「……二人とも、相変わらずだね。拙者も、二人と一緒に、早く冒険したかった」
「あぁ、ラヴィさん……!」
興奮したベルは操縦が荒くなり、馬車はガタンゴトン揺れる。吐く、吐くって……!
「おい、落ち着けベル! 俺の口からキラキラしたものが飛んでいっちまう!」
「いやぁ、汚いですわ!」
「だから落ち着いて操縦してくれって」
そんな俺たちのやり取りを、ラヴィは暖かい笑顔で見届けている。ラヴィの復帰により、ベルはいつにもまして騒がしいが、やっぱりこの三人がしっくりくる。まさに実家のような安心感ってやつだな。
「あ、そうだラヴィ。新しくスキル覚えたって言ってたけど、どんなスキルなんだ?」
「うん、いつも使ってた居合い切りが、強化されてスキルになった。その名も《羅刹》」
「羅刹……! なんか、めちゃくちゃかっこいいな!」
「うん。それに、けっこう、強いよ」
ラヴィはドヤ顔でダブルピースを披露。
こいつぁ、なんて頼もしいんだ。俺の勝手なイメージだけど、ゲームとかマンガだと刀を使うキャラはだいたい強い。しかも、居合いを使うキャラともなれば、強キャラ確定だろ!
「それから、もう一つ。暴走したときの力、少しだけ、制御できるようになった」
「まじか! あの、猛牛を素手でぶっ倒したあの力を!?やるじゃんラヴィ!」
「えへへ……」
ラヴィはうっすらと頬を染めながらも、まんざらではないようだ。そんな俺たちの様子を、チラチラと横目で見てくるベル。わき見運転すんな。
「……ううんっ! もうそろそろ着きますわよ!マヒルさん、落ちても助けませんから、ちゃんと掴まっててくださいまし」
「はいはい、分かりましたって」
馬車は、俺たちを乗せてガタゴトと進む。
この道、進む先に待つのは俺たちパライジング・グレイス対、因縁のフォレストドラゴンだ。もちろん強敵に違いないし、普通に戦ったら勝ち目はないだろう。でも、この時ばかりは俺たちならできるっていう妙な確信があった。ふふ……さあいくぜ、リベンジ・マッチだ……!
「ところで、フォレストドラゴンって、どんなモンスター?」
「はあっ!?」「えぇっ!?」
前言撤回、今日が俺たちの命日かもしれない。
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