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麻痺無双!~麻痺スキル縛りで異世界最強!?~  作者: スギセン
序章

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8話 麻痺オタクと金髪ツインテール、冒険者になるってよ

 俺に声をかけてくれたのは、宿屋《たんぽぽ亭》の女将さんだった。名前は《ミレナ》さん。

 名前からして優しさが滲み出てる、絶対いい人じゃん……!

 肩まで伸びた栗色の髪をきれいにまとめた、年齢不詳の女性。……年齢不詳ってのはつまり、ナイスミドルってことだ。


 エプロン姿が異様に似合っていて、親戚のおばちゃんみたいな安心感がある。俺の惨状をすべて見透かしていたかのように、ミレナさんは「空いてる部屋を使いな」と言ってくれた。本当に太っ腹だ。いや、別の意味じゃなくて。


 たんぽぽ亭は、一階が酒場兼食堂、二階が宿になっている。部屋は簡素ながらも小綺麗で、木の温もりを感じる、いい雰囲気だった。

 部屋の隅には、小さなシャワールームのような設備があった。まあ、正確には「シャワー」じゃなくて──木桶+管+手押しポンプ。原始的かつ、超物理な代物だ。

 さっそく汚れを洗い流そうと中に入ると、案の定、管から出てきたのは──


「うっひょおぉぉう!」


 絶妙に冷たい水だった。

 つい、変な声が漏れる。妙なテンションになりながら、滝行よろしく精神統一して汚れを流す。

 部屋に置いてあった服は、ごわごわとした麻布の服だったけど、スウェットよりは断然マシだ。

 世界観的にも、ね。


 そして──。

 階段を降りた俺は、衝撃的な光景に出会うことになる。


 ……ベル。

 ツインテールはふわっと乾いていて、俺と同じ麻布の服に身を包み、机に向かって──


「もがもがもがもがっ……!」

 スープをすすりながらパンを噛みちぎっていた。それはもう、獣のような速さで。

 ドンッ、と音がしそうな勢いでスープ皿が揺れ、パンのカケラが飛び散る。だがベルの目は、真剣そのものだった。生きるための食事。それはまるで──獣。


「……お前、すごいな」

 思わず、俺の口からそんな言葉がこぼれた。

 ベルは、ぴたりと手を止め、俺を見た。その顔は──ちょっとだけ、恥ずかしそうに赤くなっていた。

 何をいまさら……


 俺はミレナさんに「あんたもお食べ」と促されるまま席につき、ほかほかの湯気が立ち上るスープを一口。

「うっま……」


 あったかいスープって、なんでこんなに心がほどけるんだろうな……。

 俺は今、スプーンを持つ手を止められずにいた。正直びっくりしてる。口の中でとろける白身魚、旨味たっぷりのスープ、そしてカリッと焼かれたパン。

 ……あれ、もしかして俺、前世でもこんなメシ食ったことなかったかもしれん。お湯を淹れて三分のやつばっかだったしな。


「気に入ったかい?」

 カウンターの向こうから声をかけてくるのは、たんぽぽ亭の店主――ミレナさん。恰幅の良い体にドンと構えた雰囲気。そして何より、笑顔が……めっちゃ優しい。後光がまぶしい……

 あの時、急に呼び止められた時は一瞬ビビったけど、全然怖くなかった。むしろ女神。


「うますぎて、魂が昇天しかけました……!あなたこそ、まさに女神です……!」

「大げさだよぉ、もう。ほら、もっと食べな」

 ご厚意に甘えてパンをもう一枚。すると、斜め向かいでパンをかじってたベルが、ジロッとこちらを睨む。


「……気安く女神とか言わないでくださいまし。あなたの魂ごと引きずり散らしますわよ?」

 こえーよ。

 俺、悪いことなーんにもしてないはずなんだけどな……


 ……でも、口は悪いくせに、お行儀よく背筋を伸ばして、がっつりスープかきこんでるの、なんか可愛い。さっきまで「歩くんですの……?」とか文句言ってた奴とは思えない。


 さて、腹も落ち着いたところで、話を切り出す。


「ところで、ミレナさん。俺、この世界のこと、右も左も分かんなくて……」

「あらまぁ、そうなのかい?」

「その……記憶がちょっと、曖昧でして……」


 記憶喪失設定、ここで発動ッ!いや、ある意味ほんとにそうなんだけどな!


「で、今の俺の全財産なんですけど……この木の棒一本だけです」

「木の棒?」


 俺が腰の“相棒”を示すと、ベルがクイッと首をかしげる。「その辺で拾っただけでは?」って顔やめろ。ミレナさんは「そりゃ大変だねぇ」と腕を組みながらしばらく考え、ポンと手を打った。


「じゃあ、冒険者になりなよ」

「冒険者、ですか?」

「ああ。誰でも登録できるし、手っ取り早く金が稼げる。もちろん危ない依頼もあるけど、初心者向けもあるよ」


 マジか。こっちの世界、ハローワークより敷居低いな!

 それにしても、冒険者……良い響きじゃないの……!


「それに、私の紹介ってことにすれば斡旋料も入るし、しばらく宿代も食費もタダでいいよ」

 え、女神じゃん???


「行きます!」

「即答ですの!?」

 ベルがスプーンを落としそうになるくらいの勢いで、俺は立ち上がる。いやもう、これしかないっしょ!


「ってことで、ベル。お前も一緒な?」

「はぁっ!? なぜワタクシまで!?」

「だってお前、他にやることないだろ?ってことで……」


 俺はベルの頭をがっしり掴んで、グイッとミレナさんに向け――深々と頭を下げさせた!


「こいつも一緒に冒険者やるんで!よろしくお願いしますッ!」

「こらあああっ!なに勝手に頭下げてますのよぉ!?」

「今さらだし、ノリと勢いでなんとかなるって!」

「なるかぁっ!ですわ!」


 周囲の客がクスクス笑ってるのが聞こえる。うん、ごめんな、騒がしくて。

 でもミレナさんはにっこり笑って――

「はいはい、二人ともよろしくねぇ」


 神かよ。


「……よろしくお願いします、ですわ……」

 最後には、ベルもポツリとそう言った。

 こうして俺たちは、異世界での第一歩――冒険者生活をスタートさせることになったのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

感想、ブクマ等いただけると励みになります。

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
 返信は不要です。    ここまで読んだので感想を残しておきます。  展開のテンポも良く、メリハリがあって面白かったです。  以降のエピソードを他の読者の方がきっと楽しみにしているはずです。 …
Xから来ました。 非常にテンポ感がよくサクサク読めて面白いです。 今後の期待を込めて、ブクマと評価を入れさせていただきました。 以降のエピソードも楽しみです。
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