83話 ラヴィの弟子入り
沼地でのダンジョンチャレンジから数日後、いつも通り朝食を済ませ、クエストの準備をしようとした所に、思わぬ来客があった。長身で、白い毛並みの獣人がたんぽぽ亭の扉を開いた。
「よう」
「ハルヴァンさん!」
亜獣人の凄腕拳闘士、ハルヴァンだ。ゴブリンの群れや暴走したラヴィですら軽々と相手する、底知れない実力者。普段は傭兵をしているとのことだったが――
「今日はどうしたんですか?」
「いやぁ、カウボーイ様の姿を拝んでおこうかと思ってね」
ハルヴァンは口の片端をにいっと吊り上げ、意地悪く笑う。うわぁ、もう最悪だよ。ようやくあの屈辱的な格好と醜態を忘れかけてたのに!
「はは、それはそれは笑えないですねぇ……」
「そうか? 俺は十分笑わせてもらったぞ」
「ハ、ル、ヴァ、ン、さん?」
「悪ぃ悪ぃ」
俺がじっと睨むと、ハルヴァンは両手を挙げて降参のポーズ。
「いや、今日来たのは、やんちゃな獣人の娘について用事があってな」
「やんちゃな……あぁ、ラヴィですか?」
「おう、この前の銀髪のやんちゃ娘だ」
……"やんちゃ"?それって猛牛二体を素手で倒すやつに使う単語だっけ?というか、ハルヴァンさんがラヴィに何の用だろうか。
「いや、あの娘さ。俺が修行をつけてやろうかと思ってな」
「しゅぎょ、え――?」
動揺する俺をよそに、ハルヴァンは二ッと笑った。
* * *
「――というわけで、ラヴィ。お前はどう思う?」
俺はラヴィを自室に呼び、事の顛末を説明した。彼女はこくりと首を縦に振る。
「お願い、したい」
「おお、即答とはやる気満々ちゃんだね」
「……うん。強くなりたい――いや、それよりも、仲間に危険な目に、あって欲しくない」
「ラヴィ……」
先日の暴走の一件を気にしているのだろう。ハルヴァン曰く、彼との修行を積めばあの力を制御できるようになるらしい。まあ、それ自体は嬉しいことなんだけど、なんで俺たちによくしてくれるんだろうか。
「ハルヴァンさん、どうして俺たちにそこまで? 俺たち、何もお返しできるものはありませんよ?」
「どうしてって、そりゃあ……珍しいからだよ」
「珍しい?」
「人と獣人のパーティーなんて、ほぼねぇよ。そうだろ、ラヴィ?」
「……うん。普通、ない」
「えっ、そうなのか!?」
俺が思っていたより、人と獣人の壁は高いようだ。
……いや、俺からしたらこんなに強くて可愛い子がいたら、土下座してでも仲間にしたいけどな!
「お前、そんなことも知らずにパーティー組んだのか」
「まぁ、はい。でもラヴィは大切な仲間ですし!俺は何も気にしてません!」
「マヒル殿……」
ラヴィが赤面してうつむいた。……やめろ、尊すぎて胸がキュン死する。
「ははっ! 本当に何も考えてねぇんだな。でも、そういうノリは嫌いじゃねぇぞ」
「……褒めてます?」
「半分な!」
「まったくもう……」
「冗談だって!」
ハルヴァンは笑い、右手を差し出す。
「しばらく俺が預かる。一、二週間みっちりしごくからな」
「了解です。ラヴィをよろしくお願いします」
俺も右手を差し出し、ガッシリ握手。……強っ!メキメキ音してるんですけど!?危うくせんべいになるとこだったわ!
「じゃ、早速行くか」
「えっ!?今からっすか!?」
「善は急げっていうだろ?まあ、夜までには返すから安心しな」
「……よろしく、お願いします」
ラヴィが頭を下げたあと、俺に近付く。
「マヒル殿、行ってきます」
「……! あぁ、気を付けてな」
「うん。強くなるね」
ニコッと弾ける笑顔――危ねぇ、腰抜かすとこだった。ベルがいたら鼻血を吹き出してるだろうな……
――ただ、なんていうんだろうか。ラヴィのその目には確かな決意のようなものな感じ取れた。
さて、ラヴィには修行に集中してもらうとして俺は――日銭を稼がにゃならん。最大戦力が抜けたとて、金の為にはクエストは受けなきゃならない。
ということはつまり――久々にベルと二人きりのデュオパーティー。
……なるほど。俺にとっても相当きつい修行期間になりそうだ。
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