82話 謎の邪眼と行く末と
沼地での激闘を終えた俺たちはテンタクトゥルの素材や、ボスドロップの謎の眼球、それから堪えきれない程の疲労を携えて街へと戻った。
街についてまず向かったのは、迷宮管理協会だ。謎の眼球がいったいどれ程の価値があるものか、支部長のアイヴィさんに聞く為に向かったのだが……
「ふぅん……さっぱり分からないね。っていうか気持ち悪い」
「えぇ……」
頼りの綱であったアイヴィさんは、最初こそ食い入るように眼球を見つめていたが、よく分からないものだと認識するやいなや、一気に興味を失ったように言い放った。
「初のボスドロップが……用途不明の目ん玉だなんて……!」
ガックシと項垂れる俺の肩に手を掛けるアイヴィさん。
「まっ、人生そんなもんだろ。もしかすると値打ち物かもしれないから、大事に持ってたらいいんじゃないかい?そんなこと万が一にもないと思うけど」
「アイヴィさん、励ましたいのか傷付けたいのかどっちなんですか」
「そりゃあ、まあどっちでもあるさね。人生の大先輩としてのありがたいアドバイスさ」
「そすか……」
俺は思わず乾いた笑いが口をついて出た。まあ、価値の分からないものをグダグダ言っててもしょうがないか。
「まあ、迷宮管理協会の一員としては、ダンジョンチャレンジの成功及び、謎のボスドロップの獲得は素直に称賛に値すると思うよ。おめでとう」
先程までの興味なさげな顔から一変、アイヴィさんは小さくにいっと微笑んだ。この人は、地球で言うところのいわゆるダウナー系というのだろうが、正直笑顔はグッとくるものがある。
「ありがとうございます……!」
アイヴィさんの笑顔に応えるように親指を突き立て、迷宮管理協会を後にした。
初めてのダンジョンボス戦、そして華麗なる勝利とくれば、後はやることは一つ――宴だぁっ……!
* * *
冒険者ギルドで素材の換金を済ませた俺たちは、いつもながらの酒場「銀の猪」に来ていた。諸々売り払った結果、五万ゴルドになったもんだから、今日も今日とて酒がよく進む……!
「いや~それにしても、ダンジョンチャレンジ悪く無いな……!ガッポリだぜガッポリ」
「は、はしたないですわよ、マヒルさん」
「お前報酬聞いたときよだれ垂らしてたじゃねえか」
「ベル殿、はしたない……?」
「そ、それは……!」
ベルは顔を赤くしながらも串焼きを食べ進めている。うん、食欲があるのはいいことだ!いつも通りって感じ!
「まあ、一つ言うなれば、ボスドロップの品が不気味で謎に満ちているってことだがな」
「そ、そうですわね。確かに随分グロテスクな眼球でしたわ」
「うん。なんか、触りたくない」
「そう、だよな。お前たちが持っていたくないっていうもんだから、俺の部屋に不気味な家具としてビン摘めされてるんだからな……」
そう、ボスドロップの品である〔深淵の邪眼〕は用途不明かつ気持ち悪いとのことで、女性陣たちは絶対に持ちたがらなかった。おかげで、俺の部屋の窓辺には趣味の悪過ぎるオブジェクトが生まれてしまった。ベルは「魔除けにでもなるんじゃないですの?」とか言ってたが、どう考えても魔を呼び寄せる呪物だろ。
「まあいい。それより、今回はダンジョンのボスも倒して完全攻略した訳だが……率直な感想としてどうだった?個人の手応え的にいうと」
「ふふん!ワタクシはそれはそれは大活躍でしたわ!触手をぶんぶん吹き飛ばしてやりましたもの……!」
ドヤァ……!という文字が顔に浮かびそうな程のドヤ顔ベル。実際、今回のダンジョンで一番活躍してくれたのはベルだと思う。ベルの習得魔法は極端ではあるが、やはり魔法職は強いな。
「はいはい、あなたのおかげですよっと。さて、ラヴィはどうだ?」
「……拙者は……ダメだった」
「ダメ?」
「うん……ダメダメ」
ラヴィは小さく呟くと、首を横に振って顔を伏せた。
「ダメってことはないだろ? 触手を何本も切り払ったし、トドメだってさしてくれたじゃないか」
「それは……ダメージには、なってなかった。最初に足を捕まれたりしたし、トドメだって、マヒル殿たちがいなければ、させなかった」
「なるほど。ラヴィとしては、今回のダンジョンチャレンジは納得のいく結果じゃなかったわけだ」
俺がそう訊くと、ラヴィはこくんと頷いた。
「でも、俺とベルじゃあトドメをさすことはできなかったし、結果から見ると我らがパライジング・グレイスの大勝利だな!」
「もっちろん、そうですわね! ワタクシも魔力が切れかけてフラフラでしたわ!」
「マヒル殿、ベル殿……うん、拙者たちみんなの、勝利だ」
誰が言うでもなく、ジョッキをカツンと合わせる俺たち。今回のダンジョンチャレンジ、誰が欠けていてもボスを倒せなかっただろう。反省点こそあれど、ボスを倒したという結果は俺たちパーティーの士気をぐんぐんと上げるものだった。
俺たちはそれから夜遅くまで、ダンジョンの反省や次のダンジョンに向けて、それからベルの活躍自慢話など、様々なことを話し合った。ベルに関しては、何と倒した触手の数を数えていたらしく、その数六本だそうだ。すんごくどうでもいい情報をありがとう。
パーティーとしての調子もいいので、近々、別のダンジョンや対抗戦も進めようという話で大いに盛り上がり、俺たちは意気揚々と帰路についた。
それから数日が経ったある日、部屋の窓辺に置いていたはずの邪眼が無くなっていたことに気付いた。どこを探しても見つからない。勿論、ベルとラヴィの部屋にも無かった。これは盗まれたのかもしれないと、ギルドへ報告しに行くか迷ったが、パーティーでの話し合いの結果「無くても困らない」ということでこの話は終わった。
……薄気味悪いオブジェが無くなって正直すっきりしたけど、この時の俺たちは気付いていなかった。
あの眼が――まさに"世界を変えてしまう"程のとんでもない力を秘めていたなんてことを。
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