81話 沼地の決着、出でよ大秘宝!
沼地に蠢くイカ型のボスモンスター、テンタクトゥル。
その弱点は恐らく、眉間の位置にあるとされる心臓だ。……地球のイカと同じであれば、だけど。
巨大イカの目元に飛び移り、盛大に刀を振りかざしたラヴィだったが、ガキィッという鈍い音が響いて切っ先は止まった。
「は!?なんだ!?」
「刀が、止まったですわ……!?」
ラヴィが悔しそうな表情を浮かべながら戻ってきた。
「だめ、硬すぎる。なにか、骨みたいなものがある」
骨ぇ……?イカに骨なんてあったっけか――いや、いたな。親戚のシゲさんがチョップでイカを締めようとして、指を骨折したっていう馬鹿らしい事件があったな。不気味な体の模様に、頑丈な骨を持つイカ……コウイカだ!
「二人とも!あいつの眉間には恐らく、装甲みたいに分厚い骨がある。まずはそれを叩かないとダメージは通らないだろう」
「そ、そんな……どうすればいいんですの?」
「そうだな……ベル、セバスパンチはいけるか?」
「……サモン・セバスチャンですわね?残念ながら、発現させるほどの魔力は残っておりませんわ。せいぜい、暴波球を数発程度ですわね」
「そうか……」
俺はテンタクトゥルに追加のパライズをかけながら、思考を巡らせる。泡の爆発は衝撃こそ強いが一点にダメージを与えられない。それに、ベルの使う他の魔法はどれも攻撃向きじゃない。ラヴィの剣撃は強力だが、あまりに硬いものとは相性が悪い。
セバスパンチ並みの威力で、あの骨をぶっ壊すには……
その時、右手に持ったスタンブレイカーがバチッと音を立てた。まるで”俺の出番だ”とでも言うように。そしてそれに呼応するかのように、一つの無謀な作戦が頭に浮かんだ。
「……ベル。暴波球を設置してくれ」
「え?ここにですの?」
「ああ。考えがある。設置したら二人は離れていてくれ」
「分かりました。くれぐれも、気を付けてくださいまし」
ベルの展開する魔法陣から、大きな泡がぼよんと落ちてきた。見た目はかわいいが、触れると一気に爆ぜる泡の爆弾だ。俺の必殺技の発動条件は、衝撃を溜めること。これならばきっと、発動に必要な衝撃は溜まるだろう。これ以上の長期戦は無理だし、一か八か決めるしか無ぇっ……!
「頼むぜ、スタンブレイカァァァーーー!!!」
俺は最大まで伸ばしたスタンブレイカーを振りかぶり、思い切り泡に叩きつけた!ぐにゅうという独特な触感が腕に伝わり、次の瞬間にはドバァッという音と激しい衝撃に、俺の体は吹っ飛ばされた。
「マヒルさん!!」
「マヒル殿っ!」
痛ぇ……耳の奥がじんじんするし、骨がギシギシ音を立ててる気がする……でも、どうやら読み通りだったな。スタンブレイカーは青白い光を帯び、バチバチと電気を発している。
相棒を杖がわりになんとか立ち上がると、テンタクトゥルに追い打ちのパライズをかける。残りの魔力的に、あと二、三発程度しか撃てないだろう。ここで決めてやる……!
「ラヴィ!俺に続けぇっ!」
ひょっこひょっこと足を引きずりながら、巨大イカの元へ――!
なに?かっこ悪いって?うるせぇ、こっちは必死なんだ!
「轟け!【ゼロ・エキューション】ッッ!!!」
ゴロゴロと雷鳴が轟き、眉間にスタンブレイカーの強力な一撃が炸裂――!直後に聞こえた、バガァッという鈍い音、手応えアリだ……!
すかさずラヴィが刀をかざし、ズブリッ――と眉間に突き立てた。
「ブブルブゥッ……!」
テンタクトゥルは一瞬ビクッと大きく痙攣すると、毒々しい紫の体色がサァッと引いていき、茶色がかって濁った白色へと……余計に汚い色へと変貌した。え、これ死んでる?本当に?
「倒した……のか……?」
勝利の確証が得られずにいると、背後で”ボウンッ”という音が聞こえた。そこには、赤に金の装飾が施された、みるからに豪華な宝箱が突然現れていた。
「マヒルさん、これ!」
「ああ、今行く!」
倒したテンタクトゥルをぬるぬると滑り降り、いざ宝箱とご対面。
まぁじでゲームとかでしか見たことないんですけど……!ザ・報酬!って感じ。それにこの装飾……どう考えても高価なものしか入ってないやつじゃん……!
「じゃ、じゃあ……開けてみる、か」
二人の視線が宝箱に釘付けになる。俺はゴクリと唾をのみ、期待に胸を膨らませながら慎重に宝箱を開いた――!
「「「え……?」」」
そこにあったものは、宝箱の大きさと比べてあまりに小さいものだった。ソフトボールくらいの大きさで、動くたびに糸を引く。淡い紫色の球体で、赤い血管のようなものが走り、ギョロリとした黒い瞳。これって――
「「「目……?」」」
俺たちはただ茫然と、宝箱の中のものと見つめ合った。
いや比喩じゃなくて本当に。本当に。
〔深淵の邪眼〕
用途は不明。ぬるぬるとした粘膜に覆われた眼球のように見える何か。とてつもない力を秘めているのか、そうでないのか。兎にも角にも用途は不明。
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