80話 激闘、テンタクトゥル!
「うわぁぁっ!【パライズ】!!!」
迫り来る二本の巨大な触手に、俺のパライズが直撃。不自然に硬直した触手はぶるぶると震え、無軌道に振り下ろされた。
「うおっ、危ねぇ……!」
俺たちのすぐ近くに倒れ、激しくバイブレーションする触手は泥をびちゃびちゃと掻き立てる。汚ぇ。いくら麻痺らせたとはいえ、動き出した物体をその場に留めるなんてチートじみた力はない。いや、こんな巨大怪生物を一発で麻痺らせるのは十分にチートだが。
「ベル、ラヴィ!ありったけをぶちかませ!倒しきるまで、俺が麻痺らせ続ける!」
「了解ですわ!」
「参る……!」
ボスっていうだけあって、きっと相当なタフネスだろう。だが、やることに変わりはない。俺たちの最大火力で削りとるまでだ……!
ベルは魔方陣を展開させ、ラヴィはグッと腰を落として居合いの構えを取る。よし、俺は麻痺の重ね掛けだ!
「いくぜ、パラ――」
俺がパライズを放とうと手を伸ばした瞬間、ぬちゃあっと気持ちの悪い感触が足元を這い、途端に全身の力が抜けていくのを感じた。
「えぇ、なんだ、これ……あっ!?」
俺の右足には、テンタクトゥルの淡い紫色の触手がぐねぐねと腰元まで絡み付いている。そういえばさっきも、色んな所から触手が突き出てたよな……つまりこの触手、着脱式……?本体とは別に、沼地に忍ばせてたって訳か……!はは、こいつぁ一本とられたぜ!
無数についている目玉と目があった。"アイコンタクト"に応える余裕もなく、俺はがくんと立ち尽くす。本当に、力が……入らねぇ……!
「マヒル殿!」「マヒルさん!」
「ぐぅえ……この――」
次の瞬間、麻痺の解けたテンタクトゥルがぬたりと体を起こした。
「ブルルルォォオ!!!」
テンタクトゥルは怒声か何かも分からない奇声をあげると、目を細め、触手の先をぴらぴらと揺らしながら近付いてきた。え、なんかめっちゃ煽ってね?そういう感情はあるの?
……舐めやがって。こっちにはなあ、例え狙えなくても麻痺らせられる技があるっつうの……!
「【磁力痺鎖】……!」
この技、俺の周囲の敵を引き寄せつつ、さらに麻痺させる技だ!もちろん、狙いはお前だ!触手このやろう!
黄色いオーラが周囲に浮かび上がり、絡み付いていた触手がぬちゃあ……っと離れ、ぷるぷる震えながら俺のまわりをゆっくりと旋回する。すんごい奇妙な光景。ともあれ――
「おい触手野郎!お返しだ、【パライズ】!!」
「ブルルッ!?!?」
「よし、麻痺ったな!いくぞ、ベル、ラヴィ!足元に気を付けて総攻撃だッ!!」
どたどたと沼地を駆ける。スタンブレイカーに衝撃を溜めたいところだが、どろどろの沼地に跡を残すだけで必殺技を出すまでには至らない。こうなりゃ、二人に任せるしかねぇ……!
「いきますわよ!おいでなさい【サモン・セバスチャン】!!」
魔方陣から豪速で放たれたセバスチャンの二本の腕が、テンタクトゥル目掛けて空を切り、そして――!
ドゥドゥルンッ、ドドヌタァッ――――!!!
セバスチャンの拳のジャストヒットを喰らい、ねたつく粘液を振り飛ばしながら巨大イカがダウンッ!その隙を逃さず、ラヴィが閃光の如く斬撃を叩き込むッ!
俺はひたすらに声援を飛ばすッ!そこに、たたっ切れた触手が飛んできて、おれの顔に塗りつくッ!ぐわあっ!?
「べっ、ベバァッ!! 気持ち悪ぃ……!」
「マヒルさん、何をやっているんですの!? 追加の麻痺を!」
「りょ、了解!もういっちょ【パライズ】!!」
「ブブルッ……!」
ベルの暴波泡暴波泡、ラヴィの怒涛の連撃、俺のパライズが幾度となく炸裂。しかし、テンタクトゥルは何度もしぶとく起き上がり、触手をうねらせる。それに、斬られたはずの触手までいつの間にかニュキニュキと再生している。バケモンめ……
「はあ、はあ……しつこい、ですの……!」
「手応え、ない……」
「……あぁ。そろそろ決めないと、俺の魔力も持たねぇぞ……」
「マヒルさん、何か弱点は無いんですの?」
「図鑑には、なーんにも書いてなかった。攻略班仕事しろってんだよ……!」
くそっ……。弱点、弱点か……。
いや、そもそもイカの弱点って何だよ?頭か?頭ってどこだよ?もしくは、心臓?だとすれば胴体はどっちだ?
――その時、親戚の釣り好きのおっちゃん、シゲさんが言っていたある話を思い出した。
『おい、まー防。イカってのは、目ん玉と目ん玉の間に心臓があるんだ。だからこうやって、チョップしてやるとっ……!ほれ、白くなった!おっちゃんすげぇだろ!ガハハッ!』
ふふ、ありがとうなシゲさん。俺の両親からは『毎回捌くのが大変だ』って言って煙たがられてたけど、俺は好きだったぜ……!おこづかいもくれたしな……!
「ベル、ラヴィ!あいつの弱点は、目ん玉と目ん玉の間だ!」
「目ん玉!?りょ、了解ですわ!」
「切り、刻む……!」
「っし……いくぞっ!」
未だにぷるぷる震えるテンタクトゥル目掛け、俺たちは最後の攻勢をかける――!
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