76話 恥は道連れ、世は祭り
どうやら、あの暴れ狂う猛牛スカーブルズを倒したことで、今年のカウボーイに選ばれてしまった俺。
ついさっきまでの街のゴタゴタはどこへやら、催し物や料理の屋台がずらりと並び、一変してお祭り騒ぎとなつた。この街の人たち、たくましすぎるだろ。
さて、俺たちはというと――
「アッハッハッハッハッハ!お、オッホッホッ、ゴホ、オエッ!」
「…………」
「なんだよ、お前らのせいでもあるんだからな」
派手に笑い飛ばしながら、しまいにはむせてうずくまるベルと、笑いを堪えようと全身をプルプルと震わせ、防具をカタカタと鳴らすラヴィ。
嘲笑の的となっているのは、今回の主役であるこの俺、マヒル=パライザーだ。
カウボーイに選ばれた人は、牛追い祭りが終わるまで特別な衣装を着る慣わしがあるそうだ。テンガロンハットに牛の角飾りがついたもの、干し草で編んだマフラーみたいなものに、白黒まだらのホルスタイン柄のベスト。
「え、なにこの羞恥プレイ。牛飼いの勘違いハロウィーンですか?」
ふっざけんなよ、こんな衣装、どこをどうとってもクソッタレじゃないか。
俺は冒険者ギルドで今年のカウボーイに選ばれたことを聞いてから、そのまま商業ギルドの管理するでかい店に連れていかれた。今回の突然のハプニングと、それに対する謝罪と感謝の言葉をもらった。
結局、スカーブルズが紛れ込んだ理由は不明で今も調べている最中だそうだ。怪我人は出たが、幸い皆軽い怪我で済んだらしく、今はもう祭りの会場で楽しんでいるそうだ。
そして諸々の話が終わった後におずおずと差し出されたのがこの衣装ってわけだ。改めて自分で見ても「ハハッ……」という乾いた笑いしかでてこない。
こんな辱しめを受けたんだ、せっかくの祭りだし、カウボーイの役得を存分に堪能させてもらおうか……!
* * *
街の広場には人が溢れかえり、賑やかな陽気に包まれていた。ジャカジャカとカントリーミュージック風な音楽が聞こえ、人々の笑い声とうまそうな匂い。こんな格好をしていなければもっと楽しめただろうなぁ……
「フフッ!凄い活気ですわね!」
「みんな、楽しそう」
「ワタクシたちも楽しみましょうね、ラヴィさん!」
「うん」
俺の目の前では、数歩先をベルとラヴィが楽しそうに歩いている。ずらりと並ぶ料理の屋台一つ一つに目を輝かせながら。……いや、別にそれは構わない。構わないのだが――
「おい」
「……?どうしましたか、マヒルさん」
「もうちょっと近くに来たらどうなんだ?」
「……えぇ?すみません、ちょっと賑やかでよく聞こえませんでしたわ!」
「……うん、ごめん」
こいつら、露骨に距離を取ってやがる……!なんだ、俺と一緒にいるのが恥ずかしいってか!?仲間だろ、パーティーだろ!?
……いいだろう、落ちる時は一緒に落ちようじゃないか。俺たち、パーティーだからな。
俺はニヤリと笑い、深く息を吸い込んだ。
「今年のカウボーイと、その仲間のベルとラヴィが通りまぁぁーーーす!!!」
「「なっ……!!」」
俺の声に周りの人は大盛り上がりで歓声を上げる。「へぇい、カウボーイ!」「坊主、小せぇのによく倒したな!」「似合ってるぞーー!!」「カウガールも可愛いぞ!」
あぁ、ものすごく恥ずかしい。唇がプルプル震えるのも分かるし、膝もガクガクだ。でも、そんなことよりこの二人に天罰を与えられたことのほうが実に爽快だ……!
「ま、マヒルさん……よくも……」
「拙者、帰りたい……」
二人は顔を真っ赤にして、うっすらと涙まで浮かべている。うん、俺を笑い者にして自分たちだけ祭りを堪能しようだなんて、このカウボーイ様が許さんぜ!
「まあまあ、まだ祭りは始まったばかりじゃないか。最後まで、じっくりねっとり楽しもうぜ……?」
俺の言葉についに観念したのか、ベルとラヴィは俺の両隣でずるずると歩き出す。
俺の羞恥心は既に死んだ。後はただ楽しむだけ。
さあ、祭りの始まりだ!!!




