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麻痺無双!~麻痺スキル縛りで異世界最強!?~  作者: スギセン
4章

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72話 ケモノとケモノ

 牛追い祭り。みんなが楽しみにしていたはずのこの祭りは、二体の荒ぶる猛牛によって終わりを告げた。そして俺たちの目の前には、そいつらが揃ってゴッ、ゴッ、っと地面を蹴り鳴らしている。


「よ、よし……とりあえず、まとめて麻痺らせれば逃げられるか……?」

「マヒルさん、任せました……!ワタクシはラヴィを――え?」


 ベルが不意に言葉を詰まらせた。俺はウシたちから目を離さないまま尋ねる。


「なんだ、どうしたベル」

「ラヴィの体が……凄く熱くて……いえ、それだけじゃありません、なんだか様子が変ですわ!」


 ――グルルルル……


 地を這うような唸り声が響く。

 その声の発生源は――ラヴィだった。


「グルル……」


 ラヴィは肩で大きく息をしながら立ち上がると、ギリギリと歯を食い縛り、瞳孔を細めた。

 一歩、また一歩とウシへ近づくその姿は、まるで獲物を狙う肉食獣。


「おい、ラヴィ、大丈夫か!? おい、落ち着け――」


 制止の声も届かず、俺の手を荒々しく振り払う。

 そのまま駆け出し――


「グルルラアァァァッ!!!」

「ヴオォォオッッ!!!」


 猛牛とラヴィがケモノのようにぶつかり合った。

 荒々しい突進を真正面から受け止め、角をすり抜け、爪を立て、銀閃のように斬り裂く。

 正確でしなやかな動きは美しい。だが、それは俺の知るラヴィじゃない。

 血に飢えた銀狼そのものだった。


「……いつもの、ラヴィさんじゃありませんわ……」

「あ、あぁ……どうしよう、止めに入ったほうがいいのか……?」


「いや、止めといたほうがいいぜ」


 突然背後から声をかけられ、思わず肩が跳ねる。

 振り返ると、民家の屋根には、白い毛皮に覆われヤギの角とウサギの耳を持つ男――ハルヴァンがいた。


「お、お前は……ハルヴァン!どうしてここに……いや、それよりも止めといたほうがいいってのは……」


 俺がそう言うと、ハルヴァンはヒョイっと屋根から飛び降り、音もなく地面に降り立った。


「お、お前は……ハルヴァン!?」

「よう、麻痺使い。止めるな、あれは暴走してる。近づけば見境なく襲われるぞ」


 暴走――。

 さっき俺の手を振り払ったのも、そのせいか。

 あれだけ強いラヴィが襲いかかってきたら正直勝てる気がしない。だが――


「でも……二対一じゃ危険だろ!? それにラヴィは頭を打って――」

「ほう。だったら、見てみなよ」


 視線の先、そこには二体のウシの亡骸の上で、恍惚の表情を浮かべて立ち尽くすラヴィがいた。その目はやがてゆっくりと俺たちを捉える。


「げぇっ……!」

「ほぅれ、来るぞ」


 俺は咄嗟に左手を構える――と同時にラヴィが駆け出した!そしてすかさず【麻痺銃(パライ・ガン)】を撃ち込む!

 麻痺の弾が右足に命中し、ラヴィは体勢を崩してそのまま転倒――せずに、空中でぐるりと回転して体勢を立て直すと、地面を駆って四足、いや三足の姿勢で迫ってくる……!


「ギャウ、ギャウゥッッ!!」

「うわ、うおぉぉぉ【パライズ】ぅぅぅ!!!」


 俺の右手から稲妻エフェクトが炸裂。

 ラヴィの体が一瞬ビクッと硬直し、直後――


「ギギャギャギャギャギャギャ……!」


 ブルブルブルと震え出す。

 拘束、完了だ。


「はぁ、ふぅ、はぁ……」

「……ほう、すげぇもんだな、麻痺ってのは」


 ハルヴァンは顎をさすり、感心したように呟く。

 だが俺は息を荒げながら問い詰めた。


「はぁ……そりゃ、どうも……それで、ラヴィはどうしたらいいんですか?」

「ん、どうって?」

「いや、まさか暴走したまんまじゃないですよね?」

「ああ、そういうことなら、発散しきったら勝手に収まるだろうよ」

「え、発散って、それまでずっとこんな感じなんですか!?」

「そ、そんな……きっと怪我してますのに……!」


 俺たちの言葉に、ハルヴァンはニヤリと笑う。


「それなら、俺がそのお嬢ちゃんの相手をしてやろう」

「え、あなたが……?」

「おお。なんだ、心配か?」

「いえ、そう言うわけでは……」


 正直、ハルヴァンの身を案じる気持ちは多少あった。でも、ゴブリンを一蹴し、ホブゴブリンも玩具のように相手した男だ。実力者であることに間違いはないだろう。


「……すみません、お願いします」

「おうっ。お前たちはちょっと下がってろよ」


 ハルヴァンはそう言うと、ぐぅっと腕を伸ばし、ぽーんぽーんとその場で跳躍を始めた。

 そして、麻痺のとけたラヴィは「グルルル」と言いながらゆっくりと立ち上がる。

 ケモノ同士の戦いが、再び始まろうとしていた。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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次回もよろしくお願いしますm(_ _)m

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