69話 決起集会
順風満帆な冒険者ライフを送る俺たち、パライジング・グレイス。
全員がDランクの冒険者となり、パーティーランクも一つ上がってEとなった。
装備も一新、最近はDランクのクエストも難なくこなして、安定した収入も得られるようになってきた。
だけど、俺が目指す場所はまだまだ先――冒険者としてのトップだ!その為にも、俺たちは"あること"をする必要があった。
それは――
「おい、ベル!ラヴィ!」
「なんですの?」
「ん?」
「今夜、我々パライジング・グレイスの"決起集会"を行う……!」
「決起……集会?」
二人とも首を傾げる。え、これ伝わんない?もしかしてこの世界には無い言葉?
「つまりだな、決意を新たに、これから頑張ろうぜー!っていう会で……」
「要するに飲み会ってことですの!?」
ベルの目がキラキラ光る。いや違う、いやまあ近いけど!
「いや、飲み会じゃなくて、決起――」
「飲み会、やりたい」
ラヴィまでこっち側か。お前ら……結局そうなるのか……!
「……わかったよ!飲み会やります!イエーイ!」
「イエーイですわ!」
「……いぇー」
* * *
こうして俺たちは決起集会もとい、飲み会をすることとなった。場所は、いつもの格安酒場「銀の猪」である。
「でも、どうしてまた飲み会なんですの?わりと頻繁にしてますのに」
串焼きを頬張りながらベルが問う。
「いや、俺たちがパライジング・グレイスとして対抗戦を始めてから、ちゃんとしたお祝いとかしてなかっただろ?」
「まあ、ずっと特訓やら依頼やらでしたものね」
「クエスト、頑張った」
「そうそう。だから改めてこれからの方針を話そうと思ってさ」
俺はエールをぐいっと飲み干し、ジョッキをテーブルに置いた。
「俺は、麻痺の力で冒険者のトップを目指す。冒険者ランクも、パーティーランクもだ」
「…………えっ!?」
ベルが串焼きを落とす。
「ちょ、トップって……一番ってことですの?」
「ああ」
「数多いる冒険者の中で?」
「もちろん」
「そ、そんな無茶ですわ!」
ベルの瞳が揺れる。動揺と、不安と……少しの恐れ。
「ベル、お前は何を目指してる? 俺はせっかくお前と一緒に冒険者になって、ラヴィも仲間になってくれて……できるなら、この三人でトップを目指したい」
「でも……」
ラヴィがちょんちょんとベルの肩をつつく。
「拙者は、せっかくなら、みんなで頑張りたい」
「……ラヴィさん。でも、ワタクシはそんな、一番なんてとても……」
ベルの弱音。珍しい姿だ。過去のトラウマか、はたまたコンプレックスか。でも俺は、逆に心の底から思う。
「なあベル。俺は強制なんてしない。ただ……麻痺スキルしかなかった俺に、仲間ができた。だったら、この三人で夢を見たいんだ。俺は、このメンバーじゃないとダメだって思ってる」
「……マヒルさん……」
ベルの瞳に小さな光が戻る。
「パーティーってのは、お互いの欠点を補って、長所を高め合うもんだろ? お前の魔法は癖だらけだけどさ――俺は、そういうところも痺れると思うぜ!」
「……! ふふっ、さすが普段から麻痺麻痺言うだけあって、変なこと言いますわね」
「おい、どういう意味だそれは」
ベルが笑い、ノールックで串焼きを掴む。ああ、これだ。いつもの調子に戻ったな。
「とにかく俺は、この力も、お前たち仲間も信じてる。今すぐ結果を出すわけじゃない。気長に、夢を見ながらついてきてくれ」
自分で言っててちょっと照れくさいけど……まあいいか。俺は空ジョッキを掲げた。
「よし!夜はこれからだ!飲むぞー!」
「飲むぞー!ですわ!」
「……ぞー」
追加の酒と料理を頼み、俺たちは笑い合った。
決意も新たに――俺たちパーティーは、また一歩前へ進んでいく。
ああ、この後二人は調子にのって酒を飲みぐでんぐでんになった。俺が腰を痛めながら運んだのは言うまでもない。いつも通りの、そんな夜だった。
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