64話 マヒルと麻痺と行く末と
無事、パーティー対抗戦を初勝利で終えた俺たちは、まさに凱旋気分でギルドへと戻った。
……とはいえ、無名のFランクによる無観客試合。拍手もお祝いもなく、ギルドはいつも通りの空気を漂わせていた。
そんな中、カウンターの奥からセラ姐が出てきて、ちょいちょいっと手招きしてきた。
「どうしましたか?」
「観たわよ、対抗戦」
「えぇ!? 俺たちの勇姿を観てくれてたんですか!」
「シーッ、声が大きい。……ったく、あなた相変わらず麻痺ばっか使うのね」
セラ姐は頭を抱え、小さくため息をつく。
「まあ、俺の生き様ですから!」
「どこに誇り持ってるんですかあなたは……」
ドンッと胸を張る俺に対して、はぁ、と二度目のため息。だがその横顔には、わずかな苦笑も混じっていた。
「いいですか、麻痺戦術は確かに強力。でも異質すぎて、もう目立ち始めてるんですよ」
「異質……」
「これから名前が知れて、よからぬトラブルに巻き込まれるかもしれないですし」
「それって……心配してくれてるんですか?」
俺が茶化すと、ペシッと頭を叩かれる。
「バカ言ってないで自覚を持ちなさい…… あなたを快く思ってない冒険者はもう何人もいるんだから」
そう言い残して去っていったセラ姐。
俺は頭をかきながら、心配そうにこちらを見るベルの視線に気づく。
(……俺だけならともかく、ベルやラヴィに迷惑をかけるわけにはいかないな)
そう思い直し、心のどこかで「力をつけなければ」と誓った。自分の身と……できれば仲間の身を守れるくらいのな。
* * *
ここからは俺の成長物語だ。
俺は日課のクエストをこなしつつ、日夜特訓に明け暮れていた。麻痺への理解と、愛を深めるためだ。
結論――やっぱり麻痺こそが全てを解決する!二人とも快く了承してくれて、俺の特訓に毎回着いてきてもらっている。良いやつらだよ……!
以前習得した新スキル【麻痺銃】の練習も本格化。【パライズ】含め、俺のスキルにはオート照準機能がついているらしく、なんとなくでも当たっていた。
しかし、今以上のステージに行く為には、より性格で確実な麻痺が必要になるだろう。となかく、射撃訓練だ……!
ぽよぽよ動くスライムで試し撃ちし――二十メートル程離れた場所から当てられるようになった。気分は凄腕ガンマン。
跳ね回るホーンラビット――偏差射撃……つまり相手の動きを予測して、狙い撃ちできるようになった。FPSシューティングの才能アリだ!
最後は巨大なワイルドホーン――これまでの練習を踏まえた実戦テスト!発動タイミング、命中までの時間、ヒット部位……すべて徹底的に検証した。
その成果を対抗戦で披露すると――まあ、毎度セラ姐が頭を抱えるわけだが、結果は全戦全勝!着実に麻痺を自分のものにできてる気がするぞ!
そうして五勝目を終えたところで、セラ姐からお呼びがかかった。
「あなたねえ……注意しろって言ったのに麻痺の頻度上がってるの、正気?」
「まあ、自覚はあります」
「開き直らないでください……」
眉間に皺を寄せるセラ姐。ほんと、最近はこんな顔ばっかり見てる気がする。
「でもまあ……対抗戦五勝、おめでとうございます」
「えっ、あ、ありがとうございます!」
「条件を満たしたので、あなたたちのパーティーはEランクパーティーに昇格です」
「えぇっ!?」
俺、ベル、ラヴィの三人は思わず顔を見合わせた。
「すごいですわ! ワタクシたち、順調にスターダムを駆け上がっていますわ!」
「……おめでとう」
ベルは目を輝かせ、ラヴィは無表情のままパチパチと拍手。
「とはいえ、まだまだルーキー帯。調子に乗らず頑張りなさい。そして……私の忠告、忘れないように」
俺をじっと見つめ、語気を強めるセラ姐。
「……善処します」
麻痺戦法が嫌われるのは分かる。だが、俺たちが力をつけているのもまた事実。俺はこの道を……麻痺道を手放す気はない。
このまま三人で――いや、俺たちのパーティーで、痺れるようなビクトリーロードをぶっちぎってやるぜッ!!
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