62話 パライジング・グレイス、イン闘技場
対抗戦。それは、冒険者のパーティー同士が己の力を、仲間の力を信じて全てをぶつけ合い、輝かしい勝利を掴むものだ。
――と、ベルが熱弁していた。
いやいや、あんた何者?絶対どっかの実況席から転職してきただろ。
俺たちのパーティー名がパライジング・グレイスに決まり、いよいよギルド奥、闘技場へと続く大扉を開く。
そこには、むせ返るような熱狂が――!
「あれ?」
見渡す限り、ただの広場に空席の会場。観客ゼロ。まるで大晦日の商店街。
あれ?俺たち、ドッキリ番組に出てるのか?
「観衆は……?」
「はぁ?何を言ってますの?たかがFランクパーティーの試合を観る酔狂なんて、そうそういませんわよ
」
「……俺たちの努力、誰も見てないの?」
「記録係だけはいますわ。世界一冷めたファンですけれど」
ベルがさらっと言い放つ。え、そうなの?……いや、確かに俺もプロ試合は観るけど、地方の草野球なんて見に行かないもんな。
「なんか、ちょっと肩透かし感あるけどまあいいか」
「フフッ、ワタクシちちは、ここから這い上がっていくわけですからね!」
「全員、倒す」
みなのやる気もマックスというところだろうか。正直俺も、武者震いがしてきたぜ……!
ヴゥンッ――
突然、闘技場の巨大スクリーンに照明が灯る。
ーーー
Fランク対抗戦
パライジング・グレイス
VS
チームオブファイター
ーーー
おお、あれが今回の相手というわけか。どうやら、公平を期す為に対戦相手については試合が始まるまで分からないという仕組みになっているようだ。
……にしても、ファイターねぇ。名前だけで考えるなら、ゴリっゴリの近接職パーティーって感じだろうが……まあ、誰が来ようと麻痺らせるだけだ!
「ベル、ラヴィ、緊張してるか?」
「べ、別にワタクシ、緊張なんてしてな、なでつっ」
「拙者も」
ベルは明らかに緊張しているようだが、その目はどこか闘志に燃えているように見える。気のせいかもしれないが。ラヴィは……いつも通りだな!
しばらく待っていると、ヴーーーっという音が響き視界が真っ暗になり――次の瞬間、辺りは草原へと変わった。
「すげぇ……!これが対抗戦のフィールドか……!」
「……走り回れそう」
「うん、走っちゃダメだぞ、ラヴィ。"待て"だ」
さて、フィールドが完成したということは同時に、対抗戦のスタートを意味する。
相手との位置取りや、地形を活用した戦法など色々あるが……とにかく最初はトライアンドエラー、当たって砕けろだ!
「よし、二人とも、行くぞっ!」
* * *
対抗戦は、三対三のチーム戦で行われる。パーティーとての力を見るとのことで、三人の内二人が戦闘不能になった時点でそのパーティーの負けが確定する。
この闘技場はVR空間みたいなもので、傷を負っても痛みはないし、対抗戦後はどんな状態であっても問答無用で復活だ。
――とはいえ、仮想でも死を体感するというのはゾッとしない。なるべく無傷で終えたいものだが……
「ラヴィ、何か感じるか?」
「ううん、特には」
「そうか……これ、意外と緊張するな」
「フフッ、この対人戦ならではのピリついた空気感。対抗戦でしか味わえないものがありますわね……」
おお、一人だけ明らかに温度感が違うな。頼むから、空回りしてくれるなよ……?
とはいえ、独特の緊張感というか、この空気はクセになりそうだけど。
対抗戦開始から数分経過し、ようやく闘技場に動きがあった。俺たちは広々とした草原周り、木立に身を隠すようにして移動していた。いや、普通そうするだろう?誰だって自分たちに有利な状況を作りたいハズなんだから。
でも、そいつらは違った。草原のど真ん中、遮蔽物も何もない道を悠々と歩いている。まるで「撃ってください」と言わんばかりに。
……恐らくこれが、この世界では普通のことなのかもしれない。状態異常、ましてや麻痺なんか使うのは外道邪道と評されるものだからな。
「まあ、俺に言わせりゃ三流よ」
勝負は、勝つか負けるか。最後に立ってりゃそれでいい。俺は静かにスタンブレイカーを展開させると、やつら目掛けて照準を合わせた――。
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