61話 俺たちの旗揚げ
初のダンジョンチャレンジから無事に生還した俺たちは、身体の疲れを癒すようにして数日を過ごした。ダンジョンでの疲労は相当なもので、帰ったその日は泥のように眠りこけたものだ。
あの日、魔結晶と素材の納品に行くと俺たちのまわりだけ妙に人が避け、受付嬢もシワを寄せて怪訝な顔をしていたっけ。臭くてごめん。
そんなこんなで、体と心に傷を負った俺たちだったが遂に念願のアレが決まったとの連絡を受けた。
そう、パーティー同士のぶつかり合い、対抗戦だ……!
しかも今日……!え、待って何、今日だって?
俺たち今日、死ぬかもしらん。
* * *
「――と、言うわけで……今日の十四時から対抗戦やることに決まったから」
「な、ちょっと急すぎませんこと!?」
「頑張る」
まあ、ベルの言うことは当然分かる。だって、なんとなくクエスト見に行ったら、そう言われたんだもん。今日の午後からやりますよって。俺は悪くねぇ。
「ベル……その気持ちは分かる。すごく分かる。いきなりすぎるからな。 ただ、逆に良かったかもしれないぞ?」
「……良かったって、何がですの?」
「事前に分かってて、あーだこーだ考えててもしょうがない。まずやってみるってのも大事だろ?」
「……絶対に準備とか作戦とか練る時間があったほうがいいに決まってますわ」
ぶすーっと、ふてくされてしまうベル。うん、分かる。俺も全くその通りだと思う。でも、人生諦めが必要な時だってある。
「でも、決まった以上は仕方がない! それとも、棄権するか?」
「……!ふん、誰だか知りませんが、蹴散らしてさしあげますわ!ねぇ、ラヴィ?」
「……切り刻む」
怖ぇって。
何はともあれ、士気は上々ってとこかな。
異世界に来て初めての対人戦闘だ。俺の麻痺がどこまで通用するのか。ベルの魔法は……まあ、置いとくとして、主戦力のラヴィに期待したいところだな。
何にしろ、燃えてきたぜ!!!
* * *
俺たちは十三時過ぎにギルドへ向かい、対抗戦の手続きを済ませていた。あと数十分で俺たちは戦いの場に繰り出すんだ……!
そわそわとギルド内をうろついていると、セラ姐ことクールな受付のお姉さんが慌ててやってきた。
「ま、マヒルさん!ちょっと、どうなってるんですか!?」
「うぇ、"どう"とはどういうことですか?」
「名前ですよ、名前!」
「名前……?」
俺の名前は、マヒル=パライザー。うん、いつも通り格好いい名前だ。セラ姐は何を慌てているんだろうか。
名前……名前ねぇ……
刹那、俺の脳裏に稲妻がほとばしる。
「あっ……パーティー名?」
「ッッそうですよ!!週のはじめには教えてくださいって言いましたよね!?このままだと、チーム"仮登録"として出場することになりますよ!」
「やっべえじゃん」
サッと血の気が引くのを感じ、背筋に冷たいものが走った。いやいや、せっかくの対人戦っていうのこんなダサいデビューは嫌じゃ!!
「ベルぅぅぅ!ラヴィぃぃぃ!!緊急事態っ!!」
不思議そうな顔をしながら、のほほんと歩くベル。そんな場合じゃないんだって……!
「パーティー名!忘れてたっ……!」
「「あっ……」」
ベルとラヴィの声が見事にハモる。さあ、ここから急ピッチで決めなければ。
「ベル、お、お前は何かないか?こう、良い感じの
語呂もナイスなやつ!」
「えーと、えーと、"ロイヤルストレートフラッシュ"!どうですの!?」
「うん、最高の響きだ!却下!ラヴィはどうだ?」
「チーム、武士道」
「ああ、大事だな、武士道精神!でもそれはまた今度!」
「ちょっとぉ!?そういうマヒルさんは何か案はあるんですか!?」
「え!?え、俺は~、その、麻痺……麻痺ぃ……」
「……まひまひ?」
「何ですのそれ、却下ですわ!」
議論は堂々巡りだった。ベルはポーカーの役を見事に言い当て、ラヴィは相変わらず武士道一点張り。いや、武士道に合わせる言葉なんて見つからねぇよ……!
「う~む……ラヴィ、何か拘りとかがあるのか?武士道って言葉を絶対に入れたいとか?」
「いや、全然。格好いいかな、と思っただけ」
「えっ……!?」
無いのかよ……!ありがとう、次に進めるわ!
「ラヴィは、何かこう、高貴な響きが欲しいんだよな?ロイヤルとかゴージャスみたいな綺麗な響きが」
「ま、まあ……そうですわね。それっぽい響きが素敵ですわ」
よし、マヒルよ、頭をフル稼動させろ。みんなの想いを一つに、みんなの想いを一つに……!
「あの」
ぶつぶつと呟く俺に、ベルがそっと声をかけてきた。その顔は、妙に穏やかで優しさに溢れている。
「…マヒルさん。ワタクシはあなたが引っ張ってくれなければ冒険者にもなっていませんでした。あなたあってのパーティーなので、ワタクシはあなたの意見を尊重しますわよ」
「ベル……」
「でも、あまりにもおかしなのは即却下ですからね!」
フフッと優しい微笑みを俺に向けるベル。まるで固まった頭がほぐされていくような感覚に満たされた。麻痺っぽく、高貴で、格好いい……それなら、俺が考える最強のパーティー名は――
「なあ、みんな。〔パライジング・グレイス〕ってのはどうかな……?」
「パライジング・グレイス……?」
「ああ。麻痺のパライズと、格好いい響きのライジング、最後は気品ある感じで、グレイスだ」
「……ふぅん……まあ、なかなか、じゃないですの?」
「……ライジング、格好いい」
二人とも、どこか嬉しそうにウンウンと頷く。決まりだ。今日、俺たちはパライジング・グレイスとして新たな一歩を踏み出すんだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
感想、ブクマ等いただけると励みになります。
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m




