60話 沼地大決戦!
「ギョギョギョ~ッ!」
マーマンたちはヌタヌタと泥沼をかき上げて駆けだしてきた!ごつい槍をぶんぶん振り回し、獲物を串刺しにしてやるぞと目をギラつかせている。
「ラヴィ、来るぞ!」
俺は右手でスタンブレイカーを握り直し、【パライズ】を放つべく照準をあわせる。
――とその瞬間。
「お~~~ほっほっほっほっほ!」
透き通るような高笑いが沼地に響き、マーマンたちの動きがビタっと止まった。ベルの【高貴なる咆哮】だ!
「マヒルさん、ラヴィさん。ここはワタクシに任せてくださいまし!ワタクシの新魔法にて、あの程度のやつら蹴散らしてご覧にいれますわ!」
「おお!……信用していいのか?」
一見すると頼もしいベルだが、これまでの実績から「はい、お願いします」と素直に言えないのが現実だ。まあ、好きにやらせてすぐに支援にまわれるようにすればいいか。
「ふふん、よぉく見ておきなさいまし!いつかの倉庫での小さく黒い悪夢に続き、先程の気持ちの悪いサハギンたちの大行進……精神に多大なストレスを受けたワタクシの怒りの魔法を!その名も――【悲痛なる《ヒステリック・》大行進】!!」
次の瞬間、ベルの展開した魔法陣から、いくつもの筒が連結された金属製の丸太のようなものが現れた。……いや、あれって完全にガトリング砲だよな。地球産の銃火器の。ヒステリックとガトリングって絶対に一緒にしちゃいけないやつだよね?
俺があっけにとられていると、銃口に魔力が収縮していく。
「お、おい、ベルそれは――」
ドガガガガガガガガガッッッ!!!!!
ガガガガガガッッ!!!!!
「うわあぁぁぁぁぁ!!!!!」
いきなりガトリングをぶっ放したベル。
魔弾の雨がマーマンの群れを切り裂き、鱗と血飛沫と泥が舞い散る。抵抗する間もなく、彼らは豆腐のように崩れ穴だらけになっていった。数秒前まで威勢よく吠えていたマーマンたちが、次の瞬間には無惨に沈む。まさに蹂躙。
「あふぅ……」
ガトリングを撃ち切ったベルは、その場にぺたんとへたり込んでしまった。
「おい、ベル!大丈夫か?」
「え、えぇ……ただの魔力切れ、ですわ……」
「……おまっ」
頬に泥をつけ、ぐったりと肩を上下させるベル。完全に電池切れのお嬢様。倒せたから良かったものの、次またヒステリーを起こされたらたまったもんじゃない。あの魔法、しばらく使用禁止だな。
「ラヴィー、俺ちょっとベルを介抱してるから素材を――」
俺が言うまでもなく、ラヴィはもくもくとマーマンたちを解体していた。血と泥にまみれながらも一切ためらわず、その手際は神業級。
俺を見ると小さく親指を立て、再びナイフを走らせる。やだかっこいい……
こうして、二回目の挑戦はなんとか成功し、たくさんの魔結晶と素材を持ってダンジョンを後にした。
* * *
「……あんたたち、随分頑張ったんだねぇ。先に帰っちゃおうかと思ったよ」
泥まみれ、全身ぐちょぐちょで帰還した俺たちの姿を見ると、アイヴィさんは小さく鼻を抑えた。え?もしかして俺たちめちゃ臭いんすか?
「サハギンと、馬鹿みたいにでかいカエル、それからマーマン。完全勝利っす」
「なっ、本当に言ってるのかい!?サハギンは倒せたとしても、マーマンはDランク、でかいカエルは恐らく〔ラージペロゴン〕だと思うけど……そいつはCランクだよ!?」
アイヴィさんは信じられないというように俺たちを見る。ふふっ、そこまで言うなら証拠を見せてやろうじゃないか。
「ラヴィ」
「……ん」
俺はアイヴィさんに中身を見せようとして、ラヴィから受け取った大きな袋の口を開いた。
「「臭っっっ!!」」
俺とアイヴィさんの声がハモった。
袋から立ち上る強烈な臭いは、さながら腐魚の沼煮込み。吐き気を催す生臭さに、慌てて袋をきつく閉める。後ろでは、ラヴィが鼻を抑えて涙目になっている。ごめんて。
「あー、とりあえず、倒したってのは信じるわ。うん。だから、もう少し離れて、即座に街に帰るわよ」
鼻を抑えながらアイヴィさんが言う。
何はともあれ、ダンジョンチャレンジは成功だ。うん。
「ところでベル、あの魔法は当分禁止な?」
「え、えぇ!?なんでですの!?ワタクシの最高傑作ですのに!!」
「魔力切れのところを襲われたらおしまいじゃねえか!」
「そ、それはそうかもですが……」
そんなやり取りをしながら、俺たちは泥と臭気まみれで街へと帰還した。
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