59話 沼地の試練に大ピンチ!
俺たちは、再び〔薄汚れた水辺〕というダンジョンに足を踏み入れた。先ほどのサハギンたちの喧騒が嘘のように、静けさと水音が響いていた。
「よし、ここからは慎重に進むぞ。何より、ダンジョンに慣れることが大事だ」
俺の言葉に、二人は無言で頷く。最終的にはボスを倒してダンジョンクリア!といきたいが、さすがにさっきので懲りた。俺たちは辺りを警戒しながら、ゆっくりと足を進めた。
「改めてみると、すごいところですわね」
ベルが小さく呟く。
「すごいって?」
「だって、外は平原で、小さな入り口を通っただけでこんな水辺が広がっているんですもの。明らかに洞窟だったのに……ほら、空までありますわ」
「ああ、それは確かにな。ダンジョンという世界が独立して存在してるんだろうな。そうじゃなきゃ、考えられないしな」
改めて、ダンジョンという異質の存在について想いを馳せながら俺たちは進む。やがて、視界の先に少し大きな池が現れた。心なしか、空気が重く感じる。
「……なにか、いるかも」
ラヴィが耳をぱたぱたと動かし、鋭い目つきで辺りを見渡す。すると、「ちゃぽっ」という音が微かに響いて池に波紋が広がった。俺たちは息を殺して茂みを移動する。
「あれは……サハギンか。ああやって水の中で生活してるんだな」
池の中には、顔を半分だけ覗かしているものや仰向けでプカプカと浮いているものもいた。なんか楽しそうだな、あいつら。
「気持ちの悪いバカンスですわね」
ベルがふいに痛烈な言葉を浴びせたその時――
ザボアッ!!と大きな水柱が上がった。
「な、なんだ!?」
池の中からは、慌てた様子のサハギンが全速力で駆け出してくる。それはそれは綺麗なフォームで。そして一体、俺たちが身を忍ばせている茂みに近付いてきたやつがいた。
「げっ!こっち来るぞ!ラヴィ、迎撃準備だ!」
「了解」
俺はスタンブレイカーを展開し、麻痺を撃つ構えを取る。ラヴィも抜刀し、一体だけの今なら問題なく倒せそうだ。俺は狙いを定め【パライズ】を撃とうとしたその時。
ビシュッ!
ゴムのようなピンク色のなにかがサハギンの体に巻き付き、ものすごい勢いで池まで連れ戻した。サハギンは抵抗する間もなく、池の中へ消えた。
しばらくの静寂の後、水面がボコボコと泡立つ。
「来る!」
ラヴィが鋭く叫ぶ。次の瞬間、派手に水しぶきを撒き散らしながら巨大な何かが池から跳び上がった。
まるで小屋位の大きさがある"それ"は、俺たちの足元に影を下ろす。
「落ちてくるぞ!!」
ズズンッ!地面が揺れた。
咄嗟に回避した俺たちの後ろで泥水を弾きながら現れた“それ”は、まさに悪夢の具現。
赤紫色のヌメヌメとした皮膚は光を反射してぎらつき、両の目玉はギョロリと動き続け、獲物を探していた。
「カ、カエル!? あんなサイズ……ありえませんわ!!」
まさに、巨大なカエルの化け物が姿を現した。頭には無数のトゲを生やし、背中にかけて頑丈そうな甲殻が広がっている。ベルが青ざめ、ラヴィは刀を握り直す。俺の背中も汗が伝っていく。
「き、気持ち悪いですわ!!」
ベルは叫びながら魔導書を展開させる。ラヴィは背を低く構え、攻守一体の距離を保っている。
「くらっとけ!【ポイズン・パライズ】」
俺の手から紫色の稲妻エフェクトが放たれる。しかし、巨大カエルは軽くひと跳び。俺の攻撃をなんなく躱して数メートル先に着地し、そのまま大きく体をかがめた。そしてドウッ!と大地を蹴り飛んだ。地面と平行に進む巨体は、まるで戦車――避けられねぇ!
「【パライズ】!!」
稲妻が直撃し、怪物はビクンッと体を痙攣させる。……だが、止まらない。軌道は反れたが、勢いそのままに突っ込んでくる。そしてそのままドバアァァン、と盛大に泥へダイブした。
轟音、衝撃、泥の飛沫。俺たちは転がされるように吹き飛ばされる。
「ベル!ラヴィ!大丈夫か!?」
「は、はい、ですわ」
「……なんとか」
衝撃で二人とも吹き飛ばされたようだったが、とりあえず無事のようだ。あのカエル、でかいだけあって一発一発が相当重い。長期戦は明らかに不利だ、麻痺ってる今のうちに畳み掛ける!
「【パライズ】!【ポイズン・パライズ】!ベル、攻撃魔法の準備!ラヴィ、俺に続け!」
「分かりましたわ!」
「参る」
俺は追加で麻痺をかけ、追撃の準備をする。息を整える暇もなく、頭が地面にめり込んだままの巨大カエルに向けて駆け出した――次の瞬間。
ヒュドッ!
槍のような何かが俺の足元へ突き刺さり、泥が弾け飛ぶ。
「なっ……!」
恐る恐る目をやると、槍……いや、小さな丸太が深々と突き刺さっていた。
それはサハギンの持っていたものとは比べ物にならないほどゴツくいかつい物だ。
「ギュ、ギョ、ギョギョ!」
沼地の奥からぬらりと現れたのは、二メートル程の大柄な人影が三つ。もちろん人間のはずもなく、全身に緑色の鱗を生やして、おまけに筋骨隆々。サハギンをワンパンで倒せそうな屈強な魚人だ。
「……〔マーマン〕。沼の狩人」
ラヴィが小さく呟いた。マーマンは持っている槍で巨大カエルに手早くトドメをさすと、俺たちを睨んで叫んだ。
「ギョギョ、ギョギョギョギョ~~ッ!!」
「ちくしょう、次から次へと……!」
こうして――沼地の激闘、第二幕が始まった。
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