57話 迷宮管理協会へ!
闘技場はひとまず置いといて……
ダンジョンを知るには、迷宮管理協会へ。
巨大な闘技場の興奮を引きずったまま、俺たちは食堂のテーブルに腰を下ろした。ベルは待ちかねたように身を乗り出す。
「さて、パーティー名ですけれども、まずはみなさんの意見を聞きたいですわ!」
俺は適当に料理を頼み、フンフン鼻息荒いベルをチラリ。「そう言うお前は、何か考えてるのか?」と聞くと、ベルは待ってましたとばかりに咳払いした。
「ワタクシが考えるのは、“エレガンスナイツ”ですわ!まさにワタクシにふさわしい名前……高貴なる騎士たち、とでもいいましょうか……!」
キラキラと胸を張るベルだが、料理が運ばれるや否や即座に手を伸ばし、「いただきますわ!」と口に運ぶ。俺は心の中でツッコミを入れた。
(どこが高貴だよ、どこが)
ラヴィにも聞いてみる。
「ラヴィ、お前はなにかあるか?」
小さく唇を噛んだラヴィは、ぽつりと呟いた。
「……”チーム武士道”」
「お、おう……シンプルでいいな。なあ、ベル?」
ベルはまだ口いっぱいに料理を放り込み、返事になっていない。さすが食への本気度が違う。
「おい、”チーム食いしん坊”のリーダーさん。俺としては、麻痺要素を取り入れたいんだが、コンセプトがバラバラすぎないか?」
ベルは料理を飲み込むや否や箸を止め、真剣な目で答えた。
「誰が食いしん坊ですの!……まあ、コンセプトはすり寄せていけばいいのですわ。全員の想いをくみ取ってこそ、パーティー名に意味が出てくるのですわ!」
「おお……いつになくまともなことを言ってるな」
「ふふん、当然ですわ!全員の想いを汲み取った最強のパーティー名、“ロイヤル麻痺武士ナイツ”をここに宣言しますわ!」
俺は肩をすくめ、ラヴィに向かって笑った。
「……よし、ラヴィ、食おう食おう」
ラヴィは無言で箸を進める。ベルはそれを見て抗議の声を上げる。
「ちょおっ!? なんで無視するんですの!?」
結局、パーティー名はその場で決まらず、俺たちは食堂をあとにした。目指すは〔迷宮管理協会〕。セラ姐によれば、地域一帯の迷宮に関する情報を得るにはここが一番らしい。
教えられた場所に着くと、民家と大差ない小さな建物がポツンと建っている。唯一違うのは、かすれた文字で「迷宮管理協会アルクーン支部」と書かれていることだけだ。
「すいませーん」
恐る恐る扉を開けると、だぼだぼの白衣を着た紫色の髪の女性が現れた。年齢は三十代くらいか。目の下にはくまがあり、徹夜明けのような疲労感が漂う。
「ん? だれ?」
「ギルドのセラーナさんの勧めで、迷宮のことを聞きに来ました」
女性は眉をひそめ、ぶつぶつ呟く。
「ちっ、セラのやつ、私に仕事押し付けやがって……」
感じ悪ぅー、帰ろうかなと思ったが、彼女が手を振って招き入れる。
「ほら、さっさと入んな」
中は書類が山積みで、ごちゃごちゃしている。彼女は机に突っ伏すように座り、言った。
「私はアイヴィ。ここ、迷宮管理協会アルクーン支部の支部長……まあ、一人しかいないけどね。よろしく」
「よろしくお願いします! 俺はマヒル、こっちはベルとラヴィです」
「ふうん……あんたら迷宮は初めてなんだよね? Dランクに上がったばっかのぺーぺーのルーキーちゃんってわけだ」
「ええ、まあそうですね。それで今回、迷宮に挑戦したいんですけど」
アイヴィは机から顔を上げ、にやりと笑う。
「死ぬよ」
その一言に、俺の背筋がぞくりとした。ここはゲームじゃない。異世界の現実、そして迷宮の過酷さを、俺たちはまだ知らなかったんだ――
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