56話 闘技場、それは漢の浪漫……!
受付嬢に案内され、ギルドの奥の巨大扉をくぐった一向。
そこにあるものとは――
大扉をくぐった瞬間、目の前に広がったのは――常識を粉々に叩き割る光景だった。
そこは、野球場のスタジアムを数倍に引き伸ばしたような巨大な空間。四方の観客席はどこまでも積み上がり、頭上には浮かぶように配置された巨大スクリーン……いや、正確には球体のスクリーンがぶら下がっている。
光の粒子をまき散らしながら回転しており、近未来感がすごい。VR?AR?……いや、これはもう、現実を超えた“異世界技術”だろう。
「……あの、セラーナさん」
「はい?」
「これ、どう見てもギルドの建物よりでかいですよね?」
ギルドの外観は、せいぜい大きめの郵便局くらいのサイズだったはずだ。なのに今、俺たちが立っているこの闘技場は、桁違いの広さを誇っている。
セラ姐は肩を竦め、簡単に答えた。
「この場所は異空間のようなものです。先ほどの扉が転移ポータルになっていて、どの街からでも同じこの闘技場へと繋がるんですよ」
「はぁ……さすが異世界。チートの大安売りだな」
俺の現代知識で言うなら……サーバー共通ロビーってやつか。さすがに規模が違いすぎて笑うしかないけど。
「わぁ……ここが……!」
隣でベルが小さな声を上げ、きらきらとした瞳で辺りを見渡す。どうやら観光気分らしい。
「なんだか、シンプル」
ラヴィは腕を組み、あっさりした感想を漏らす。確かに、広いけど……殺風景と言えば殺風景だな。
「今はそうですね」
セラ姐が補足するように微笑む。
「実際の対抗戦が始まると、ランダムで地形が形成されるようになっています」
「なるほど……ランダムマップ生成ってわけか。運営がんばってんな」
「それに、この闘技場内で負った傷は、対抗戦終了と共に治ります。例え命を落としてもね」
「……今さらっと怖いこと言いませんでした?」
俺は思わず声を上げた。いやいや、軽く言うけど死ぬんだよな? 一度死んでも治るからって、ゲームじゃあるまいし――
(いや、これもう完全にゲームか……!)
さすが異世界。VRどころか、死すらリセット対象にしてくるとは。
「あなたたちは、この場所からパーティーランクFとしてスタートします。他のパーティーと戦い、より上を目指すことも可能です。まあ、実力次第ですが」
セラ姐が言い放った瞬間、俺の胸はドキリと高鳴った。
「PvP……つまり対人戦ってわけか。ふふっ……正直、得意分野です」
俺は胸を張った。なにを隠そう、数年間の引きこもり生活で、対人ゲーの世界ランカーに登り詰めたこともある。たとえ異世界といえど、俺の戦闘センスは侮れない。
「……今週のエントリーはすでに締め切られています。早ければ来週のうちにデビューできると思いますが、どうしますか?」
セラ姐が確認する。俺はすぐに仲間へ視線を向けた。
「みんなはどうだ?」
「ワタクシは正直、自信ないですわ……。マヒルさんがどうしても、というのなら――」
ベルが弱気に口を開いた瞬間、俺は彼女の腕をガシッと掴んでいた。
「どうしてもです……!」
「ちょ、わ、分かりましたから! 離してくださいまし!」
顔を真っ赤にして暴れるベル。うん、いい反応だ。横でラヴィは「求む、強者」とだけ呟き、腕をぐっと力強く振った。やる気だけは十分らしい。
「では、正式に参加登録いたしますね。……そういえば、パーティー名はどうしましょうか?」
「パーティー名?」
「ええ。登録には必ず必要ですし、アナウンスやスクリーン表示でも使われます」
「それじゃあ、麻痺――」
俺が言いかけた瞬間――
「おおっと手がぁぁですわ!」
バシッ!
鈍い音と共に俺の頭に衝撃が走る。振り向けばベルが手を振り下ろした直後だった。
「……何するんだよ!!」
「こちらのセリフですわ!性懲りもなく“麻痺なんとか”って名前をつけるつもりじゃありませんこと!?」
「いや、そんなこと……あるけど」
素直に白状した俺に、ベルは額に青筋を立てる。
「いいですか?パーティー名というのは非常に重要なんです!コールされた時の会場の盛り上がりを想像して、自分たちの闘志を高めるものでなければなりません!例えば、高身長メンバーだけで編成された“チーム・タイタニス”とか、炎魔法の使い手集団“紅蓮”とか――!」
ベルの鼻息は荒く、早口でまくし立てる。俺は慌てて手を振った。
「ちょちょちょ、待てって!落ち着けって!分かったから!」
「……仮登録しておきますから、来週の始めには決めておいてくださいね」
セラ姐が微笑みながらまとめに入り、俺たちの登録手続きはひとまず終了した。
こうして俺たちは闘技場を後にし――「パーティー名を考える」という名目で、近くの食堂へ向かうことになった。その間、ベルは一人ぶつぶつと「うーん、いや、でも」などと言っていた。さっきから、一人だけ熱量が違うんだが。怖いんだが。
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