54話 勝利の代償と闇夜の襲撃
ミノタウロスとの激闘を終えた一向。
さて、今夜は……?
ついに――あのバケモノを倒したんだ。
全身を走る筋肉痛が、それを否が応でも実感させる。肩も足も腕も、まるで鉄槌で殴られたみたいに重い。呼吸をするだけで痛いとか、これも勝利の代償ってやつか。
「悪ぃ、ちょっと休憩させて……」
木陰に腰を下ろすと、どっと汗が噴き出してきた。ラヴィに素材回収をお願いし、俺はベルに回復を頼む。するとベルが「しょうがありませんわね」と言いながら、手をかざした。
「【ヤヤヒール】!」
淡い光が俺を包み、ほんの少しだが痛みが和らいだ……気がする。ありがたいけど“やや”しか回復しないのがベルらしい。
「助かった……いや、マジで」
俺はだらんと寝そべりながら、無精に礼を言う。
「ふふっ、感謝はちゃんと行動で示してくださいまし」
ベルの冗談に、俺は苦笑いで返すしかなかった。
しばらくして、ラヴィが戻ってきた。両腕に抱えきれないほどの戦利品を持って。
「ミノタウロスの魔結晶。それと……角、二本。あと毛皮も」
ラヴィの顔は、満足感に満ちていた。普段は無表情なのに、今だけはちょっとだけ誇らしげだ。
「……ラヴィ、また随分と頑張ったな」
俺が言うと、ラヴィはふんすと鼻を鳴らす。
「あと、もう一個」
そう言って素材を置き、またミノタウロスの元へと走っていった。
そして数分後――。
ずり、ずり……
ラヴィが引きずってきたのは、ミノタウロスの戦斧だった。俺の身長ぐらいある、バカみたいにデカい代物だ。
「えぇ!? ら、ラヴィさん!そんなもの、どうするつもりですの!?」
ベルが目を丸くする。
「勝者の、特権」
涼しい顔で言い放つラヴィ。俺は思わず心の中でつぶやく。
(案外、がめついんだな……)
* * *
重い荷物と疲れた身体を引きずりながら、俺たちはようやく街へたどり着いた。
ギルドに到着した瞬間、ざわめきが広がる。冒険者たちがわらわらと集まり、まるでお祭り騒ぎだ。
「おい、帰ってきたぞ!」「本当にミノタウロスを……!?」「ほら、麻痺使いとかいう邪道の……」
――おい、今何か言ったやつ、出てこい。
カウンターでクエストの報告をしていると、セラ姐が駆け寄ってきた。普段はクールな彼女が、珍しく目を潤ませている。
「あなたたち……本当によくやってくれたわね。おかげで、助かりました」
深々と頭を下げるセラ姐。俺は慌てて手を振った。
「いえいえ!冒険者として当然のことをしたまでです! なあ?」
振り返ると、ベルとラヴィも力強く頷いてくれた。
「ふふっ。あなたたち、本当に変わってる人たちね……でも、ありがとう」
もう一度頭を下げ、セラ姐は奥へと戻っていった。
そして報酬。緊急依頼ということもあり、なんと十万ゴルド。桁を見間違えたかと思った。
「な、な、なんと……十万!? は、破格ですわ!」
ベルが目を輝かせる。俺も正直、心臓が跳ねた。
「ね、ね、どうします!? 今夜はパーティーしちゃいますの!?」
ベルの提案に、俺は即答する。
「俺は……体がガタガタだから、寝る!!! 二人は楽しんできてくれ」
「あぁ、そうでしたわね……では、三人でのパーティーはまた改めて、ですわ! 今日はラヴィさんと女子会ですわ~!」
ベルがラヴィの腕をつかむ。ラヴィは相変わらずの無表情で一言。
「お肉、食べたい。牛とか」
……完全に狙ってるな。
ベルは一旦準備に戻り、ラヴィはあのくそ重たい戦斧と毛皮を持ってどこかへ消えてしまった。あれ見た瞬間、みんなどよめいてたぞ。そして、心身ともにくったくたの俺は宿へと向かう。
冷たいシャワーを浴び、ベッドに倒れ込む。瞼を閉じると、今日の死闘がよみがえる。連携の妙。命を削る攻防。そして新たに得たスキル――【麻痺銃】。
あれは俺の弱点である「速度」と「射程」を補ってくれる力だ。まだまだ不完全だけど、使いこなせば大きな武器になる。しっかり訓練して、磨いていかないとな。
「……はぁ。やっと眠れる……」
安堵の息をついた瞬間――。
「マヒルさーんっ! 飲みなおしましょう、ですわぁ~!」
「……肉、うまかった」
(いや本当に肉食ってたんかい!よく食えたな、あの後に!)
ドアを蹴破らんばかりに現れた酔っ払い二人組。ベルは頬を赤くし、おっさんのようにぐでんぐでん。ラヴィは無表情なのにうっすら頬を染めて目がトロンとしている。
こうして、俺の静かな夜は、一瞬で終わった。
「……頼むから寝かせてくれぇぇぇ!」
最後まで読んでいただきありがとうございました!
感想、ブクマ等いただけると励みになります。
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m




