53話 マヒル、明日を狙い撃て!
至近距離で、躱す間もなかった。俺の【パライズ】をまともにくらったミノタウロスが、硬直してその場に突っ立った。
「べ、ベルぅ……!やれぇ……!」
情けない声が漏れた。声が裏返って、我ながらダサい。だが、そんな俺の後ろでベルは凛と叫んだ。
「いきますわよ!【サモン・セバスチャン】!!」
瞬間、床に広がった魔方陣から――ドンッ! と“腕”が落ちてきた。白い手袋、漆黒のスーツのいかにも執事風の腕だ。
「ひぃっ!」
俺は反射的に小さく悲鳴をあげてしまった。だって怖いんだよ、あれ。何度見ても慣れねえって!
その直後、セバスチャンの右腕は弾丸のような速さでミノタウロスへ一直線! ズドォン! と痛烈な右ストレートを叩き込み、巨体の怪物を豪快に吹っ飛ばす。
だが――
「ブモォォッ!」
麻痺が解けた途端、ミノタウロスは戦斧を放り捨て、素早く後退。あっという間に距離を取った。 見た目はいかついパワーファイターなのに、ただの獣や戦闘狂ではないバトルセンスを感じる。
それを追うようにラヴィが音もなく飛び出す。
「はぁっ!」
一閃。ミノタウロスの胸に深い傷が刻まれた。
――しかし怯まない。怪物はラヴィへ拳を振るい、ガガンッ!と防御する彼女ごと吹き飛ばした。土煙が巻き起こり、ラヴィの姿が遠くへ弾かれる。
「ち、ちくしょう……!」
俺は再び【パライズ】を放った。だが――
「ブモッ!」
ひらり、と。見た目からは想像できないほどの身軽さだ。あっさりかわされる。
「だめだ……動きが読まれてる……! 麻痺らせられないなら、俺の存在意味ねえじゃん……!」
絶望感が胸をかすめる。そんな俺に、再び巨体が迫る――と思った瞬間、俺の目の前を何かがビュンと横切った。
「……ッ!」
ベルの放ったセバスチャンの腕だ。それは一直線にミノタウロスへ――!
だがやつは迎撃の右ストレートを放ち、ドゴォッ! とぶつかり合う。セバスチャンの腕は衝撃で霧散してしまった。
「くそ……!」
「マヒルさん!」
ベルの叫びが響く。
「ワタクシ、あなたの麻痺を信じてますわよ!」
「ベル……!?」
「さあ、牛の化け物! そこの麻痺オタクがあなたを“麻痺らせる”まで、ワタクシのセバスチャンが何度でもお相手いたしますわ!」
魔力を消耗しているであろうベルが、肩で息をしながらも啖呵を切る。
ラヴィも刀を構え直し、静かに呟いた。
「拙者も、相手だ……!」
胸に熱が灯る。二人が、俺を信じてくれてるんだ。
「ベル、ラヴィ……よし、待っててくれ……!」
俺はぐっと拳を握った。麻痺は効く。でも、当てられなきゃ意味がない。射程も速度も足りない。なら、どうすれば――
「……ふふっ」
頭にひらめきが走り、自然と口角が上がった。
「それなら、射程距離を長くして速度もあげればいいだけだよな」
ピコンッ。
視界にメッセージが現れる。
『スキル【麻痺銃】を獲得』
【スキル:麻痺銃 Lv1】 効果:高速、長距離に及ぶ麻痺の弾を狙った箇所へ放つ。対象箇所を5秒間麻痺させる。
消費MP:10
「……きたぁぁぁぁぁっ!!」
俺は思わずガッツポーズした。すぐさま二人へ叫ぶ。
「ベル! ラヴィ! もう大丈夫だ! あいつを痺れさせてやるぜ……!」
俺は左手を銃に見立て、ミノタウロスへ狙いを定める。
「麻酔銃もびっくり、即効性の麻痺弾だ! くらえ――【麻痺銃】!」
瞬間、風がサッと抜けるような静けさ。そして、ほぼ同時にバシュンッ!と放たれた麻痺弾は、十メートル以上離れているミノタウロスの腰へ、一瞬の内に直撃した!
「ブモッ!?」
体の中枢を麻痺らされ、がくん、と体勢を崩すミノタウロス。その隙を逃さずラヴィが切り込む! 二度、三度と斬撃が走り、怪物の体に傷を刻んだ。
ミノタウロスは狂ったように腕を振り回しながら迫り、戦斧を掴み直す。そして――俺との距離は、もう数メートル。
「ブオォォォォォォッ!!!」
咆哮とともに斧を振りかぶる巨体。その迫力は、正直、泣きそうになるほどだ。だが俺は負けじと狙いを定める。標的は――足!
「これで決める……! 【麻痺銃】!」
バシュッ! 再び弾丸のように麻痺弾が放たれる。ミノタウロスが認識する間もなく足を直撃! 勢いのままに倒れ込み、巨体が片膝をついた瞬間――
「セバスチャンッ!」
ベルの号令で飛来する腕。それをミノタウロスは斧で迎撃した瞬間――がら空きになった胸元にラヴィがするりと迫る。
「……これで、終わり」
ラヴィが深々と刀を突き立てる。怪物の胸に――!
「ブ、ブブォッ……」
巨体が揺れ、そして――ドサリ、と崩れ落ちた。
――静寂。
「か、勝ったぁぁ……」
俺はばたんっとその場に倒れ込み、か細い声を漏らした。駆け寄ってきたベルが隣にしゃがみ込み、俺の胸をトンッと叩く。
「ナイス麻痺!」
「あいてっ! ……ベル、サンキュー」
俺は手を差し出す。ベルがその手を掴み、ぐっと立ち上がらせてくれた。そのとき、ラヴィも戻ってくる。
「ナイストドメ!」
俺はグーサインを突き出す。ラヴィは無言で、けれどしっかりとグーを返してきた。
……俺たちは、勝ったんだ。
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