51話 アルクーンに迫る脅威
俺たちは、昼過ぎにギルドへ戻ってきた。
馬車の御者席でベルが「ふぅ~」と息をつき、ラヴィは荷台から無言で降りる。
俺はといえば、収穫した薬草の束を抱えながら、街に帰ってきた安堵感にひたりつつあった。
……のだが。
ギルドの前からなんだか騒がしい声が聞こえてきて、俺は足を止めた。中に入れば、その理由はすぐに分かった。
ざわざわ……いや、わいわいガヤガヤ。冒険者たちがあちこちで声を上げている。
「おい聞いたか?」「近くで出たらしいぞ!」「まさか本当に……」
――こういう時、主人公は耳ざとく情報を拾うものだ。
近くで飲んでいた二人組の冒険者にさりげなく近寄り、耳を澄ます。
「ああ、ミノタウロスが出たらしい!」
――はい出ましたァァ!
(ミノタウロス!?って、あの!?)
心の中で叫びながら、俺は興奮を抑えきれない。
やばいやばい、またしてもファンタジー代表選手みたいなモンスターがご登場です!
ていうか俺の頭の中じゃ、もう完全に「迷宮の守護者」ポジションなんだけど!?
あいつだよね!?人間の上半身に牛の頭が生えた、でっかい戦斧振り回す筋肉モリモリ怪物だよね!?
「……なんだか楽しそうじゃありませんこと?」
横からベルがジト目で俺を見る。ラヴィは相変わらず無言だが、腕を組んだまま目を細めている。
いやいや、俺だって危険なのは分かってる!でもさ!異世界で「ミノタウロス」って単語を聞いたら、テンション上がるに決まってんじゃん!?
とりあえず報告を済ませ、報酬の千ゴルドを受け取るとカウンターの奥から俺を呼ぶ声が――
「マヒルさん!……もう聞きましたよね?」
クールで知的な受付嬢、セラーナさん。通称セラ姐だ。(俺が勝手に読んでるだけだが)
「え? あぁ、ミノタウロスのことですか?」
「そうです」
彼女は眉をわずかにひそめて続けた。
「あなたがゴブリンを倒した時に、調査していた“謎のモンスター”を覚えていますか?」
「あー……いましたね、そういえば」
「……忘れてたんですか」
セラ姐はため息をつき、真剣な目で俺を見据えた。
すいません、そんな冷たい視線を向けないでください……
「くれぐれも、近付かないでくださいね。相手はランクCです」
「わ、分かってますって!俺だって危険な目にあいたいわけじゃないですから!」
本音を言えば、ミノタウロスを一目見たい気がするんだけど……いやそこは黙っとこう。
「そういえば、ミノタウロスって普通に生息してるもんなんですか?」
「……いや、普段は迷宮にしか現れないモンスターです。それが街の近くへ出現したので、対応が滞っているんです」
「へぇ……散歩って訳じゃなけりゃ、本当に異常事態なんですね」
「そりゃあそうですよ……お願いですから、近付かないでくださいね?今、Cランクの冒険者に召集をかけているところなので、数日は気を付けていてください」
「了ー解です」
俺がひらひら手を振ってギルドを出ようとした、その時だった。
――バンッ!
勢いよく扉が開き、ギルド職員が駆け込んできた。
「ほ、報告です!ミノタウロスが移動を開始、近くの放牧場へ向かっている模様!」
「なっ……!」
セラ姐が息を呑む。
「くっ……あそこは食糧供給の要だってのに。すぐ動ける人は?」
「Dランクの冒険者が数名いますが……」
「Dか……よし、それでも声をかけて――」
職員が言葉を重ねる。
「それが、すでに話をしましたが……その冒険者たちはどこかへ行ってしまったようで」
「……逃げた、か」
セラ姐が額を押さえる。その姿に、ざわめいていた周囲の冒険者たちは沈黙した。
俺はベルとラヴィを見た。ベルは強気な視線を返し、ラヴィはグッと拳を握る。そてし二人は無言で頷いた。
よし。決まりだ。
「あの、セラーナさん」
「……なんですか」
「俺たちなら、すぐ動けます」
「……あなたたちが? だめです、相手はCランクなんです。危険すぎます」
「Cランクなら、この前倒しました。もちろん、過信はしてません。でも今動かないと、本当に大変なことになるんじゃないですか?」
セラ姐は唇を結び、長い沈黙のあと――深いため息をついた。
「……無事で帰ってくるんですね?」
「任せてください!」
「もちろんですわ!」
「倒す」
俺、ベル、ラヴィの声が重なる。
セラ姐は目を閉じ、そして静かに告げた。
「……分かりました。非常時です。あなたたちにミノタウロス討伐の任を命じます。ただし、自分の身を優先すること」
「了解!」
俺たちは力強く返事をし、ギルドを飛び出した。
放牧場へ――ミノタウロスの元へ。
胸が高鳴る。恐怖と興奮が混じり合って。
次は、俺の「麻痺スキル」がどこまで通用するのか――。
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