4話 悪党共、俺の名を聞けい!
俺の放った【パライズ】は、兄貴とか呼ばれてたヒゲの大男に向かって一直線に進み――
「おい、お嬢ちゃちゃちゃちゃちゃっ――!?」
男の顔面がブレた。ガクガクと、まるで砂利道を自転車で通った時みたいにガクブルと。
さらに悪いことに、何か言いながら、女に向かって手を伸ばしかけたという中途半端な体勢で麻痺にかかった男は、伸びた手と開いた口をぶるぶると震わす。なんかもう、実験に失敗した時みたいな絵面。ホラーかよ。
「ちゃちゃちゃっ――!?」
「兄貴ぃっ!?」
「えっ、えっ、なに!? こわっ、こわいですわっ!!」
その姿に圧倒されてか、金髪ツインテールの女がすっくと立ち上がり二歩三歩、後退。いや、あの距離であの顔面芸されたらチビるわ。
そして大男は麻痺ったまま体勢を崩し、女に向かって倒れそうになり――
「いやあぁぁぁぁッ!!」
パァンッッ――!!!
澄んだ音が草原に響いた。
稀に見る全力のビンタである。風を切り、えげつないスイングスピード。その一撃は、大男の顎を――完全クリティカルヒット!!!
「ぶへっ……」
兄貴とやら、頭を傾けたまま白目を剥く。
バタリと崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
(えぇぇぇぇぇ!?)
俺、びっくり。ツインテール、もっとびっくり。
「し、しまった……あたりどころが悪かったんですわ……!」
「兄貴ぃぃぃぃっ!?!?」
残されたチビ野盗が膝から崩れそうになる。
「お、おい、てめぇ……何しやがった!? バカみたいに震えてたじゃねえか、兄貴がよォ!!」
「し、知りませんですわ! 目の前で急に気持ちの悪い動きをされたワタクシの身にもなってくださいまし!」
いや、どっちも正しい。
俺のスキルで麻痺ったところに、痛烈なビンタが入り、完璧なダウン。
黄金の連携というか、究極の事故というか……これが運命の歯車ってやつか。
「て、てめえええええぇぇっ!!」
ついにチビ野盗がブチ切れた。怒りに任せて、ツインテールに向かって猛然と迫る……!
その腕が金髪ツインテールの肩にかかろうとした瞬間――
「待てい、悪党め!!」
俺、棒を高々と掲げて登場!悪漢に襲われようとする今、まさにベストタイミングだ!マントも仮面もないけど、まさにヒーローの登場!これは痺れるぜ……!
しぃんッ――
風が草をそよぎ揺らす。背後で、どこからか鳥の「ピョッ」という鳴き声が聞こえた。
「は?なんだお前」
「え?」
チビ野盗のさっきまでの威勢はどこへやら、訝しそうな目で俺を見る。さらに、金髪ツインテも同じような目で俺を見る。
いや、おかしいだろ!普通、「なんだお前は!?」って言われて俺が高らかに名乗りを上げる最高のシーンのはずなのに、何急に冷めてんの!?あと、そこの金髪、お前もなんでそんな目で俺を見る!?
「あの……どちら様でしょうか……?そんなみすぼらし格好をして……」
金髪ツインテはゴミでも見るかのような冷たい視線を俺に向ける。お前の格好も大概だろうが!
「いや、ほら、危なそうだと思って助けに……きたつもりなんだけど」
金髪ツインテとチビ野盗は顔を見合わせて、気まずそうに苦笑いを浮かべる。
「……まあ、状況的にはそうかもしれないけど……なあ?」
「え、ええ……悪漢に襲われかけていた、か弱き乙女、のはずでしたわ……」
「……なんか、冷めちゃったわ。ごめんな」
俺はチビ野盗に頭を下げられた。え、いや、違う違う。もっとこう、ハードなアクションが展開される予定だったんだけど……
「兄貴がぶっ倒れたことだし、ちょっと帰るわ。また、機会があれば、な」
そう言って、野盗は兄貴とやらを引きずってどこかへ行ってしまった。無言の間がものすごくつらい。胸が締め付けられる。
何か、何か言って空気を変えないと…!
「……せ、正義は勝つ!」
「はぁ?」
彼女の吐き捨てるような言葉が胸を貫いた。
ああやばい、すっごく泣きそう。
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